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『血塗られた狼と贄の羊』と私←食レポ聖女って誰の事ですか!?  作者: 牧蒼
第一章 『血塗られた狼と贄の羊』
2/39

2:書斎と私②

本日更新二度目です。

 窓から指す朝日が体の覚醒を促す。今何時……?スマホ、スマホ……いつも枕元に置いてあるそれを手探りで探すも見つからず。いいや、眠いからまた寝ちゃお……。


「……って駄目だ!学校!」


 学生の務めを思い出し身を起こす……が、眼の前に広がるのは知らない部屋──ではなく、昨日私に充てられた豪華絢爛な部屋。日本人が家族で暮らすマンションの一部屋よりも遥かに広く、自分が寝ていたベッドは日本で言うキングサイズよりも大きい。私、本当に異世界にいるんだ……。


 異世界といえば、昨晩はとても凄かった。何が凄いって、ヘクセン料理のフルコースだ。ヘクセン流は私の世界で言うフレンチやイタリアンと組み立てが似ていた。お品書きのようなものは無かったから、何が出てくるか分からないサプライズのようでワクワクしながら料理を待っていた。


 まず最初に食前酒……は私は飲めないので、ノンアルコールのシードルをいただいた。シードルといえばりんごのお酒、というイメージだったので飲んだのは初めて。ヘクセンの北方に美味しいりんごの産地があるとヘンゼルさんに教えてもらった。100%りんごジュースの果汁の甘さも好きだが、すっきりと洗練された甘さと微発泡の口当たりが爽やかで何口でも飲めそうだった。『好きな飲物リスト』に入れておこう。


 前菜(オードブル)はカナッペ。クラッカーに塗られたクリームチーズの上にカットしたアボカドとみじん切りされた玉ねぎのマリネが乗っており、クリームチーズとアボカドのまろやかさとお酢の酸味の調和がなんとも絶妙で、ヘンゼルさんに止められなければお腹いっぱいになるまで食べるところだった。ヘクセンはチーズ作りも盛んらしい……色々と期待してしまう。


 スープはじゃがいものポタージュ……と見た目で思ったが、一口飲んでびっくり。じゃがいもとは違うねっとりした舌触りと複雑な味がした。聞くと、モロマメイモというヘクセンの特産品だとか。こちらの世界で言えば山芋と枝豆の間の子、といったところかな。


 魚料理(ポワソン)はなんと、サバ・エビ・ウニの押し寿司だった!マヨネーズにホースラディッシュを加えたソースも独創的だ。四角く小さく盛り付けられていると、確かに洋風っぽいかも……。日本料理にも同じものがあると興奮気味に伝えると、「定期的に用意させるよ」と約束してくれた。きっと海が近くにあって、新鮮なまま調達できる環境なんだ。なんて自由な世界。小説の作者さん、ありがとう……。味も勿論、私の知るお魚さん達だった。


 口直しにはオレンジとゆずのような果物をミックスしたスムージーが出された。ミントが飾ってあってオシャレなカクテルみたい。一口飲めば柑橘の爽やかな香りが口の中に広がり味覚がリセットされる。スムージーって確かミキサーを使うんじゃなかったかな?この世界にもあるのだろうか。それとも不思議な魔法みたいなものでも使うのかな。今度、ここの調理場を見てみたいな。


 お待ちかねの肉料理(アントレ)は牛フィレ肉のポワレにバルサミコソース。揚げたモロマメイモが付け合せに添えてあった。味は勿論、美味しい!こんなに良い牛肉を食べたのは、私が高校受験に合格して連れて行ってもらったフレンチ以来だろうか。先程スープでいただいたモロマメイモは、そのままだと小さなジャガイモくらいの大きさだ。カリッ、シャクリ、ネットリ、とした三種の食感が口の中を喜ばせる。「これは他国にも売れますよ!」と言ったら「もう売ってるよ?」と笑われてしまった。ちょっと恥ずかしかった。


 お肉を食べ終わった頃、大きなトレーを持った給仕さんがやってきた。チーズだ!ヘクセンでは領地毎に特産のチーズがあり、各地自慢のチーズを持ち寄って振る舞い合う『チーズ会』なるものもあるとか。絶対に行きたい。給仕さんにチーズを食べるか聞かれたので、食い気味に「全部ください!」と答えてしまった。かなり量があったのでヘンゼルさんは慌てていたが、給仕さんが機転を利かせて少量ずつスライスして出してくれたので、めでたく全種のチーズを堪能することができた。各地のチーズの食レポを後でノートにまとめておこう。


