風を紡ぐ武人
神之児戯ep92
すると、百合の纏う霊力が百合の持った刀にも伝わっていく。
「……はっ!」
百合が木片に向かって刀を振ると刀の先から風の刃が飛び出し木片を真っ二つにする。
「わ~っ!」
それを見た柊花と菫が手を叩いて称賛するが琴葉と咲耶は無反応だった。
まあ、咲耶は元々感情表現が乏しいとして……。
「他には何かあるか?」
「……後は手刀に風を纏わせて攻撃するくらいでしょうか」
「……ふむ」
風の異能をどう使うのかと思ったが、やはり考える事は誰でも一緒か。
「……あの、何か?」
百合は庵と琴葉と咲耶の反応が良くなかったのが気になっている様だ。
いや、悪くはないんだが……。何というか、目新しさがないというか期待外れというか。
「庵が普段使っているのと同じじゃな」
琴葉は庵の気など知らずにはっきりと言う。
「……庵殿も風の異能を?」
百合は信じられないといった様子で庵を見る。
まあ、風の異能だけは精霊など、余程、異能の才能が高くなければ扱えないからな。
多分、自分以外に異能を使える人間は初めてなんだろう。
それに加えて火土水の異能しか使えないはずの人間の中で風の異能が使える自分は特別だと思っていたのかもしれない。
もしかしたら百合の矜持を打ち砕いてしまったかも知れないが。
「百合の霊力量ならもっとこれくらいはできるんじゃないか?」
そう言って庵は前に出ると手を前に掲げる。
すると、庵の目の前に小さな竜巻が発生し空に昇っていく。
「これは……」
百合は空に昇っていく竜巻を目で追いながら驚きの声を上げる。
風を操って竜巻を発生させるのは霊力を多く消費するが百合の霊力なら問題ないだろう。
「刀や手に風を纏わせるんじゃなくて、まずは目の前に風を発生させるんだ。それができたら、その風を回転させて風を強くしていく」
庵の説明を聞きながら百合は目の前に両手をかざし風を発生させようとするが上手くいかず、何がおかしいのかと自分の両手のひらを見つめる。
「多分、百合は刀や手に風を纏わせる事は想像できるが何もないところに風を発生させる事が想像できないんじゃないか?」
異能は自然現象を霊力を使って具現化する力だ。
それでもその自然現象が発生する具体的な想像ができなければ異能は使えない。
どうしたものか……、柊花は感覚で異能を使っているが、百合はこれまでの感じから型にはまった考え方しかできない性格だ。
「風というのは空気が濃い所から薄い所に移動する事で発生するんだ。空気が濃いと雲などが無く晴れ渡るが、薄い所は湿気があるので雲などがある」
元の世界の科学知識を教えても理解できないだろうから、この世界の人間にもわかりやすく説明するならこんな感じだろう。
風とは気圧の変化で発生する。
空気は気圧の高い高気圧の地点から気圧の低い低気圧の地点に流れ、この空気の流れが風になる。
また、温度差によっても風は発生し、温まると空気は軽くなり上昇し上昇気流が発生し、逆に冷えると空気は重くなり下降し下降気流が発生する。
だが、こんな説明をしても理解はできないだろう。
「雲……」
庵の説明を聞いた百合が呟きながら空を見上げると、雲が一つ空を漂っていた。
雲のある上空は地上と違い風が強いのか雲はゆっくりとだがいつもより早く流れているのが見て取れる。
「雲……、風……、流れる……」
百合は呟きながら再び目の前に両手をかざす。
すると、微かだが、かざした手の先の落ち葉が回転し始める。
説明した空気の仕組みではなく上空を流れる雲を見て理解するとは……。
風の発生原理の説明で初めは団扇で説明しようとしたけど、なんか話がダサくなりそうだから雲にしたけど、江戸時代に物理的に風を起こすものって団扇の他に何があったかな?




