夫婦の契り、酒宴の狂乱
神之児戯ep95
退治屋組合。
「ひっ!」
庵が山童の討伐証明である目玉が入った袋を受付の女の前に出すと、女は中を開けて悲鳴を上げる。
無理もない。
退治した山童は全部で五十九匹、そんな大量の目玉を見た事など今までなかったのだろう。
俺でさえ途中から回収した目玉を入れようと袋を開けるのが億劫になっていた。
「どうした?」
組合員の女の悲鳴を聞いて奥から男の組合員が出てくる。
「あっ、楠さん……、成る程、ここはいいから君は他を頼む」
「はっ、はい」
男は庵と山童の目玉が大量に入った袋を見てすぐに状況を理解する。
「山童は一匹二朱金一枚なので討伐報酬は五十九匹で小判七枚と一分金と二朱金が一枚ずつです」
男はすぐに目玉を数え報酬を用意する。
「いや〜、しかしあの時、鬼の角を持ち込んだ若者が代官になり綺麗所を三人も娶って、本来なら妬みの一つでも言われるものですが、御上から気に入られ腕も立つとなれば世間も認めて一目置かれるのも納得と皆噂してますよ」
庵が報酬を確認して巾着袋に詰めていると組合員の男は楽しそうに話す。
もしかして、依頼を受けた時に柊花が呆れた様子だったのは俺の無自覚さに呆れてたのか?
庵がそんな事を考えながら柊花を見ると、柊花は気不味そうに微笑む。
「そういえば式は挙げないのですか?」
そんな庵の考えを知らずに組合員の男は話を続ける。
「あっ……、ああ、簡単にだが、花嫁衣装くらいは着せてやりたいと思ってるが……」
「それは良いですね。式は人生の節目となる儀式ですから、女はやはりみんな花嫁衣装に憧れるらしいですよ」
――――
数日後。
夜、庵の屋敷で祝言が催された。
座敷の床の間には鶴亀や松竹梅などの縁起物が飾られ、上座には手前中央に羽織袴姿の庵が座り、庵の後方に白無垢姿の柊花、菫、百合の三人が座っていた。
招待客には桜姫と守岡を始め、柊花と菫の両親がいた。
庵と新婦たちが三献の儀で三々九度の盃を交わし夫婦の契りを交わす。
後に柊花と菫の両親が盃を交わし家同士の結びつきを確定する。
祝言が終わると琴葉と咲耶や組合員の男も加わり宴会が開かれた。
「菫から聞いていたが、良い男だ」
菫の両親が銚子を持って庵に近づいてくる。
菫の父親は庵の斜め前に座ると庵の空の盃に銚子で酒を注ぐ。
「いえ、そんな……、ありがとうございます」
庵は、ほぼ初対面の菫の両親に戸惑いながら礼をいう。
「不安がまったくなかったといえば嘘になるが、姫様や守岡様に認められた人なら間違いないだろう」
慌ただしく国中を行き来していると言うから豪快な想像していたが、温和そうな人たちでよかった。
その後、宴会は三日三晩続いた。
「うっ、気持ち悪い……」
琴葉は青ざめた顔で力なく机に突っ伏し、そんな琴葉を横で咲耶が無表情に見つめている。
「はぁ、調子に乗ってあんなに飲むからだ」
庵は琴葉の背後から呆れて溜息混じりに言う。
「酒は父上と母上への供え物からくすねて飲んでおったから、好きなだけ飲めると知ってついの、うぷっ」
琴葉が吐きそうになると咲耶は無言で背中を擦ってやる。
「お前、後半、妖狐の姿で笑いながら飲んでたぞ」
幸い周りもみんな酔っ払って気づいてなかった様だが。
「すまんのう咲耶、しかし、酒を飲み過ぎるとこんなになるなんて知らんかったわ、うぷっ」
琴葉は咲耶に礼を言うと、起き上がるのも辛いのか、突っ伏した机から横に転がり床に崩れ落ちると仰向けになって庵を見て答える。
咲耶は仰向けになった琴葉を諌めるように頭を手の平で叩いていた。
当時の結婚式(祝言)は盃を交わすくらいの簡素なもので、派手なのはその後の宴会だけらしい。
作中の様に三日三晩続けてそれくらい経済的余裕があると隣近所や世間に周知させるのが当たり前だったとか




