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『血塗られた狼と贄の羊』と私←食レポ聖女って誰の事ですか!?  作者: 牧蒼
第一章 『血塗られた狼と贄の羊』
27/39

24:外堀を埋められた魔術師は神様の愛を知る

「聖女よ、プラムから言伝だ。『魔術書の用意が出来た』と。」

「ルー様。私を連れて行って下さい。再び、メタリカへ──。」


 今度はちゃんと今日中に帰ることをヘンゼルさんと約束してからメタリカにやってきた。ルー様とメタリカに来るのも何回目だろうか。プラムさんの工房を覗いたら、目にクマができたプラムさんが手を降って駆け寄ってきた。


「私の最高傑作がついに完成しました!ヘンゼル殿下の主属性である風属性魔術を中心に、治癒・防御などの厳選した魔術式を緑色のインクで書き記してます。その数なんと100超!それ以外にも見て下さい、この小さな文字列……これは劣化防止の術式で本を物理的な損傷から守る役割を担ってます。この金の箔押しは只の装飾ではありません。魔力の通電を良くするための媒体です。これによって素早い速度で魔術を発動することができるんですねー。最後にこの本のために誂えた緑魔石を表紙に接合して、いざという時に大魔術を使えるように備えました。これぞ『私の考えた最強の魔術書』ですう!」


 一息で語り終えたプラムさんは満足げな表情で本を掲げた。それだけの超大作、一体いくら出せば釣りあうだろう。私は少しのお金を残して、今回の出版で得た収入のほとんどを提示した。価格にして15万デール……メタリカの通貨に換算したらどのくらいになるのかは分からないけれど、そこまで大きくは変わらないはずだ。


「これで足りますか?」

「え……ええーーーっ!こんなにあったら、1年は遊んで過ごせちゃいますう!」

(やっぱりそのくらいはあるんだ……。)

「流石にこんなには受け取れません。半分……いや三分の一くらいでも十分です……。」

「それは少なすぎると思いますよ?この魔石とか金箔とか、用意するの大変だったんじゃないですか?」

「んー。確かに、本を作るのに使った費用のほとんどは外注した部分です。箔押しや魔石のカット……あと上質なインクとかですねえ。材料費をペイできるくらいで良いんですが。」

「それだけじゃなくて、プラムさんの技術が込められてるでしょう?魔術を構築?とか私にはさっぱりですもん。それを使う人の特性に合わせて~なんて、普通の人にはできませんよ。職人技です。それに本の装丁が魔術に特化するよう考えられていて、それくらいの価値はあるかなーって思うんですが。」


 そこまで聞いたプラムさんが目をうるうるさせてたので驚いて声をあげてしまった。


「ど、どうしたんですか!?」

「わたしの魔術式、こんなに褒められたの、初めてです……。魔術式は最終的には文字を書くだけだから、舐められる事が多いのです……。本当は、いっぱいいっぱい考えてるのに、それなのに……うわあああ~ん!」


 おろおろする私をよそに、ルー様がプラムさんを抱きしめて慰めた。


「今までプラムを見てきたから分かる。お前の技術は随一だ。もし貶すような者がいれば、只では済まさない。」

「ふええん……ルゥ様……。」


 あ、今ルー様がハートに矢が刺さったような顔してる。キュンを超えてギュンッて感じの。あざとい台詞をあざとくないように言えるのは正直羨ましいな……これが天然ものか。


「じゃあ、じゃあっ!せめてご飯くらいは奢らせてくださいっ!」

「ええー?でもそれで受け取ってくれるんだったら、お言葉に甘えて……。」

「おすすめの羊料理屋さん、とっても美味しいんですよぉ」

「へ~!羊……」


 瞬間、この空間が寒気を覚えるような鋭いものに変わった。羊……そうだ、羊といえば……『ルーサンギーヌ様に羊肉を出してはいけない。羊を想起させる料理や、羊料理の話も駄目です。』ヘンゼルさんがそう言っていた事を思い出す。恐る恐るルー様の顔色をうかがうと、貼り付けたような無の表情が一層恐ろしさを引き立てた。


「汝は……羊を贄にするのか……?」

「ルゥ様?」

「!……何でもない。二人で行ってくるといい。」


 まるで初めて会ったときのようなルー様の反応に不安を覚えたが、プラムさんの一声で元に戻ったから大丈夫……なのかな?私は貰った本を鞄に入れてプラムさんについていった。


 少し移動して羊料理の専門店までやって来た。ヘクセンでは羊料理が実質禁止されているようなものなので、こちらの世界に来てからは初めての羊料理だ。店先で出しているラムケバブも捨てがたいが、「オススメはなんといってもステーキですう!」とのプラムさんの言葉を信じてステーキを注文する。焼き立ての香ばしい香りが食欲を刺激する。