 そして最後にデセールを出された瞬間、私は驚いて硬直してしまった。先程別れを惜しんだミルフィーユが目の前に現れたからだ。どうして私がこれを食べたいのが分かったのか聞いたら、「さっき呟いていたから」と。どうやら、ミルフィーユを思い浮かべてる間無意識に口に出していたらしい。という事は、ヘンゼルさんがわざわざミルフィーユをリクエストしてくれたということで。それが何だか嬉しいような、もどかしいような、申し訳ないような、ふわふわ不思議な感覚を覚えた。きっと王様だから、客人の要望に応えられるよう、些細な事にも気がつけるよう尽力してるんだ。口に運んだミルフィーユはやはり美味しくて、今後も美味しい料理を食べられる事が嬉しくてポロポロと涙が出てしまった。ヘンゼルさんが慌てて「そんなに美味しかったかい?」と聞いてきたので頷いて答える。でもそれだけじゃなくて、ヘンゼルさんの心遣いが嬉しかった。


 全ての料理を平らげ、ヘクセンの食材の豊富さや調理の技術に感動した事を伝えると、建国当時の王様が美食家で、一番力を入れて発展させた分野らしい。今でも近隣国と食材や調理機材の輸出入に力を入れているとか。飛ばされた世界がヘクセンで良かった……。心から思った瞬間だった。しかし、あの美味しさを写真と共に皆に共有したい……。SNSが無い事が、この世界唯一の欠点だ。今のところ。


「……スミレ様は美食家のようです。胃袋でヘクセンに留めましょう。」

「うん……他国の家庭料理なんかも調査してみよう。」


 ──そんな密かな会話があった事を、スミレは知らない。



 ◆◆◆



 昨晩のご馳走を心の中で反芻しきった私は、例の書斎に足を運んだ。夕食後、ヘンゼルさんから書斎の合鍵を貰ったので一人でも書斎に入れるようになったのだ。失くしたらいけないと思い、革紐を貰って首からネックレスのようにぶら下げて大事にしている。その合鍵を使って錠を開け、念の為ノックをする。「どうぞ」と聞こえたので扉を開けると、既にヘンゼルさんとアーブルさんがソファに腰掛け待ち構えていた。


「すみません、お待たせしてしまいましたか?」

「いいや、気にしないで。予言書の内容が気になって、つい早く来てしまったんだ。──そのドレス、とても似合っているね。」

「あっ……。ありがとうございます。」


 ヘンゼルさんが指さしたドレスは、私の部屋にあったものを拝借したものだ。あの部屋にあるものは全て私のものだということで、その中でもシンプルで着やすそうなものを選んだ。……それでも私にとっては華美すぎるのだが。


「侍女が居なかったので大変でしたでしょう。数日後には専属の者を付けさせますので、暫しの辛抱を。」

「侍女さん!?そんな、私にはもったいないです!確かにドレスを着るのは大変でしたが……。」


 実際、ドレスを着るのに数十分も格闘していた。着方があっているかも不安だ。


「あの部屋もドレスも、勝手に使ってしまって良いのでしょうか……。」

「心配しないで。あの部屋は妹が使っていたものだから。」

「妹さん?」

「妃殿下の事も含めまして、我が国の現状をお話いたします。さ、こちらに。」


 そういって椅子を引いてくれた。アーブルさんはヘンゼルさんの補佐役だと言っていたけど、ここまで世話を焼いてくれるのを見ると執事さんみたいだな、と思った。そして座った後、私の注力はテーブルの上のものに全て奪われた。


「クロワッサン!」

「遅ばせながらご朝食です。カフェラテはお好きですか?」

「嬉しいです!いただきます!」


 サフ、と一口齧りつけば、コクのあるバターの香りが体中に駆け巡る。断面は数が数え切れない程何層にも重なっており、これがまた絶妙な食感を生み出している。カフェラテは少し冷めていたが、熱すぎるのは苦手なのでこのくらいが丁度良い。


「スミレさんは何でも美味しそうに食べるから、見ていて飽きないな。」

「それはこの国の食べ物が全部美味しいからです!美味しいものが大好きだから……。」

「それはようございました。では、食べながらで良いのでお聞きください──」


 ──我が国の事を話す前に、ヘクセンの東側にございます隣国『メタリカ王国』についてお話いたします。メタリカでは5年程前、謎の組織による王政への反乱が起こりました。それにより王は殺害され、革命が成されたのです。情報統制されているため首謀者の名や犠牲者数など、現在も詳細は明かされておりません。そしてその僅か3日後、今度は前王の子孫である第一王子『イェイス・デ・メタリカ』が革命をし返し、元の鞘に収まりました。……我が国が関わるのは此処からです。ヘクセンの前王……ヘンゼル殿下のお父上がメタリカの混乱に乗じて戦争を仕掛けたのです。


「戦争!?」

「……愚かな人だったよ。浪費家だった前王妃に唆されて、土地も科学技術も手に入るってね。」

「メタリカは蒸気と歯車の国。蒸気機関による科学の発展が著しく、その権威に目が眩んだのでしょう。暗躍をしていたのは前王だけではありません。王弟とその子孫達もまた、王座を狙っておりました。兵が首都に集中していたために対応が遅れたメタリカは、かなりの被害を被りました。国境に面する街を占拠しようとした、その時──我が国の神、『ルーサンギーヌ様』が我が国の兵を薙ぎ払ったのです。」


 ……ん?


