幕間:おるすばん
シトロン視点の短いお話です。
アイル様とスミレ様がサロンへ行くために屋敷を空ける数時間、お屋敷は私とマリー様の二人で過ごすこととなります。マリー様は非常に繊細な方で、まるで小動物みたいな可愛さをお持ちでした。お返事をするときは頬を紅潮させてぺこりと頭を下げます。
マリー様のお仕事はお花の水やりに庭木の手入れ。お買い物はアイル様の担当だそうで、マリー様は庭より外には出ないようにしているとの事でした。
「いつもお屋敷の外に出なくて、退屈しませんか?」
「アイルも居るし、主様もいるので、寂しくないです。おうちがあるだけで、幸せです。」
遊びたい年頃でしょうに、なんて健気なのでしょう。このお歳で住処の重要性を認識している辺り、幼少期に苦労されているのかもしれません。
「では本日は、私のお手伝いをしていただけますか?」
「おてつだい……?」
そこで私は、マリー様と一緒に過ごせるよう共にお仕事をすることといたしました。マリー様は「でも私、失敗しちゃう」と乗り気ではございませんでしたが、そこは私が全力でサポートいたします。
お掃除中に陶器の傾く音がすれば颯爽と駆け寄り受け止めます。お洗濯物は物干し竿に手が届かないので、シーツを渡してくれるだけで良いのです。お皿洗いは、割れない素材のものだけやってもらいました。カトラリーやステンレス製のボウルなら、落としても割れる心配はございません。これでマリー様の自己肯定感が上がればとても良いことです。
「疲れていないですか?」
「だいじょうぶ!たのしいです」
「それはよろしゅうございます。そろそろご夕食を作るお時間です。スミレ様達が帰って来る時間を予測して、丁度良い時間に出来上がるように頑張りましょう。」
「がんばりましょう。」
包丁には触らせない。火の番をさせる時はごく弱火で。教える時は常に後ろに。気をつけることは口に出して伝える。これだけ守ればマリー様も怪我せず安心して調理できるでしょう。
「一緒にメニューを考えましょう。今あるものは……」
「チキン、ミルク、玉ねぎ、トマト。チーズとパンもあります。」
「小麦粉は……ありました。では、グラタンとミネストローネは如何ですか?グラタンなら、スミレ様達が帰ってきてから焼けば良いので楽ですよ。」
「グラタン!大好き!」
「フフッ、じゃあそうしましょう。」
◇◆◇
「た、ただいまー……。」
「おかえりなさいませ、スミレ様。」
「アイル、おかえり!あのね、わたし、今日いっぱいおしごとできたよ!お料理も、シトロン様とがんばったの!」
「ただいま、マリー。偉いな、よく頑張った。……シトロン嬢。感謝します……本当に。」
マリー様はアイル様をぎゅうと抱きしめて、アイル様はマリー様の頭をずっと撫でています。微笑ましい光景です。
「スミレ様、今日のご夕食はグラタンとミネストローネです。」
「やったー!グラタン大好き!」
こうして私とマリー様のおるすばんは何事もなく完遂した次第です。