「いっただっきまーす!」


 二人で声を揃えて、切ったお肉にかぶりつく。羊の独特な香りと臭み消しのスパイスが相互作用で旨味を高めあっている。久しぶりの羊肉、たまらない……。


「ルゥ様、なんだか怒ってました?」


 怒っていた、というのはあの豹変ぶりの事だろう。でもすぐ元のルー様に戻っていた。


「私ルー様を怒らせた事あるけれど、比じゃなかったですよ。」


 今思い出しても身震いしてしまう程の怒声。あれと比べたら怒った内に入らない……としても、不安になる気分も分かる。ルー様はプラムさんに対して優しい面しか見せてこなかっただろうから。


「私もよく知らないけれど、羊肉を出すと怒るらしいです。」

「ひえぇ……。気をつけますう。」

「でも、どうですか。ルー様はうるさくないですか?」

「うるさくないですよう。私が集中しているときは静かに見守ってくれます。イェイス殿下の方がよっぽどうるさいです。」


 ははは……イェイス殿下なりに二人をサポートしてくれてるのかな……。


「でも、ずっと工房に居座って困ってないか心配になっちゃう。」

「困って……ないです。ルゥ様が来てくれてから毎日が楽しいです。」


 おや?私が思っているよりも進展しているのだろうか。思い切って踏み込んだ話をしてみた。


「ルー様とお付き合いすることは考えてませんか?」

「お、お付き合い!?ひゃぁ……」


 目を瞑って真っ赤な顔になったプラムさんには脈アリの気配を感じる。ルー様のしつこい訪問攻撃は無駄では無かったようだ。


「考えた事はあります……でも、一度そうなったら二度と元に戻れないような危うさも感じてるんです。それに神様だから……絶対に私の方が先に死んじゃうじゃないですか。そしたらルゥ様可哀想……。」


 そうか。種族の違いによる寿命の違い……頭に無かったなあ。そもそもルー様、長寿どころか不死だって言ってたよね。


「でもそこまで考えるくらい、ルー様の事意識してるんですね。」

「お、恐れ入りますう」

「あ!プラムさんの前世、ラム様が転生の魔術を使っていたじゃないですか。それを使うのはどうでしょう?」

「前世?転生……?」


 嘘。もしかして、ルー様プラムさんに何にも話してないの?もしかしたら、ルー様が隠していた事を話してしまったんじゃないか。でもここで黙るのも不自然だし……ど、どうしよう。


「あの。何かあるなら、聞かせてほしいです。ルゥ様が何で私なんかの事を好いてくれるのか、皆目検討もつかないので。」


 本人から言われてしまってはしょうがない。私は、私の知っている全てを話した。『予言書』もとい『神話』に書かれていたルー様達の過去のお話。ルー様とラム様の仲が引き裂かれ、ルー様が何百年間も一人だったこと。ラム様が不完全な転生の魔術で記憶を引き継がないまま転生したこと。それが貴方であること。


「転生の魔術……本当に、そんな凄い魔術を私が作り出したんですか!?」

「本にはそう書かれていたけど、ルー様は納得していました。」

「もしかして、聖女様の力で私達を引き合わせてくれたんですか?」

「そういう事になる……のかな?」

「何だか、スミレさんの話を聞くと懐かしい気分になるのです……。不思議と嘘じゃないって確信します。ああ、何だか、今凄くルゥ様に会いたいです。」

「ふふっ、帰りますか?」


 私の問いに頷いたプラムさんは、お会計を済ませたあと駆け足で工房へと戻っていった。しかし、肝心のルー様の姿がそこにはなかった。工房の中にも、周辺にも。仕方ないので工房で帰りを待つことにした。魔術書について話したり、ヘクセン城下町グルメマップをプレゼントしたり。他愛のない会話で時間を潰していた。日も沈みかけたそのとき、夕日を背に、長い影が工房の前で止まった。


「ルゥ様!」

「プラム……?」


 プラムさんがルー様を抱きしめて、衝撃でルー様の手から何かがコロコロと落ちた。早熟のプラムだ。


「すもも……プラム。」

「少し、考えていた。俺がすももを食べたからといって、お前(プラム)が贄になるわけではない。羊も……そうだ。」

「それは……私にとっては当たり前ですが、ルゥ様にとっては辛い事だったんですね。」


 ルー様が頷いて、プラムさんを抱きしめる。


「プラム、お前には隠していた事が……。」

「スミレさんが全部教えてくれました。だから、大丈夫です。」

「そうか……。羊が……お前が贄となったあの光景が今でも忘れることができない。だから羊を食す事は許せなかった。でも今はお前がいるから、もう心配ない。」


 落としたプラムをルー様が拾い上げ、儚げに見つめた。


「庭にすももの木を植えたい。いつでもお前を感じられるように。」

「そこに私が居ても良いですか?」

「プラム……?」

「何だか離れたくないんです。ルゥ様……。」


 プラムさんが、背伸びをして──その先を言うのは野暮というものだ。何だか私も、ヘンゼルさんに会いたくなってきちゃったな。魔術書の入った鞄ごと抱きしめて、胸の苦しさを誤魔化していた。

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