「神様?」

「ええ、我が国の神は非常にお強いのです。」

「あ、いや、えっと……神様?が、存在するんですか?」

「スミレさんの国には存在しない?」

「えっと……信仰はあるんですが……現実に存在することは無いといいますか」

「なんと。では一先ず、王族より権力を持った不老長寿の超能力者が各国に居るとでも思ってください。実際そうですから。」

(それで良いんだ……。)


 ──神々からしてみれば人類の行動は娯楽のようで、戦争なんかは見世物のひとつでしかありません。今回のように人類の戦争に介入するといった事は今までございませんでした。しかしルーサンギーヌ様だけは、『人が死ぬ』ことを異様に嫌っておいででしたのです。……尤も、それを知ったのは今回の件があったからこそなのですが。ルーサンギーヌ様は『人間を殺す人間』を次々に()()なされました。王命に従った兵や領主、王弟とその子孫、そして王と王妃──残ったのは、最後まで戦争を止めようとした我々『ヘンゼル派』、そして殿下の妹君であらせられるグレーテル様のみでございました。こうして前王が起こした戦争は呆気なく終結したのです。殿下が若くして王に即位したのも、このような事情がございました。殿下以外に、王位継承権を持つ人物が存在しないのですから──


「僕等は処刑を逃れたのではなく、蛮行を止められなかった責任を負う為に生かされたんだ。まずはメタリカへの詫びとして、グレーテルを嫁がせた。」

「妹さんを……」

「人質のようなものだよ。でもグレーテルは自ら志願したんだ。何をされるか分からないというのに──」

「毎週のように手紙が届いているではありませんか。疑っている内は、親交など深められません。今は向こうを信じるのです。」

「そう、だね……。──と、話が逸れたけれどそういうことが5年前にありました。我々はやっとまともに政治ができるくらいに復興したけれど、依然として危うい……ってところかな。」

「はい、質問です。」

「なんでしょう、スミレ様。」

「私、何一つお力になれそうにないのですが……。」

「そこであの『予言書』です。この国は今まさに滅亡の危機を迎えております。スミレ様が予言書から何かを読み取る事で解決する問題があるかもしれません。」

「これからの課題は2つ。『メタリカとの関係の回復』そして『ルーサンギーヌ様との和解』。」

「和解?」

「件の戦争でルーサンギーヌ様は非常にお怒りです。あの方が殿下を王と認めなければ、良くて国外追放、最悪は前王同様処刑されるでしょう。」

「そんな、ヘンゼルさんは止めようとしたのに……」

「しかし幸いな事に、戦争を止めようとした殿下を民は支持しております。民の期待に応える事が、和解への近道かと。」

「同時にメタリカへの対応も忘れてはならない。5年経ったがイェイス王との会談も数えるほどしかできていないんだ。」

「処刑された領主の代わりを探して各地を回っていましたからね。その件はスミレ様がこちらの世界に来る直前に解決済みです。これからは外交に力を入れる事も必要です。」

「やるべきことが山積みだ。何から手を付ければ良いかわからないくらいに……しかし、君が来てくれた。」

「……私が予言書を読んでこれから起こる事を知ることが出来れば、有利に立ち回れる……と言う事ですね?」

「うん。よろしく頼むよ。」


 そういう訳で、私は例の予言書を開いたのだった。少しパラパラとめくってみると、

「あれ?このページ真っ白だ……あ、こっちの方も……」

「うん。文章が消えたり書き加えられたり……未来?かは分からないけれど、何かが変わっていくから『予言書』だと伝えられてきたんだ。」

「不思議な本……。あ、でも最後の方はちゃんと書いてある。」


 結末は決まっている……って事なのかな?ちょっと読んでみよう──

 ……


 ……え?


「スミレさん?」

「すみません、今読んでるので少し待っててください。」

「ご、ごめん。」


 ……


 …………


「……大変です……」

「……スミレさん?何が……」

「このままだと、この世界は滅亡するって……」

「なんだって!?」

「なんですって!?」


 二人が綺麗にハモる。


「原因はヘンゼルさん、貴方です!」

「ぼ、僕のせいで……?」

「スミレ様、それは一体どういう……」



「ヘンゼルさんが恋に落ちると、この世界は滅亡します!」



 拝啓、作者様。

 貴方の(へき)はとても良く分かりました。

 でも、異世界転移(トリップ)先でメリーバッドエンドはおやめください──。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

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