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神之児戯  作者: 田澤 邑


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引っ越し祝い

神之児戯ep75

(いおり)様が湯船を二つ作ってくださいましたので琴葉(ことは)さんはあちらの湯殿に湯船を置くまで待って下さい!」

「……う、うむ」

 柊花(しゅうか)のあまりの剣幕に、琴葉は何も言わずに衣服を掴んで湯殿から走り去っていく。


「……それでは庵様、ごゆっくりと」

「……あ、ああ」

 庵がそう言うと柊花は笑顔を引きつらせながら脱衣所の戸を閉めていく。


 暫くして、庵が湯船に浸かっていると屋敷中に柊花の怒鳴り声が響いてきた。


 ……人の世の理を学べよ、琴葉。


 その後、すぐに、もう一つの湯殿に湯船を用意したのは言うまでもない。


 ――数日後。


 それぞれの部屋も決まり、庵は城で異能の教授を行いつつ退治屋組合で討伐依頼をいくつか受けた後、庵はやる事もなく手持ち無沙汰に屋敷でのんびりと過ごしていた。

 柊花は屋敷の掃除や炊事洗濯をしながら異能の鍛錬も欠かさず行っていた。

 庵は何度か家事を手伝おうとしたが、柊花はその度に当主なのだからと断っていた。

 琴葉はたまに庵の討伐依頼に同行しつつ家にいる時は咲夜(さくや)と戯れつく日々を過ごしていた。


「ごめんください」

 すると、誰か来たのか玄関から声が聞こえる。

「はーい、只今」

 すぐに柊花が返事をして玄関に向かう。


 ――――


「庵様、(すみれ)さんがお越しになりました」

「ああ」

 部屋の襖越しに柊花の声が聞こえ庵が返事をすると襖が開き菫と従者らしき男がが立っている。

「お邪魔いたします。本日は引っ越し祝いをお持ちしました」

 菫がそう言うと一緒に来た従者の男が広蓋という四角く縁のついた板にいくつか乗せた反物を床に置く。

「こんなにいいのか?」

 数えてみると十本もある反物は、どれも元の世界では見た事もない上等な生地ばかりだ。

「失礼ですが、庵様はお着物の持ち合わせがあまりありませんよね?」

 確かに、あるのはいつも着ている裁付袴か家で過ごす用の着物ぐらいだ。

「庵様は代官なのに着物の持ち合わせが少ないので、これで何着か仕立てて下さい」

 菫はそう言いながら一番上の反物を一本取り生地を広げてみせる。

「……すまないな」

 言いながら庵はその反物を手に取り品定めする。

「私は身の回りのお世話はできませんから、これくらいは……」


「……どなたかおられぬか?」

 庵が菫と話していると玄関から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 ……この声は守岡(もりおか)か、今日は千客万来だな。


 庵が襖を開き部屋から顔を覗かせると柊花が玄関に向かおうと、こちらに小走りしてくるのが見える。

「ああ、いい、俺が出る」

 そんな柊花を見て庵は部屋から出て向かってくる柊花に声をかけると玄関に向かう。

「おお、庵殿!」

 守岡は庵の顔を見ると嬉しそうに笑う。

「どうしました?」

「実は先日の朧班の百合(ゆり)との面会なのだがな、今その百合が城に来ていてな、どうも庵殿は会う事に懸念がある様なので、それなら城で会ってはどうかと思ってな」

 成る程、確かにここや何処か他の場所で会うより城で会う方が向こうに何かする気があったとしても色々警戒して下手に手出しはしないかも知れない。

「……わかりました。今準備するので」

 守岡の提案に庵は二つ返事で了承する。


 ――――


 庵は柊花や菫に城に行く事を伝え、いつもの裁着袴に着替える。

「お待たせしました」

「城に向かう前に、少しだけ見てもらっていいか?」

「? ……はい」

 庵が返事をすると守岡は庭で鞘から刀を抜き塀に向かって構える。

「……ふっ!」

 守岡が刀を振ると刀から大量の水が弧を描きながら飛び出す。


広蓋はそれを扱う業種の人くらいしか知らないけど四角いお盆と書くとどうしても丸い物を思い浮かべてしまうのでそれなら一般に知られてなくても広蓋の方がいいかなと

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