幕間:必死で踊る聖女
いつもより少し短いので幕間としました。
「スミレ様、ダンスの練習をなさいませんか?」
「へ!?ダンス!?」
パレードの開催が1ヶ月後に決まり、城内外問わず慌ただしいムードの今日此の頃。私は相も変わらず『プラムさん捜索作戦』のために原作小説とにらめっこしていた。そこへシトロンがやってきて、どういうことかダンスの練習をしようと提案してきた。
「お忘れですか?パレードの後はパーティが開かれます。そこで殿下とダンスする事になるでしょう。スミレ様、ダンスのご経験は?」
「えっと……運動会のフォークダンスなら……」
運動会もフォークダンスも通じなかったようで、シトロンの頭上にははてなマークが浮かんでいる。つまり、私にダンスの経験など無いに等しい。体を動かす事自体、苦手な部類だ。
「ダンスは苦手で……どうしてもやらなきゃ駄目……?」
「苦手だからこそやるべきです。スミレ様はパーティの主役なのですから。」
正直なところ、踊ってる暇があったら今一番の課題であるルー様とプラム嬢の事を考えたいのだ。重い腰を上げてシトロンについていくと、ダンスレッスン用の部屋に案内された。
「今後ダンスの講師もお呼びするかもしれませんが、まずは私が基本的なステップをお教えしますね。」
そう言ってシトロンが取り出したのはラジカセ。そっか、ラジオがあるんだからラジカセもあるよね……。カセットテープなんて、日本では既にローテクだから初めてみたけれど。再生ボタンを押すと、何処か聴いたことのあるような、クラシックな音楽が流れ出した──。
──数時間後。息も絶え絶えな私はレッスンルームの床に這いつくばっていた。進捗は……良いとこなし。姿勢は猫背気味、ステップは体が追いつかず、シトロンの足を踏むのも二桁を超える勢いだ。
「これは……良い講師と時間が必要かもしれません……。至急宰相閣下にご相談を……。」
「ご……ごめんなさーいー……」
「わあ、凄くお疲れのようだね。」
「ひゃっ!?ヘンゼルさん!?」
驚いて姿勢を正す私とシトロン。いつの間に部屋に入っていたヘンゼルさんに、不甲斐ない姿を見せてしまった……。
「シトロン嬢、男性パートのダンスは慣れないだろう。僕と交代しよう。」
「まあ、恐れ多いですが……元より殿下とダンスするための練習ですからね。スミレ様、本番だと思って踊ってみては?」
「え、え、ヘンゼルさんと……?でも私、まだまだ全然だめだめの下手っぴで……。」
「だからこその練習、だろう?」
抵抗虚しくダンスの体制を取らされる。手も繋いで、腰に手を回されて……あれ、これって結構まずいかも……。狼狽える私を置いてけぼりに容赦なく流れる音楽。シトロンと比べると当たり前だが身長も高くて体躯も良い。男の人なんだなと再認識してしまう。だめだよ、恥ずかしくて、顔なんてみれないよ……。
(照れているの?それって、僕を一人の男として見てくれているって事なのかな。もしそうなら──)
「ここは振りを大きくして、勢いで次のステップを踏むと丁度良いよ。」
「は、ひゃい」
(──嬉しい、かな。)
密着していて、集中、できない……。何度か靴の縁を踏んでニアミス状態。それでもリードしてくれているおかげで、なんだか上手くなったように感じる。
「どう?頑張れそう?」
「……精進します。」
踊り終わったのに、ヘンゼルさんは中々離れてくれない。仕方がないので自分から離れる。手汗でびっしょりさせて、嫌な気分にさせてなきゃいいけど……。
「大丈夫だよ。ダンスは僕とだけすればいいから。」
「本当ですか?」
「うん。……誰かに誘われても、断っちゃえば良い……。」
「それなら頑張れる気がしてきました!」
(はぁ、駄目だな。君が誰か別の男と踊るなんて、想像もしたくない……。)
ヘンゼルが静かな嫉妬心を燃やしている事を、スミレは思う由もない。




