一縷の灯火
神之児戯ep85
「……くっ! はあはあ」
二十体近く首を跳ねたところで庵は腕が痺れ力が入らなくなる。
見ると琴葉も同じなのか両手を真っ黒に染め肩で息をしていた。
俺が首を跳ねたのはだいたい二十体程、琴葉も同じくらいだとして合計四十体、三百には程遠い。
「琴葉、平気か?」
「なんとかの、それよりこ奴らの臭いの方がキツくて敵わん」
言うと琴葉は鼻をひくひくさせながら顔を顰める。
「我慢しろ。狐の姿になった時よりはましなんだろ?」
そうは言ったがこのままではじり貧だ。
異能を使うか……、火の異能が駄目でも土の異能なら……。
庵は周囲を見渡す。
駄目だ、ここは砂浜に接した脆い土壌だ。
こんな所で土を操ったら漁村もろとも崩壊しかねない。
そうなれば小屋に避難した村人たちにも被害は出るだろう。
水や風の異能じゃ俺の霊力が持つかわからない。
霊力が尽きて身動きできなくなったところを襲われれば俺も亡者の仲間入りだ。
かといって、大規模な異能は放つまで時間がかかり、その隙に襲われれば終わりだ。
「琴葉っ! 狐の姿になってこいつらを一気に薙ぎ払えるか⁉」
「できなくはないが、あの姿で物量で迫られて万が一にも取り付かれたら厄介じゃぞ!」
確かに、狐の姿では力が増す分、体表面も大きくなって亡者に取り付かれやすい。
それに狐姿の琴葉が襲われて亡者にでもなったらひとたまりもない。
「この姿の方が小回りが利いて有利じゃ!」
くそっ! 物量に押されるのがこんなにやばいとは思わなかった。
一方、村人たちが避難している小屋の周りにも亡者たちが迫っていた。
村人たちは亡者に気づかれないように小屋の中で息を殺して隠れていた。
昼間、庵たちに絡んできた老人が小屋の戸の隙間から外を覗くと亡者の中に見知った顔を見つける。
「……剛蔵⁉」
老人は亡者の中に息子である剛蔵の姿を見つけ思わず剛蔵の名を呟く。
「じいさんっ! 静かにしろっ!」
老人の呟きを聞いた他の村人が小声で叫ぶ。
だが、老人の声を聞いて他の村人たちが小屋に空いた小さな節穴やひび割れから外を見ると同じ様に亡者の中に夫や恋人の姿を見つけ同じ様に動揺して声が漏れ始める。
すると、亡者たちの一部が小屋から聞こえてくる物音に気づき進路を変えて村人たちが避難している小屋に向かっていく。
「しまった!」
庵があれこれ考えている間に亡者が村人たちが避難している小屋の周りに集まっていく。
どうする? ここから異能を放てば亡者たちと一緒に小屋の中の村人たちも巻き込んでしまう。
他に何か手は……、あれか!
庵が周囲を見渡すと昼間見た岩壁の小さな洞窟を見つけ駆け出す。
「む、庵どうした⁉」
突然、何処かに駆けていく庵を見て琴葉は叫んだ。
庵は駆けながら乾いた流木をいくつか拾い洞窟に向かって駆けていく。
「こっちだっ!」
庵は洞窟の前に立つと火の異能で流木に火をつけ大声で叫んで亡者たちを誘き寄せる。
すぐに手前の亡者たちが火の灯りと庵の声に反応する。
庵は火のついた流木を亡者たちに見えるように持ちながら洞窟に入っていく。
洞窟の中は村長の説明通り人一人が通れるくらいの広さで波の音が反響していた。
奥まで進むとすぐに海に面した岸壁の洞窟に出る。
これなら、もしかしたら……。
庵は洞窟の出口の上にある岩の縁に上がると洞窟の中から火の灯りが見える様に腕を伸ばす。
すると、琴葉や村人が避難している小屋の周りにいた亡者たちが突然ゆっくりと向きを変え洞窟に向かっていく。
「む、なんじゃ?」
亡者たちの行動に琴葉は疑問の声を上げ庵が向かった洞窟を見ると亡者たちが洞窟に向かって列をなしていく。
某ゾンビパニックゲームで物量に迫られた時を思い出した。




