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『血塗られた狼と贄の羊』と私←食レポ聖女って誰の事ですか!?  作者: 牧蒼
第一章 『血塗られた狼と贄の羊』
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14:英雄(仮)のパレード

 期待と不安が募る中、ついに聖女お披露目パレードの日がやってきた。朝から何処も彼処も大忙しで、私はおめかしにもう3時間はかけている。パレードのドレスは清廉潔白のイメージで、白の絹に金の刺繍が施された贅沢なデザインだ。髪には真珠の粉を振りまいてキラキラに。ネックレスは雫型の大きなアメジストが何個も。少し前の私なら……いや、今もちょっとだけ、身の丈に合ってない姿に申し訳無さを感じていた。けれど今の私は自分の役割を分かっている。王国は大丈夫だって、皆に示すための勝負服だから。堂々としなきゃ。


「スミレ様ご用意できました!」

「馬車で待機だそうです!」


 今日乗る馬車はパレード専用の特別なもの。オープンカーのように屋根はなく、側面はレースや花で装飾されている。今はまだ閉じられている城門の前に、その馬車は停まっていた。外の様子は見えないけれど、大勢の人で賑わっている声がこちらまで届いている。馬車馬は2頭の白馬。片方の馬には見覚えのある人が乗っていた。


「ノワさん、お疲れ様です!」

「聖女様!馬上から失礼いたします!殿下と聖女様を乗せた馬車馬に乗れる誉れ、誠に光栄です!」

「大袈裟ですよお。今日はよろしくお願いしますね。」

「はっ!」


 ノワさんが敬礼したのを真似して、馬車へ乗り込んだ。今日のパレードは馬車で城下町を一周して、最後に城門前でスピーチをする手筈だ。リハーサルなんかはできなかったから、ぶっつけ本番でちょっと不安だな。遅れること数分、白い礼服姿のヘンゼルさんが馬車に乗り込んできた。


「スミレさん、お待たせ。今日の君は……一段と綺麗だね。」

「あ、ありがとうございます……ヘンゼルさんも!格好良いです。」

「今日この日を迎えられたのは君のおかげだ。だから精一杯楽しんでほしい。」

「……はい!」


「正面口、開門します!」


 城門の重い扉がゆっくりと開かれる。民衆の声がどんどん大きくなっていき、馬車が姿を現すとそれは大歓声となった。


「ワー!」

「殿下ー!」

「聖女様ー!」


 たくさんの笑顔と歓声を一身に受けて、何故だか涙が零れそうだった。私はまだ何も成し遂げていないのだから、泣くのは全て終わってからにしよう。手を降っている人達に私も手を降り返す。馬車にお花を投げ入れてくれる人が多い中、花束まで飛んできたのでキャッチして礼をする。ふと、街道にすみれの花が植わって……ずーっと先まで、たくさんのすみれの花!?


「ヘンゼルさん!なんですみれがあんなに!?」

「ああ、あれは……各地から取り寄せたやつだね。今日はこれだけしか集められなかったけれど、来年の春はもっと用意するよ。」

「これだけって……十二分です!……あ!なんだかそこら中いい匂いがします!」


 辺りを見回すと、軒先で屋台を出している飲食店が何軒も。牛串焼き、果実水、モロマメイモフライ、いか焼き、チキンケバブ、パンケーキ、りんごあめ……


「あれ!あれ食べたいです!」

「どれかわからないけど、今は我慢ね?」


 馬車が城下町を一周する頃には、たくさん降ってきたお花で馬車はいっぱいになっていった。ある女の子がシロツメクサで編んだ花冠を贈ってくれたので冠ってみたら、ヘンゼルさんが笑ってくれた。そろそろパレードも終点。なんだかあっという間だったな。そんな中、私はスピーチという超重要任務に緊張していた。この間の記者会見のときはアイルさんの台本と勢いとでどうにかしたけれど、その時とは環境も人数も違う。まずはヘンゼルさんの挨拶があるから、その間に緊張をほぐしておかなきゃ。


