幕間:王と聖女のすれ違い
『ルー様だから許すけど、他の男とだったら絶対に許さないから。』
私は先程言われた言葉をずっと反芻していた。他の男とだったら許さない……。それはどういう意味?単に二人じゃ危ないから?
「それとも、嫉妬……してくれたり、するのかな。」
もしルー様とプラムさんの仲を取り持つ事が出来れば、もうヘンゼルさんに隠し事をする必要は無くなる。だとしても、この胸の内は伝えられるだろうか。只の高校生が、王様に告白だなんて。それに、王様と好い仲になるということは、只の恋愛とは全く異なる。……私に王妃の器があるとは思えない。
今日のダンス一挙一動を思い出す。触れ合って、見つめ合って、何か通じ合ったようにも思えて。
ねえ、ヘンゼルさん。ヘンゼルさんは私の事どう思っているの?今すぐ知りたいのに、一生知りたくない。
「好きで好きで、どうしよう……。胸が苦しいよ……。」
◇◆◇
『これでルー様とのメタリカ旅行でも本が読めます!』
全く聞かされていなかった、スミレの計画。後で知ったことだが、アーブルはスミレがルー様とメタリカに行くという計画だけは知っていたらしい。
何か……何か、大事な事を隠されている気がする。
『ヘンゼルさんが恋に落ちると、この世界は滅亡します!』
『……陛下はいずれとある女性と恋に落ちると予言されております。それがある神の逆鱗に触れてしまうとの事です。』
「ルー様の好きな人がスミレだとしたら……全て辻褄が合ってしまう。」
僕とスミレがもし……恋に落ちて。ルー様の怒りを買ってしまったとすれば……。予言通りの『破滅』が待っているのかもしれない。破滅と自身の恋路、どちらをとる?そんなの決まっている。
「元から、知ってるだろ……。恋なんて、できる立場にないって……。」
天井に向かって吐き出したところで、何の返答も返ってきやしなかった。それどころか──
「おい!ヘンゼル!飲もうぜ一緒によぉ~」
……招かれざる客、というのはこういう奴の事を言うのだろう。一体この世に、ノックもせずに王の部屋まで来れる人間は何人いるのだろう。よく見ると衛兵が「お待ち下さい!」「殿下!申し訳ございません!」と涙ながらに訴えている。赤い顔をしたイェイス殿下を見て色々と察し、衛兵を下がらせた。幸いな事に、今の僕も飲みたい気分ではあった。
「ヘクセンのりんごワインとペールエールが俺ぁ気に入りだぜぇ~」
「イェイス殿下は意外と甘党?プラム酒はどう?」
「飲むぜ~。ロックで頼む」
「氷無いからストレートね。」
果実酒ならたまに飲むから部屋の冷蔵庫に入ってる。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけれど。キヴィ国製の彫刻が美しいグラスを2個棚から取りだして薄茶色のプラム酒を注ぐ。
「良いグラスだ。キヴィの一級品だな?石と水の国キヴィ、久しく行ってねぇなぁ~。ここ魔術と美食の国ヘクセンのまた更に向こうだもんな~……美酒にカンパーイ」
グラスを合わせると美しい音が響き渡る。久々に飲んだプラム酒はひどく甘くて、濃厚な喉越しにすぐ酔いそう……に……。
「ていうか、イェイスはひとのへあに勝手にはいるんやないよ!」
「ぐえーっ怒られた。でもノーダメ。ギャハハ!」
「ひんのないわらい……」
「それグレーテルにも言われたー。兄妹だぁねー」
そんなすぐには酔わないけど、体がぽかぽかしていい気分だ。おしゃべりが楽しい。イェイスとこんな風に話すの、何年ぶりだろう。スミレが来てから、国が良い方に向かってる気がする。はあ、スミレ。スミレが……
「……れが……」
「おん?なんて?」
「すみれが、ぼくに隠し事してるんらよ!」
「おっ!良いぞ良いぞ!もっと吐き出せ!」
「ルー様とメタリカに旅行するって……明日から……」
「なんじゃそりゃ!行くなら俺も連れてってー帰るーやだー帰ったら仕事が溜まってるー」
「へえ、きみも仕事とかするんだ」
「辛辣~。言っとくけどおまえの親父がふっかけた戦争の後処理おわってねぇかんな~」
「あーあーそれ出されるとなんも言えないよ!」
「ギャッハハ!……去年までのお前は萎縮してまともに話もできなかったが、随分とまあ元気になって……こりゃあスミレ嬢に感謝だな。あとプラム酒ちゃんっ」
──翌朝。
何故かソファで寝ていた僕。そして何故か僕のベッドで爆睡しているイェイス殿下。何が何だかわからないが、スミレ達を見送らなくては。僕は急いで城のエントランスへと向かった。




