17:プラム嬢籠絡大作戦①
パーティから一夜明けた早朝。約束通りルー様が城までやってきた。ヘンゼルさんも見送りのためにわざわざ早くから起きてくれた。
「メタリカへはどうやって行くんですか?」
「転移魔術を使う。」
おお!噂に聞く転移魔術。一瞬で遠くまで行けちゃうという優れモノ。でも確か……
「ものすごい魔力を使うと聞いてますけれど……」
「案ずるな。我の魔力のほんの少しで事足りる。」
「ははは……。僕らだったらここからメタリカ王都まで飛ぶには魔石100個は必要だね。」
流石は神様。そう言うとルー様は自身の腕をナイフで切──!?
「キャー!?」
「案ずるな、と言っているだろう。これが一番魔力効率が良いのだ。」
そう言うとルー様は何も無いところから杖のような長い棒を取り出した。床に垂れた自分の血を付けて魔文字を書いていく。数字に見えるものが、所謂『座標』だろうか?しかし、もう少し何とかならないのだろうか……。こう、インクとか……。ルー様が魔文字を書き終えると、魔力に反応した魔文字が赤く光りだした。先程まであったルー様の傷はいつの間にか跡形もなく塞がっていた。
「国境を超えますが、手続きはお済みですか?」
「昨日メタリカ国王に入国許可証を書かせた。」
「書かせたんだ……良い感じに使われてるな、イェイス殿下。」
「後は我が魔力を注げば転移魔術は発動する。準備は良いか?」
「はい!いってきます、ヘンゼルさん!」
「……はやく帰っておいで」
そう優しく微笑んで見送ってくれた。ルー様が私とはぐれないよう肩を掴んで、魔力を魔術式に吹き込む。転移魔術って初めてだからドキドキするなあ。思わずぎゅっと目を瞑る。体がすこしふわっとしたかと思えば、体に当たる風の温度と空気の匂いが変わった気がして目を開ける。するとそこには今まで目にしたことのない、機械と蒸気機関の街が広がっていた。蒸気で飛ぶバイク、ジャンクを売っているおじさん、家の上に建っている家。全部が新鮮に見えた。
「これからどうします?」
「ここに姿絵がある。王都の者に見せて回ろう。」
「わあ、写真で見たラム様とそっくり……。誰が描いたんですか?」
「アイルだ。彼奴は器用貧乏から貧乏をとったような奴だからな。」
絵も描けるんだ。本当に何でもできる人なんだな。性格はあれだけど……。そうして姿絵の彼女を探して早数分。
「あぁ、この娘だったら魔術工房んとこのだわ。地図書いてやっから紙よこしな。」
「わぁ!ありがとうございます!良かったですね、ルー様!」
ルー様は目を細めて、わずかながら微笑んでいたように見えた。書いてもらった地図の通りに、『工房』と呼ばれていた場所に向かう。異国から来た私からしたら、何処も彼処も工房に見えるのだけれど。そんなこんなで工房にやってきた私達。少し遠くから、中の様子を伺ってみる。
「おーい、この杖に『スイープ』の術式頼むよ。」
「はいはーい。」
店先にでてきたのは、白いふわふわの髪で丸メガネの女性。まさにあの日写真で見たラム公爵と瓜二つだった。
「ラムッ……!」
「待ってルー様!もう少し様子を見ましょう!」
「おや、この杖質が悪いですよ。杖は一定以上の魔力を注いだら壊れちゃうですけど、この杖で耐えられる魔法は精々『フラッシュ』くらいです。」
「えーっジャンク屋で買ったからかな。」
「……お兄さん、ジャンク屋はジャンクが売ってるからジャンク屋なのです。」
私とそう変わらない年なのに、ちゃんとした仕事をしてるなんて尊敬しちゃうな。そう思ってルー様の方を見てぎょっとした。ルー様が、ぼろぼろと大粒の涙を流して泣いているのだ。
「ラム……。生きている、ラムが……。会いたかった、ずっと……。」
「ルー様落ち着いて下さい。ほら、ハンカチです。」
ルー様がラム様を失ってから、もう何百年も月日が流れている。その分感情も大きくなるのも無理はない。
「聖女よ。俺はどうしたら良い?」
「えっと……今考えてるのは、『一目惚れしたので花束をプレゼントします作戦』です。」
「花……。ラムの好きな花……白い花、だ。」
「じゃあ買いに行きましょう?」
近くのお花屋さんに行って、白いバラ、ユリ、カスミソウ……沢山の白い花でできた花束を作ってもらった。……ところで、重大なことに気がついてしまった。私達、メタリカのお金持ってない!
