柊花(しゅうか)
異世界の管理者ep3
「ずいぶん若いな……、大丈夫なのか?」
門の中に入った庵を出迎えた男たちは庵の姿を見るや口々に不安を呟いた。
すると、そんな男たちの中から一人の老人が前に出てくる。
「お触れを見て来てくださった方かの?」
様子からして村長らしき老人は庵の姿を確認して聞いてくる。
「いや、俺はたまたま寄っただけで、お触れは見てないが何かあったのか?」
お触れ、確か役所などから一般民衆に出す布告の事で、この世界では怪物の討伐依頼書も兼ねている。
「そうか……」
老人がそう言って俯くと周囲の男たちが一様に動揺する。
「様子からすると怪物の討伐依頼か?」
小さな村にしては物々しい塀と物見櫓。
役所に出した討伐依頼を見た退治屋だと思ったんだろう。
庵の問いに対して老人は無言で頷く。
「よかったら話を聞かせてもらえるか?」
「こちらへ」
そう言うと老人は村の中へ向かって歩き出す。
俺の姿を見て男たちが不安に思ったのは釈然としないが、今の俺は元服したばかりの十五歳だ。
不安になるのも仕方ないと自分を納得させる。
「儂はここの村長をしている者です」
老人は庵を自分の家に招き入れると改めて自己紹介をする。
村長の家はあまりに粗末で所々から隙間風が吹きすさみ、家というよりはあばら家の様だった。
「俺は庵という、退治屋をしている」
本当は違うが、ここではそういう事にしておいた方が都合か良いだろう。
「……実は最近、この村の近くに鬼が住み着き小鬼どもを従えこの村を襲ってくる様になったのです」
鬼、背丈は二メートルほどあり、筋骨隆々、人喰いで並の退治屋数人がかりでやっと倒せる怪物で小鬼とはわけが違う。
また、頭も良く小鬼を従える事もある。
退治屋でもない一般人では到底敵わないだろう。
「……よく今まで耐えられたな。こんな小さな村、鬼に襲われたらひとたまりもないだろ?」
正直、あんな木の板で出来た塀や木製の門は鬼なら簡単に壊せてしまうだろう。
「……ええ、なんとか」
そう返事をする村長は緊張して言い淀む。
「どいてくれ!」
外から大声が聞こえたかと思うと一人の中年男性が入ってくる。
男は庵の姿を確認すると、その場で落胆し村長に駆け寄っていく。
「どういう事だ⁉ お触れを出したのにやって来た退治屋は一人だけ! しかもこんな若者じゃ鬼たちに敵うわけ無いだろ!」
男は村長の胸ぐらを掴み大声で抗議する。
「……これじゃ柊花は」
そこまで言うと、男はその場で泣き崩れる。
「……どういう事だ?」
村長は何も言わずに俯く。
供物でも与えてるのかと思ったが見た感じ村には作物を育てる余裕もなさそうだ。
「……月に一度、村娘を生贄にしています」
村長は俯いたまま真実を打ち明ける。
衝撃の事実に庵は言葉を失う。
生贄、人身御供か。
鬼の設定を考えている時、鬼といえば人喰いだろう、なんて安直な考えで設定した。
それがまさか、こんな形になろうとは。
実際に目の前にすると胸糞悪い。
だが、これは俺の所為だ。
「お父さん!」
今度は一人の村娘が村長の家の入り口に集まった村人たちを掻き分けて入ってくる。
村娘は庵の姿を確認すると一縷の望みが潰えたかのようにその場に膝をつき放心する。
「その娘が次の生贄です」
村長は娘の顔も見ずに説明する。
娘は今まで父親に心配かけまいと気丈に振る舞っていたのか村長が説明すると緊張の糸が切れたようにその場で泣き崩れる。
その光景を見て庵は絶望した。
少し考えればこれが現実だという事はわかったはずだ。
「俺がその鬼を退治する」
庵は手を力強く握ると、その場で立ち上がり告げると、その場にいる全員が驚きながら庵の顔を見た。
あまり深く考えず思いつくままにありがちな展開だが異世界物はその方がいいのか