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三人称視点です。
両脇の髪を三つ編みに編んだ、黒髪で丸眼鏡のいかにもな文学少女が、病室のベッドでノートに文字を綴っていた。日本語で記されたそれは、ファンタジー世界の空想の物語であった。少女が集中して執筆していると、病室の扉が静かに開かれる。制服を身に纏った、薄紫の髪の女子高校生だ。
「あっ、すみれさん!来てくれたんですね。こんにちは。」
「こんにちは、蒼さん。調子はどうですか?」
「まだ歩けないけれど、身体の痛みは引いてきました。」
「よかった。これ、お土産の期間限定ドーナツです!」
そう言ってすみれと呼ばれた少女が差し出したのは、有名ドーナツチェーンのお土産の箱。中を開くと、これ以上ないくらいの甘い香りで部屋が満たされる。スマートフォンを持ったすみれは、二人でドーナツを持って自撮りをした。二人が写った写真はチャットで直ぐに共有される。
「加工してSNSに上げようかな?」
「食レポ付き?」
「このドーナツは、食レポ済み!」
二人の出会いはとても良いものだったとは言い難い。交通事故にあった蒼が出血多量に陥った時、稀血であった蒼は輸血を受けられずにいた。しかし偶然近くに居たすみれが、これまた偶然にも同じ型の稀血であったのだ。こうして一命をとりとめた蒼はすみれに感謝し、輸血が必要でなくなった今でも交流を続けている。
「そういえば、小説は今も書いてるの?」
「うん。でもね、事故にあったあの日から……もしかしたらすみれさんの血を貰ったときから、たまに夢にすみれさんがでてくるの。」
「ええ?私が?」
「本当はメリバな恋愛を書きたかったんだけど、すみれさんが『みんな幸せになってほしい』って言うから……。一度今まで書いた小説を全部書き直して、すみれさんみたいな純粋な女の子を出して、ハッピーエンドへ導いてくれる物語にしたの。でもね、いつも私の中で好き勝手するからどんどんお話が変わって行っちゃって──」
「ちょ、ちょっと待って!私が蒼さんの中にいる?ってどういう事?」
「うーん。あくまでも夢の中に出てくるってだけですよう。キャラが勝手に動くというか……。」
「字書きの言う事は分からないなあ。って、私もキャラなんだ。」
「行く行くは王子様とラブラブの予定ですよー。」
「じゃあ喜んでも良い……のかな?」
すみれは蒼の天然さに疑問を抱きつつも、そこが蒼の良いところだと信じていた。
「あっ!そろそろ塾の時間だから、またね!」
「じゃあね、すみれさん。……この物語はきっとハッピーエンドになるから。待っててね。」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回は第一章最終回の予定です。




