褒美
神之児戯ep73
「もし庵殿が上様に危害を加えるつもりなら異能の教授などするはずがありませぬ」
庵の話を聞いて吉宗が納得したと思ったのか守岡が庵を援護する。
「いや、わかった、疑って悪かったな」
「いえ……」
どうやら納得してくれたようだ。
「立場上どうしても人を疑いがちでな。特に、突然現れて懐に入り込んで来る者は疑惑が出ると、どうしてもな」
成る程、どうやら以前にも例がある様だ。
しかし、一騎当千とはいかなくても、吉宗も武芸に秀でていて身体も大きいんだから、もっと、どっしり構えていて欲しいものだ。
「そういえば御前試合の褒美は決まったか?」
そういえばそれもあったな、御前試合が終わって気が抜けてた所為で、すっかり忘れてた。
「……いえ、まだ決めてないです」
「先程の話から立身出世はしたくないだろう、ならば〜、……ん〜」
吉宗は腕を組んで考え込む。
「ならば、前任の代官がいなくなってから使われなくなった屋敷を下賜するのは如何です? 今の町人地にある家では色々手狭そうですから、あそこなら武家地にあって城にも近いです」
考え込む吉宗を見かねて守岡が提案してくる。
前に乗り込んだ代官屋敷か、確か随分な大きさだった気がするが……。
「因みに、部屋数はどれくらいですか?」
「確か、大小合わせて三十部屋程あったはず」
「さすがに、持て余しそうなのですが……」
「これからも家族は増えるだろうし、もし、それでも持て余すようなら敷地内に長屋を建てて町人に貸し出し家賃収入を得る手もある」
「それっていいんですか?」
「実際にやっている者もいるし、拝領ではなく下賜なのだ、庵殿の好きにすればいい」
もう下賜するのは決定みたいだな。
なんか信頼してくれているからなのか吉宗と違って守岡は俺に遠慮がなさ過ぎる気がする。
「なんと言いますか、物欲がなかったり庵様は色々と達観していますね。他の庵様と同い年の若者は早く身を立てようと必死ですのに」
ずっと黙って会話を聞いていた桜姫が呟く。
まあ、実際の中身はおっさんといっていい年齢だからな。
「……褒美といえば、対戦相手の百合が褒美として朧藩を通して庵と面会を希望しているらしいのだが」
守岡との会話が終わると思い出した様に吉宗が言う。
「あの美しい女か、どうやらさっそく家族が増えそうだな」
守岡は自分の思った通りだというように得意げな顔をする。
冗談じゃない、霊力のわかる者にはあの女の霊力は恐ろし過ぎる。
「断る事も出来るが、どうする?」
出来れば断りたいが御前試合の褒美を使ってまで俺に会おうとする目的はなんだ?
会うだけなら直接訪ねてくる事も出来るだろう。
だが、逃げたと思われれば余計危険かもしてない。
それなら……、だめだ、考えても悪循環になるだけだ。
だったら、下手に逃げずに堂々と会った方が危険は少ないだろう。
「わかりました」
「そうか、では、朧藩にはそのように返事をしておこう、日にちと場所は追って伝える」
――呉服屋。
庵は代官屋敷に引っ越す事を菫に報告しに来ていた。
「それは良いですね。今の家は代官である庵様には手狭でしょうから」
「せっかく家を貰ったのに一年も住まない内に引っ越してしまって済まないな」
庵は申し訳ないと伝える。
「あそこは元々休暇などを楽しむ為に建てた別邸ですから、構いませんよ。それに代官屋敷に住んでいただいた方がこちらにも色々と都合が良いです」
「……そうか」
「あちらは、そのまま庵様が休暇などにご利用下さい」
菫はそう言って微笑む。
下賜でなく拝領の場合は長屋を建てて町人に貸し出すのは本当は駄目らしいけど、色々あって黙認されてたそうな




