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『血塗られた狼と贄の羊』と私←食レポ聖女って誰の事ですか!?  作者: 牧蒼
第一章 『血塗られた狼と贄の羊』
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19:僕の、私の、存在意義

前半はスミレ視点、後半はヘンゼル視点です。

 昨日と今日と、ルー様はプラムさんに会いに行った。


 そしてついに、原作小説の中身に進展があったのだ。


「また内容が変わってる!……え?」


 ──逢瀬を重ねたルーサンギーヌとプラムは、次第に心を(ぐちゃぐちゃに塗り潰されている)やっぱり書けない。プラムが本当の意味で愛されるなんて、そんなことありえない。ありえない。ありえない。ありえないから、メリバにしてるのに、最近はラブラブのルーとプラムの事ばかり考えてしまう。……やっぱり(また塗り潰されている)──


 これは、お話じゃない……原作者の感情……?それに、私達の行動は少なからず物語の内容に影響を及ぼしているという事で間違いなさそうだ。私は試しに、そのページにメモを付け足した。『ルー様もプラムさんも幸せになってほしい』……っと。そして次の日。私の書いたメモはぐちゃぐちゃに塗り潰されていた。私の気持ちが否定されたのか、それとも単に異分子として処理されたのか。どちらにせよ原作者と対話できるようには思えなかった。


 何とかして話せないかな。原作者と。そう願いながら明日に向けて眠りについた。


 深夜3時、ふと目が覚めてしまった。眠りなおそうとしても中々寝付けず。仕方がないから『原作小説』でも読もうかな。と鞄に手をかけた……その時、違和感に気が付いた。軽い。明らかに。慌てて鍵を開けると、『血塗られた狼と贄の羊』は姿を消していた。嘘だ。失くした?仕舞い忘れた?部屋中探し回るも見つからず、只時間だけが過ぎ去っていく。……夜中だけど、あそこに行ってみよう。私は音を立てないよう静かに書斎へ向かった。鍵を開けようとして違和感に気付く。鍵が、開いている……?そっと扉を開けると、書斎の机で羽ペンを持って本に何かを書いている人物が居ることに気がついた。


「……誰?」

「きゃっ!」


 驚いた彼女は、()()()()()()()()()()()()人物だった。髪の毛が黒くなったプラムさんそのものだったからだ。


「プラムさん?……の訳ないよね。」

「すみれさん?すみれさんが何で此処にいるのですか?」


 え?私を知っているの?驚きと困惑で何から話せばいいか言葉が出てこない。


「あ、そっか。これ夢だからすみれさんがいるんだ。」

「……夢?」

「私は今小説を書いていました。でも最近筆が進まなくて……。」

「あーっ!それ、私が失くしたかと思ってた……。」


 プラムさん?が書いていたのはまさしく私が探していた原作小説……『血塗られた狼と贄の羊』だ。ということは──


「貴方が、この小説の原作者さん?」

「そうだよーって、前にも話したじゃないですか。今書いてるんだーって。」

「???」

「夢の中のすみれさんだから、知らないのかな?私あまり動けないから、よく妄想してるのです。いつか小説を書いて、本にするのが夢なのです。」

「へえ……じゃあ私はその本の中に入っちゃったんだぁ……。」


 誰かは分からないけれど、小説が書きかけだったのはそういう事らしい。本の中に本があることはいまいちよく分からないけれど……この人が原作者なら、お願いできないだろうか。物語をハッピーエンドにしてください……と。


「あの……私もそれを読んだんです。でも最後はこの世界が滅んじゃうんですよね……?だからお願いしたくて、書いてみたんです。ルー様もプラムさんも幸せになって欲しいって。」

「あ……あれ書いたの、すみれさんだったんですね……。」


 原作者さんは少し困ったような表情をして、人差し指でこめかみをかいた。言うのをためらっていたようだが、深呼吸の後意を決したように思いを打ち明けてくれた。


「ラムは、プラムは私自身なのです。ルーは私の理想の男性。でも本当の私に魅力なんてないし、ルーに好かれるような女性じゃないの!それを小説の中で好き勝手設定を付けて、ルーが私を好きになるように仕組んで……。これでいいのかなって、ずっと……」

「良いに決まってるでしょ!」


 出てきた言葉は、気づけば声に力がこもっていた。ちょっと失礼だったかなと口を押さえつつ、私の思いを原作者さんにぶつけることにした。


「想像の中なら何をやっても自由だもの。ハッピーエンドもメリバも自由。でも、本当は幸せになりたいのに自分を傷つけるために世界を壊しちゃうなんて、そんなの勿体ないよ……。だからあんなに投げやりな終わり方だったの?」

「……投げやり?」

「うん。世界が破壊されるシーンは描写も無くて、ルー様がプラムさんを閉じ込めて終わり。ルー様とラム様が旅をしながら愛を深めるシーンは二人の身分の関係とか心情が丁寧に書かれていたのに、最後は……まるで書きたくないような終わり方だったもの。」

「書きたくない……。私が、あのラストシーンを。……全くその通りで言葉も出ないです。でも、愛されたいって、思っても……良いのかな……。」

「……私にだって、愛されたい人がいるもん……それって駄目なことかな……?」


 驚いたような顔で私を見た原作者さんは、一拍後首を横に振った。


「愛される……ちょっと恥ずかしい。でも、良いんだよって、ずっと誰かに言ってほしかった。もうちょっと待っててほしいです。私の納得できるストーリー、考えてみるから。」

