楠家の怪縁
神之児戯ep90
今の流れは前回と同じ……。
庵はそのまま百合に左袈裟を打ち込むと、百合は左に移動して避けると再び庵との距離を詰め上段を打ち込んでくる。
まただ……、もしかして……。
庵がそれを眼前で横にした木刀で防ぐと百合は前のめりになり中段、下段と打ち込んでくる。
庵がそれらを防ぎ百合が上段を打ち込もうと木刀を上に構えると、突如、庵の姿が目の前から消える。
「なっ……!」
庵の姿を見失った百合は慌てて庵の姿を探そうと上に構えた腕を下げると背後から百合の左肩越しに首元へ木刀の切っ先が突き付けられる。
「そこまでっ! 勝者、庵殿!」
立会人である守岡の宣言で勝負は終わった。
「一体何が……」
勝負が終わっても百合は何が起きたのか理解できていない様子だった。
「百合は戦いに夢中になりすぎると決まった型で打ち込んでくる癖がある」
庵は百合の様子を見かねて何があったのかを説明する。
「御前試合ではたすき掛けをしていたが、今はしていないからな、上段に構えると着物の袖が邪魔をしてこちらの姿が隠れるとわかったから、下段から上段に構えるのに合わせて動いたんだ」
「……なんと!」
庵の説明を聞いていた守岡が百合の代わりに驚きの声を上げる。
「そんな癖が……」
百合は木刀を脇に挟むと自分の両手の手の平を見つめる。
どんな流派にも癖はある。それは我流も同じで、むしろ強くなり過ぎて相手のいない者はどうしても同じ型で修行しがちなので癖もつきやすい。
「感服いたしました。まさか着物の袖で視界が塞がる隙をつくとは……」
百合は庵に尊敬の眼差しを向ける。
「庵様、お怪我は⁉」
勝負が終わったのを確認すると柊花と菫は慌てて庵に駆け寄ってくる。
「怪我はない、大丈夫だ」
「本当ですか⁉」
柊花は庵の腕や身体を触りながら必死に確認していく。
「お二人は庵様が戦っている最中も気が気じゃない様子でしたから」
庵に駆け寄る二人の様子を見て桜姫は微笑みながら言う。
桜姫に言われて二人は顔を赤らめて俯く。
「ははっ、色男だな、庵殿!」
一連の様子を黙って見ていた守岡が両腕を組みながら冷やかす。
庵と三人は桜姫と守岡に見送られながら城を後にした。
――庵の家。
勝負が終わり庵たちは百合を連れて家の前まで戻ってきた。
「こちらが……」
「おう、戻ったか庵!」
門から家の敷地に入ると庭で戯れていたのか琴葉と咲耶が出迎える。
「庵殿、こちらの方は?」
百合が琴葉について庵に聞くと咲耶は百合から身を隠す様に琴葉の後ろに隠れる。
「こいつは琴葉といって俺の仕事仲間だ」
琴葉は目の前にいる百合が以前に自分が恐怖を感じた霊力の持ち主だと気づいてはいない様だ。
野生の勘で気づくかとも思っていたが、今は逆にその野生の大雑把さのお陰でひとまず揉め事にはならなくて済みそうだ。
「仕事仲間なのに一緒の家に住んでいるのですか?」
「こいつは縁あってうちで預かる事になったんだが……」
三人は俺の妻だ。
ならば琴葉が妖狐だという事も隠さず伝えておくべきかもしれない。
「あ〜、実はな、琴葉は妖狐なんだが悪い妖狐じゃなくて、親が善狐で……」
庵は琴葉の事を説明しようとするが上手く説明する言葉が見つからない。
「……あの、……庵様」
「ん?」
柊花は気不味そうに何かを言い淀む。
「……どうした?」
「柊花は我が妖狐だと知っておるぞ?」
「……そうなのか?」
「……はい、もっと早くお伝えすればよかったのですが、庵様が毒に倒れられた時に……、琴葉さんの狐の姿も見ています」
柊花は申し訳なさそうに説明する。
柊花が琴葉が妖狐だと知っている事を庵が認識してたかどうか自分でもわからなくなって琴葉が出てきたところから読み返してしまった。