「どど、どうしましょうルー様!」
「……店主、魔石は入り用か」
そう言ってルー様が出したのは手のひら大の赤い綺麗な魔石。それを見た瞬間、店主さんが飛び上がって「これに見合う花は当店にありません!」と驚愕した。「では砕こう。」と、今度はその魔石を5等分くらいに分けた。
「これくらいでどうだ?」
「こんな上質な魔石をいとも簡単に砕いて……貴方がたは一体……」
そこは内緒なので悪いけれどスルーさせてもらおう。これでもまだ過分だと言うので、バラを増やしてリボンやレースで豪華に装飾してもらった。私達は店主さんにお礼を言うと、こちらこそと魔石を握りしめている。魔石って通貨になるくらい高価なんだ……ン?魔石?
「ルー様、その余った魔石、花束に差して一緒にプレゼントしてみては?」
「ラムが喜びそうだ、そうしよう……。」
そんなこんなで準備を終えた私達は、例の工房まで戻ってきた。幸い今はお客さんは居なさそうだ。
「さあルー様、準備は良いですか?」
「あ、ああ。」
ルー様が!プラムさんに!近づいて!今!
「……一目惚れした。俺と結婚してくれ。」
プロポーズ!って……違ーう!!!早い!早すぎるよ!でも言ってしまったものはもう戻れない。プラムさんの反応は!?
「……。」
ああ、放心状態だ。駄目かも。
「……ん、ン!?その魔石、ちょっと見せて下さい!……こ、こんな上質な魔石見たことないです……あ、貴方!凄い魔力を持ってるのですか!?」
「人よりは……多いだろう……。花も魔石も、全部やろう……。」
「あ、ありがとうございます……。変な人ですけど良い人かも?」
な、なんか上手いこといってる?なにかできないか……そうだ!今の私には『原作小説』があるのだった。首につけていた鍵で鞄の錠を開ける。ルー様とプラムさんの出会い、出会い……。あった!……あれ?この間と変わってない……。行動を起こしてすぐには変わらないのかな?
「これから毎日……会いに来ても良いだろうか……。」
「毎日?良いですけど、貴方お名前は?」
「……ルーだ。ルーと呼んでくれないか」
「ルーさんですね。私はプラムです。結婚はわかんないですけど、まずはお友達からということでいいでしょうか。」
「結婚は……まだ……。」
せっかく良い感じなんだからそこは譲歩して!しょぼんとしているルー様はまるでおあずけされた子犬のようだった。へたれた耳としっぽが見える……。こうしてルー様とプラムさんの出会いはなんとか成功(?)した。
◇◆◇
その日の内に帰ったらヘンゼルさんに驚かれたり、ルー様は何処か上の空だったり、メタリカの料理を食べ忘れたり、波乱の一日だった。ヘンゼルさんには「日帰りならそう言ってよ!」と怒られてしまった。「明日も行きます」と言ったら更に呆れられてしまった。だってルー様の転移魔術が便利すぎるんだもの。
「ねえ、スミレさん」
「なんですか?」
「僕に何か……隠している事はない?」
ギクリ、と胸が嫌な音をたてた。メタリカに行くことの意味、予言書のためだって言ってからそれっきり。プラムさんの事は言えないけれど、変に心配をさせるのも罪悪感が募ってもう限界だ。
「はい、あります……。でも、予言のせいで伝えることができません。」
「そっか……。教えてくれてありがとう。」
そう言って私の頭を撫でるヘンゼルさん。
「なんで……ずっと、隠してたんですよ?騙してたようなものなのに、なんでそんなに優しくしてくれるんですか?」
「だって今、正直に言ってくれたから。過去のことはもう関係ない。それに僕も……君に隠し事をしている。」
「え?」
「そんな僕を、君は恨むかい?」
「そんな訳ありません!」
「ありがとう。それと一緒だよ。君が僕を許すのも、僕が君を許すのも、一緒。」
私の髪を撫でる温かな手が心地よくて、ずっとこの時間が続けば良いと思った。




