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魔王の娘  作者: ズーマ
2/3

2話「指輪」

2話です。

どうぞ。

「……スッゲぇ……こんなんもう二度と入れないぞ……」

「スゴいですね……」

 俺は断ろうとしたんだが……ギムルの説得により、俺達はお客様対応になってしまった。流石ギムルの従者達といったところ。見ず知らずの低俗な俺達でも、悪意のある待遇は全くない。ギムルがいない時でさえも。

 食事の用意が済むまでは時間がかかるとのことなので、豪華過ぎる風呂にゆっくり入らせてもらうことにした。

 広い浴槽に張られた、大量のお湯。それだけじゃなく、シャワーもある。水道が完備されているだけでも俺達庶民からしたら非常に贅沢だ。

 早速入ってシャワーを浴びることにした。

「……お背中流しましょうか?」

「いいよ、奴隷じゃあるまいし」

「…………」

 出会った時に気付いたが、フィーコスには尻尾がある。太くて長く、青味を帯びた銀色の鱗がある。それがずっと視界の端でウネっている。

「……尾が気になりますか?」

「どんな感覚なのかな〜と」

「そう仰られても……無くなった経験はないので何とも言えません……。触るぐらいなら、構いませんよ?」

「……なら遠慮なく……」

 ……何と言うか……蛇って感じ。鱗は魚のソレとは違い滑らかで、皮膚はプニプニで柔らかくとも、ズッシリしていて並々ならぬ筋肉を感じさせる。多分この感覚を正確に形容することは俺にはできない。触れば分かる、これは蛇の身体だ。

「常にとは限りませんが……上手くいけば尾だけで装鱗類も殺せますよ」

「……え?」

「あまり経験はないですが」

 流石蛇帝(だてい)の娘。それが本当なら、俺の身体なんて小枝の様に……。装鱗類の鱗は上等の剣刃の素材に使われるほど希少で強靭で、特殊な性質故にかなり加工が難しいのに……。

 本気で怒らせたら死ぬと思おう。彼女は自分で卑下するより何倍も強い。尾に関しては。

「……もう良いですか?」

「あぁ、悪い」

「……もしかしてずっと怒ってるって思ってますか?」

「……正直、沸点が分かってない」

「怒ってないですよ?」

「え?」

「私、会ってから一度も怒ってないです」

「……マジ?」

「はい。……昔から「表情が読めなくて何考えてるか分からない。不気味。怖い」とはよく言われて育ちました」

 まぁアイツのもとで過ごせばそうもなるか……。

「逆に何したら怒る? 嫌いなモノは?」

「……騒音とか、あと面倒な絡みですね……。あとは……まぁ……話したくないです」

「へぇ……」

 思えば俺達は互いのことをほとんど知らない関係なのだ。少なくとも俺からは距離を詰めようとしているが、彼女からそれをしてくれない限り、距離が縮まることはない。強制はしたくないが……なかなか攻略は厄介かもしれない。

 積年の汚れを綺麗に洗い落とした。

「熱いので注意してください」

「ん? って、熱っつ!!」

「……私は言いましたからね」

「ふぅ〜っ……。分かるのか?」

「右眼に映る物は」

「スゲぇな……」

 どうやら役割は飾りじゃないらしい。

 それにしてもお湯に浸かるなんて贅沢、できると思ってなかった。今日もギムルが来なきゃ、ササッと終わるはずだったし。思わぬ好転だ。

「……さいよ」

「ん?」

「聞くだけじゃなくて、教えてくださいよ、アルゲティさんのこと……。……って、どうしたんですか? 何で急に泣きだすんですか?」

「距離詰められて……。それされると思ってなかったから……。つい感動して……」

「チョロ過ぎやしないですか? ……良いじゃないですか、裸の付き合いって言葉があるんですし」

「それもそうだな……。できるだけ答えるよ」

「……どうして蛇帝に恨みを抱いているんですか?」

 流石にずっとは隠せやしないか。……にしても、蛇帝の三人称が父から蛇帝に変わったのが地味に良い。ちゃんと敵対してくれてる証だろう。ギムルとも契ったし。

「……それを分かる様に説明するには、人生の大半を語らないといけないな……。長くなるけど、良いか?」

「問題ないです」

「……俺がガキの頃……確か6、7歳ぐらいの頃は、母さんが必死に働いていた。貧乏だったし、父親は仕事に失敗して酒に浸ってばっかで」

「はぁ……」

「当時から鍛冶師になるのを夢見ててな。師匠に出会ったのも当時だ。たまに通って学ぶぐらいだったけど。それ以外は、父親が母さんに暴力振るってばかりの生活だった。教育も受けれる立場じゃなかったし」

