常識と乖離
神之児戯ep79
結局、琴葉には何も答えずに誤魔化すように出てきてしまった。
さて、桜姫にはどう報告するか。
まさか、夜を共に過ごしたなんて事までは言えないからな、お互いの気持ちを確かめ合ったくらいでいいか。
――城。
「……まさか昨日の今日でそうなるとは思いもしませんでした。もっと時間がかかるかと」
庵はいつもの十二畳程の広い部屋で桜姫と守岡に柊花との事を報告すると桜姫は虚を突かれた様に固まり驚く。
それは確かにそうかも知れないが、世継ぎの為に慎重に相手を選ぶ武家社会と違って、その日生きるのが精一杯だった柊花の様な貧しい村人には上手くいかなければ次の相手を探せばいいという考えはないのだろう。
「如何なさいましたか?」
「……いや、平和な世なら柊花は俺を選ばなかったかも知れないのかなと……」
「……庵様は少しご自分に自信を持った方が良いと思いますよ?」
庵の言葉に桜姫と守岡は唖然として顔を見合わせると、桜姫は庵のあまりの無自覚さに呆れた様に言う。
「それで百合さんの件ですが」
「はい、そういう事なので断ろうと思います」
「……」
庵が苦笑しながら言うと桜姫は顎に手を当て何かを考える様に黙り込む。
なんだ? 何か変な事でも言ったか?
「庵殿、百合のいる朧藩は春の国の最南端に位置し、南の大陸と接している重要な藩なのだよ」
守岡が黙り込む桜姫を見かねて代わりに説明する。
確か南の大陸は国ではなく多くの動物が住む大陸に設定したんだったな。
「その南の大陸には、この春の国や他の国にいる鬼や妖怪などの魑魅魍魎とは比べ物にならない化け物が住んでいると云われている。朧藩はそれらの脅威からこの国を守る防衛拠点なので、出来るだけ朧藩の申し出は無下にしたくないのだ」
そういえば南の大陸には龍も住んでいるんだったな、それに確か百合は山中で暴れ回っていた大百足を退治して推薦を受けたんだった。
しかし、だからといって柊花と結ばれた今、百合と結婚する訳にはいかない。
それにこれでは俺に国の為に犠牲になれと言っている様なものだ。
「ならば権妻としてはどうだ? 柊花殿を本妻とし百合を権妻とすれば問題はないだろう?」
守岡は良い考えだと言わんばかりに身を乗り出しながら言う。
いや、問題あるだろ。権妻って確か正妻に次ぐ二番目の妻の事だろ。
そんな妻を二人も持つなんて、この世界ではそれが常識なのか?
それに、こんなすぐに二番目の妻を迎えるなんて言ったら柊花は良い顔しないだろう。
「上様はもちろん、各藩の藩主や一部の代官や商人なら権妻や妾は当たり前だぞ?」
「父上も側室は四人いますよ」
将軍と一緒にされてもな、そもそも将軍には大奥なんてものがあるんだから、……いや、吉宗は享保の改革で大奥の女性を大量に解雇したんだったか。
「じゃあ、守岡殿も側室を?」
「いやぁ、私は市子一筋だ、側室など必要ない」
守岡は惚気ながら言う。
……おい。
その後も桜姫と守岡からなんだかんだと断らない様に説得され、庵は少し考えさせて欲しいと言って城から出てきた。
――庵の屋敷。
「お帰りなさいませ」
庵が玄関の戸を開くと柊花が小走りでやって来て笑顔で迎えてくれる。
「……あ、ああ」
どこの新妻だよ。
庵は一緒になる事となり以前の控えめな態度から一変、自信を持って自分を迎えてくれる柊花の様子に心の中で呟く。
「申し訳ありません。お食事はまだ準備中でして」
「いや、まだそこまで減ってないからゆっくりでいい」
「わかりました」
柊花はそう言うと部屋に向かう庵の後ろを付き従って歩く。
側室、権妻(副妻)、妾、当時の人たちは当たり前に理解してたんだろうけど、現代人にはどこまでがとか判断しにくい