「お願い!この世界が失くなっちゃうのは、悲しいから……。」


 そう言って原作者さんの手を取ると、にこりと笑って手を握り返してくれた。そこから先は、テレビの電源を消したかのようにぷつんと途切れた──



 古い紙と埃の匂い。何か夢を見ていたような……。でも、何も思い出せない。いつの日か初めて目覚めたときのように、私はここで再び目を覚ました。違った事は、テーブルの上にあった筆記用具が無くなっていたこと。そしてもうひとつ──


「『血塗られた狼と贄の羊』が、無い……。」


 急いで自室に戻り鞄も調べるも、結果は同じだった。昨日も、確か夜中に起きて本が見当たらなくて、書斎を見に行ったはずだ。


「──レ様……スミレ様!」


 呼ばれていることに気がついて声のした方へ振り返ると、シトロンが慌てた様子で私に駆け寄ってきた。


「先程からお呼びしていたのですが、上の空で……声を荒げて申し訳ございません。如何なさいましたか?」

「シトロン……どうしよう……。本が、本が……。」


 本が、無いの。私、あの本が無かったらただの女子高生。物語の結末を知ることができないただの部外者。魔法も魔術も使えないでくの坊。不安で不安で、思わずシトロンに縋り付いた。ごめんなさい。捨てないで。言葉になっているかも分からない言葉を吐いて、泣いて、ただただ謝り続ける事しかできなかった。



 ◇◆◇



「予言書が消失し、混乱状態になってしまったようです。今は落ち着いてお休みになられています。」


 シトロン嬢から報告を受け、僕とアーブルはこれからの事について考えていた。正直、僕は予言書なんかよりもスミレの方が心配だった。


「スミレは何か言っていた?」

「……捨てないで、ごめんなさいと……」


 スミレは自責の念にかられている。彼女が起きたら気に病むことは無いと伝えなければ。


「僕が、聖女だ何だと持て囃しすぎたせいだ。」


 スミレはあの本が無いと自分の責務を全うできないと、そう考えているのだろう。ましてやその原因が自分にあるかもしれないというなら、なおさら自分を責めるに違いない。そこまで追い詰めてしまったのは、僕が彼女の能力に依存しすぎたせいだ。思えば彼女がここに来た日から、ずっとその能力にすがってきたのはこちらではないか。


「僕はスミレが本を失くしたとは思ってない。盗まれたか、あるいは……いや、そんな事はどうでもいい。たとえ本を失くしたのがスミレだったとしても彼女を責めたりはしない。」


 それは国王として本当に正しいのだろうか?他の者が同じ状況に陥ったとき、同じように罪に問わないと言い切れるだろうか。人によるとしか言えない。やはり僕は国王に向いていないらしい。あの横柄で自分の欲に忠実だった両親の事を思い出して、あの血が自分にも流れているのだと、殊更実感してしまった。


「シトロン、下がって良い。アーブル、侵入者の形跡が無いか入念に調べて欲しい。兵を動かしても構わない。」

「は。」


 シトロン嬢とアーブルが執務室を出ていき、僕は一人になった。スミレ……。君を慰める事ができない自分がもどかしい。ルー様とイェイス殿下と和解できたというだけで、君は既にこの国を救ったといっても過言ではない。


「僕だけができることって、一体何があるんだろうね。」


 そんな事を考えている間に、外の様子がなんだか慌ただしい事に気がついた。執務室のドアを開けると、丁度シトロン嬢が此方に向かってくるところだった。


「どうかした?」

「も、申し訳ございません!スミレ様が、スミレ様が……失踪してしまいました!」

「は?」


 突拍子もない事に、思わず困惑の声が漏れ出る。スミレが……失踪?どういう事かというと、シトロン嬢が戻ったところにこのような手紙が置かれていたらしい。


 ──お城の人達へ

 本を失くしてしまってごめんなさい。今まで本を持って出かけたところを探してきます。本が見つかるまで戻るつもりはありません。 すみれ


 目眩で今にも倒れてしまいそうだった。()()()()()()()()()()()()()。故に、この置き手紙はスミレ自身が書いたものだと推測される。が、その内容が分からないのだ。本を探してくる?美味しいものでも食べてきます?この城から出ていく?もしも一生戻らなかったら……僕は……。今までのスミレとの会話が走馬灯のように思い出される。


『私達、二人で一人の王様になりませんか?』

『私もヘンゼルさんに助けてもらってばかりで、ずっと力になりたいって思ってたんです。私が困ったらヘンゼルさんが、ヘンゼルさんが困ったら私が。助けあいましょう。』


 そうだ。僕達は二人で一人の王になろうと誓ったじゃないか。それなのに君が困ったときには一人で消えてしまうなんて、ひどいじゃないか。


「スミレを迎えに行く。」

「しかし、スミレ様は何処へ……」

「ルー様を呼び戻す。」


 僕は便箋を取り出して走り書きで要件を綴った。宛先は、イェイス殿下。スミレが今まで本を持って出かけたところはメタリカ以外ない。ということはルー様と一緒にメタリカへ行った可能性が一番高い。仮にスミレが一緒じゃなかったとしても、ルー様の魔力が枯れ果てるまで転移魔術を使わせて探し出してみせる。


 ──すぐにルーサンギーヌ様とスミレを呼び戻して欲しい。すぐに。今すぐに。早急に。


 書いたら直ぐに転送装置でメタリカへ送る。後はすぐに見てくれるのを祈るばかりだ……と思っている間に、『りょ』と書かれただけの紙の切れ端が現れた。了解という事だろう、話が早くて助かる。さあ、彼女が帰ってきたらどうしてやろうか。いっそ檻にでも閉じ込めてしまおうか。戯言が現実になる前に、早く帰っておいで。

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