「……それって世間的に普通なんですか?」

「……毎日はやり過ぎだな。俺にとって父親は反面教師だった。学んだのは、俺に家族ができたら、絶対に優しく勤勉に生活しようってことぐらい」

「…………」

「……ある日家に帰ると、血塗れたナイフを持った父親が立っていた。近くに母さんも腹を真っ赤にして倒れてた」

「心中……ですか?」

「あぁ。目を虚ろにさせて、父親が向かって来て。何とか逃げ延びたけど、結局父親も自分を刺してた。記憶が鮮明じゃないけど、確か師匠のところに住み込みで鍛錬を積むことにした」

「…………」

「……それから十年ぐらい経って、俺も一人で作品を作れるぐらいには成長した。師匠曰く、才能があるってよ。師匠にはずっと勝てなかったけど。……んで、ある日俺と同じぐらいの年齢の少女が依頼に来た。珍しいことなんだよ。依頼されたのは指輪。俺に全てを任された最初の仕事」

「…………」

「彼女が持ってきた金額は決して十分じゃなかったんだが、毎日必死に働いて家庭を支えてる母親にプレゼントしてやりたいって言われてさ」

「似たような境遇だったんですね……」

「あぁ。赤字覚悟で頑張ってさー。毎日の様に来てくれて、2人で話をして。彼女は体が弱かったらしいんだが、それを感じさせないぐらいには楽しかったな……」

「…………」

「楽しい時間はあっという間に過ぎて作品は完成した。それ以上ない、って出来だったけど……」

「けど?」

「……これから彼女に会うことはないって思うと、何と言うか……葛藤があった。私情を挟み過ぎたんだな」

「へぇ……」

「渡す日になって、彼女に言ったんだよ……」

 ……何も考えずここまで話したが、改めて思い出すと恥ずかしい。

「……え、続き言わないんですか?」

「……また会いに来てくれますか、って言った……」

「……そしたら?」

「あっさり許諾。その後の流れは省略するけど……彼女が俺の妻だ」

「お、おめでとうございます……」

 ……フィーコスには彼女が亡くなったの言ってなかったっけ。あまりにリアクションが素直だ。

「間に娘を1人授かって、国王に鍛冶師として呼ばれて職は安定、寧ろ上昇。反面教師の父親のお陰もあり、3人は幸せに過ごしていましたとさ……」

「過去形……」

 あとは堕ちていくだけの物語だからな……。

「娘が5、6歳ぐらいの時。蛇帝が他大陸から攻めて来たっていうニュースが飛び回った。リトロンって孤立してるだろ? 他大陸から来るってのは常識的にありえないんだよ」

「…………」

「ニュースが回るに乗じて、色んな病が蔓延した。勿論簡単に治せないようなヤツ。蛇帝と共にやって来た病原体だし」

「…………」

「ジェバルにも蔓延して、一家3人共かかった。……元々丈夫じゃなかったし、妻はそれが原因で亡くなった。当時の記憶はほとんど残ってない」

「そんな……」

「娘も幼いながらに理解していたらしい。蛇帝に恨みを募らせて、毎日のように剣を振ってたな……。気持ちは分かるから止めはしなかった」

「…………」

「月日は流れ、彼女も成長した。そしたら衝突は避けられないもんさ。切っ掛けは蛇帝のこと。でも単純だったと思ってた。あんまり覚えてないけど……。とにかく激しく喧嘩した。ろくに荷物も持たないで家出された」

「…………」

「当時は喧嘩自体は珍しくもなかった。満足いく生活させてあげられなかったのも事実だし、仕事に打ち込んで家庭的な時間はほとんどなかった。いつも通り、自然と鎮火すると思ってたんだ……」

「…………」

「彼女は蛇帝に挑んだらしい。積年の恨みを募らせて、母の死の切っ掛けとなった蛇帝を恨んで……けど蛇帝に辿り着くまでもなく、敗れた。通り縋りの旅人が遺品を見つけて渡してくれた。最後に見たのは怒った顔。戻って来たのは……」

 思い出すだけで涙が止まらねぇ。俺の背中をそっと優しくフィーコスが撫でる。

「……言いたくないなら結構ですよ……」

「……2つの指輪だった。普段着けてなかったはずのそれを、俺と妻が彼女が産まれた日に贈ったそれを、彼女は持って旅立った……。ギムルの言った、続きのない「あの日」だよ……」