「皆の者、本日は救国の聖女の顕現を記念するパレードに集まってくれたこと、心より感謝する。

 彼女は異界の文化を受け入れる柔軟な精神と、いかなる困難にも立ち向かう勇気を備えている。

 私は彼女こそがこの国を救うと信じ、ここに全面的な支援を誓おう。」


 湧き上がる拍手と歓声。ヘンゼルさんという国王を国民が支持している事の何よりの証しだ。そして拡声器が私に手渡される。深呼吸、深呼吸……。


「皆さん、初めまして。香坂すみれと申します。今日はお集まりいただきありがとうございました。私より皆さんのほうがご存知かもしれませんが、ヘンゼル国王殿下は心優しく慈愛に満ち溢れたお方です。突然異界に来てしまった私を何度もサポートしてくれました。私は国王の愛するこの国と、国民の皆様を必ずお護りいたします。明日からはまた、いつも通りの日常をお過ごし下さい。その日常が少しでも華やかになるよう、ここからお祈りしております。」


 最後に深くお辞儀をしてスピーチを終える。たくさんの拍手と歓声が、私の心を震わせた。すると大衆の中から一人、跳躍してこちらにやってくる人がいるではないですか。突然の接近に弓や剣を構える兵をヘンゼルさんが手で制する。馬車の前で着地したその人がフードを脱ぎ去るとそこには……。


「ルー様!」


 我らがヘクセンの神様、ルーサンギーヌ様の登場にどよめきの声があがる。ルー様は戦争を止めた立役者でもあるが、『粛清』をした恐ろしい面もある事を国民は知っている。


「久しいな、国民達よ。」


 ルー様が喋りだすと、拡声器もないのに不思議と声が周囲に響き渡る。


「ヘクセン王が代替わりしてからの数年間、王の器たるか我は見定めていた。結論から言おう。ヘンゼルは未熟ではあるが、正しい道を歩めば歴史に残る偉大な王となるに違いない。そして聖女という希望と共に、国民の未来を更に明るく照らす道標となるであろう。故にここに宣言する。我はヘクセン王ヘンゼル・救国の聖女スミレの両人を支持すると!」


 一際大きな喝采が城下を包む。神様に認められたという意味の大きさは計り知れないが、きっと良い方向へと向かうに違いない。こうして聖女お披露目パレードは大成功で幕を閉じた。


「ヘンゼルさん、私……きっとこの国を救いますね。」

「ああ。その時は……もしも許されるのなら、君に伝えたい──」


 伝えたい?なんだろうと様子をうかがっていると、不意に手を伸ばして私の髪についた花弁を取ってくれた。そしてそのまま、花弁に唇を落として──。


「まだまだたくさん付いているから侍女たちにとってもらいな。勿論、そのままでも可愛いけどね。じゃあ、夜会の準備があるからまた後で。」


 そう言ってヘンゼルさんは城内へと走っていった。伝えたいって、お花が付いてたこと?なんてずるい人だろう。どうしよう。胸が苦しいよ。



 ◇◆◇



 パレードが終われば次はパーティ。時間が迫っているから皆大忙しだ。かく言う私もドレスの着替えや化粧直しをひかえている。エントランスで待っていたメイドさんが、私に気づくなり駆け寄ってきた。


「お疲れ様でしたスミレ様!急かしてしまい申し訳ございませんが今すぐパーティのご用意を始めます。」


 頷いて早足で着いていく。部屋では他のメイドさん達も待機していて私を迎えてくれた。今回のために仕立ててもらった最後の一着は、薄緑でスカートの長いエレガントなドレスだ。お茶会で着たドレスが大輪の花なら、こちらは花びらが舞っているように花弁に似せた布や小さな宝石で飾られている。


「素敵……」


 思わず口に出してしまう程綺麗で、これを着られる自分はなんて幸せ者なんだろう。同時に、何としてでもこの世界を救おうと、野心にも似た感情で心に誓った。ドレスアップにメイクを終えた私は、王族用のホール入口へ向かった。


「あ、新しいドレスも似合ってるよ」

「えへへ、これも全部ヘンゼルさんのおかげです。ありがとうございます。」

「……緑色は僕の目と髪の色だけど……何か勘違いされたのかな……それともスミレが選んで……」

「?」


 何かをブツブツ唱えているが、何と言っているか私の耳には届かなかった。私達の入場を知らせるのは騎士団長のノワさん。軽く手を降ったら敬礼で返してくれた。


「栄光ある我が国の君主、国王殿下ならびに救国の聖女のご入場であります!」

「さあ、行こうか。」

「はい。」


 ヘンゼルさんにエスコートされ、華やかな会場へ──

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