「…………」

「……俺は悟ってしまった。蛇帝には勝てない、ただの人間がどうこう出来る相手じゃないんだ、って……」

「…………」

「……仕事も辞めて、生きる理由を失った。昨日までの話だけどな……」

「…………」

「実質的に妻子を殺した蛇帝を、俺は恨んでいる」

「……愛していたんですね……」

「あぁ。誰よりも」

「……娘さんが今生きてたらおいくつですか?」

「……17だな」

「……なるほどです、完全に理解しました。お辛い記憶を思い出させてごめんなさい……。けれど聞かせてくれてありがとうございました」

 ……俺が原因ではあるが、空気が重くなってしまった。どうしよう。

「でも戦う覚悟はあるさ。こんなところで堕落して死んでちゃ、誰か達に合わせる顔もないしな」

「正直、今の状態で蛇帝を殺せると思いますか?」

「……無理だな。……扱える武器ってある?」

「武器……ですか? そもそも持ったことがないです」

「それもそうか……」

「逆にアルゲティさんは……」

「うーん……。装填師そうてんしの資格は持ってないから銃火器は経験ないけど……刀剣ならいくらでも作ってきたな。そういう意味では人並みに扱える。けど頼りにならない。年齢的にも」

「やっぱり人数を集めないと進まないですよね……?」

「そうだな。猶予は実質あと6日だし」

「……短くないです?」

「常識的に考えて短いな」

「ゆくゆくは……その装填師? を仲間にする予定ですか?」

「まぁ遠距離攻撃の手段が有るのと無いのとでは全然違うしな。奇襲においても反撃においても。でも装填師だからって銃火器のプロってのも違うな。俺がそうであるように。そもそも蛇帝討伐に乗っかる奴かどうかって問題がある。命懸けだし」

「よく分かりませんが……どうやら課題は尽きないみたいですね……」

「できれば判断に柔軟性のない国王の直轄軍のメンバーは避けたいんだよな……。主人は国王陛下ただ1人だからな……言う事聞かないかもだし。元々は道中で見つけるって気でもいたけど、まぁ順風満帆はありえねぇさ。ぼちぼち気楽に行こう。最後の旅の可能性もあるし」

「……死にたくないので私も全力で頑張りますね」

「おう。……逆に俺の疑問なんだけど……蛇帝に恨みがなくて何で命懸けで協力してくれるんだ?」

 彼女は一拍置いて、微笑んでこちらを見る。

「アルゲティさんが私を救ってくれたからです。あの空間から連れ出して、退屈しない世界を見せてくれる。そんな気にしてくれる。先入観で毛嫌いせず、こうやって他では味わえない待遇で……。蛇帝の娘として産まれて奴隷として売られた時から、マトモな結末が待っていないと覚悟させられました。実際、何度も死にたくなるような恥辱を味わいました。でも私を救ってくれたのは他でもないアルゲティさんです。例え命を賭けてでも、一生着いていきます」

「……ありがとうな」

 少しは感情が芽生えたようで俺は満足だ。表情を素直に露呈させるのが次の目標だ。

「……あの、マナー違反だと思うのですが……折角こんなに広いお風呂に浸かれたんです、泳いでみても構いませんか?」

「……別に否定しないけど……。俺は先に上がるから」

「分かりました。しばらくしたら部屋に戻りますね」


「ふぅ〜っ……。美味い……」

 汗と涙で水分不足だった身体に、珈琲牛乳がよく効く。美味すぎる。誰が創った、最早危ない薬だろコレ。身体を癒してくれる。素晴らしい設備だな。これだけでも家に採用したい。

「……装填師、か……」

 自分から言っといてなんだが……一流の装填師を仲間にするのは一筋縄ではいかない。

 装填師。銃火器・弾丸を作製する職人。鍛冶師と違って資格が要る。字面だけなら簡単だが、なかなか難しい技術。銃火器にはそれぞれの弾丸の込め方があるし、その弾丸にも金属弾・魔弾・散弾・砕弾など、用途に合わせて多数ある。製造過程も違えば素材も違う。それでいて実戦向きではない装填師もいる。

 職業上知ってはいるが、実際の知り合いはいない。

 他に何か良い職業は……。やはり何かしらのプロフェッショナルだと良いんだが……環境も選ぶし、俺みたいに融通の効かないタイプの職人は難しいか。

「明日行ってみるかぁ……」

 冒険者の集う環境なら、フィーコスのような掘り出し者がいるかもしれない。何もしないよりはマシだろ。


 そして夕食の時間になったのだが……

「ホントにこんな豪華な食事を頂いても……?」

「何で今更遠慮してんだ。宮殿でも食べてただろ」

「まぁ、アルゲティさんは宮殿に行かれたのですね!」

 ギムルには出来のいい一人娘がいる。風呂上がりのフィーコスを率先して私物の服で着せ替え人形にしていた。正体を知ってなお、種族という垣根を軽く飛び越え、2人は友達になったらしい。尾を上手く隠せる服を何着かプレゼントされていた。

 意味不明なことに、俺は昔から彼女に懐かれている。頻繁に会うこともなかったのに。会う度に技術の教えを請われる。しっかり覚えてくれているので就職の心配はないだろう。とは言っても、彼女は家督を継ぐために必死に勉強しているらしい。裏の苦労を悟られないように素を利用して明るく振舞っているのだ。ギムルから筒抜けだけど。

「あぁ。依頼を受けてな」

「それはそれは、素晴らしいことですね! 国王陛下と対面なさったと解釈しても?」

「解釈も何も、その通りだよ。直接依頼されたんだ」

「……内容を聞くのは失礼ですよね。あ! そうです、フィーコスさん、よろしければ後でわたくしの部屋に行ってゆっくりお話しましよう! ……って、大丈夫ですか!? お水をどうぞ!」

 いきなり話題を振られたのに驚いたのか、フィーコスは食事を喉に詰まらせた様だ。蛇でも喉が詰まるのか。

「あ、ありがとう……」

「おいおい、気をつけなよー?」

「ご心配おかけしました……。大丈夫です」

「ごめんなさい、フィーコスさん……。それで、私の部屋にいらしてくださる?」

「えぇ。良いですよ」

「ありがとうございますっ!」

 スゴい距離の詰め方だな。フィーコスが引いていないように見えるのも地味にスゴい。そして貴族の娘の自室に私用で呼ばれる機会なんて中々ないぞ。俺だって入ったことないんだから。入りたいとも思わないし。

「アルゲティ、今夜は呑もうぜ」

「……あんまり量は呑めないぞ?」

「ゆっくり軽くで良いさ。話したいことだって経った年月の数だけあるんだ」

「それもそうだな……」

 俺達は俺達で、ゆっくり呑むとしよう。


 そんなこんなでグラス片手にギムルと乾杯した。

「しばらくぶりの出逢いとしばしの別れに、乾杯!!」

「あんまり飲みすぎんなよ? お前、酔うとすーぐ記憶無くすんだから」

「分かってますって」

 そしてある程度過去話が終わって、話題を変える流れになった。2人とも少し酒が回って饒舌になり始めた。

「ところでアルゲティ。勇者申請はいつするんだ?」

「……勇者申請?」

「知らずに勇者しようとしてたのか? 仕方ないなぁ、俺が説明してやろう」

「お願いしまーす」

「冒険者、って職は誰しもなれるモノだ。けど、勇者はそうはいかない。本来の階級を逸脱した特別階級の職業だから、役所ギルドに行って面倒な手続きをしてから登録して身分証の発行をしてもらわないといけない。そうでないと「自称」勇者って立場になって、特権は得られないんだ。パーティに所属してるメンバーが登録してても、勇者自身が未登録でも「自称」だな」

「登録かぁ……。特権ってのは?」

「勇者は特別階級って言ったろ? 貴族の出身でない限り、下級貴族と同等の扱いになる。優先措置があるってワケだな。俺からすれば無いも同然だけど」

「下級貴族が0なら俺はマイナスだな……」

「いや? 国王陛下直々の依頼なんだ、その辺の雇われとは格が違うさ。あ、そうだ……」

 するとギムルは羊皮紙とペンを懐から取り出し、文章を書き始めた。

「貴族の使う羊皮紙が全部高級だとは思うなよ」

「分かってるよ……」

 嘘。高級品だと勝手に思った。

「ほい。上手く使えよ」

『ジェバル王国出身のアルゲティ・ワイルドが同国国王陛下の直接の依頼、蛇帝討伐の依頼を受けたことをここに保証する。 ジェバル王国国王従者筆頭 ギムル・アルベッド』

「あの手紙の信憑性が高まるだろ?」

「確かに便利かもな」

 懐に仕舞っておくことにする。

「質問ばかりで悪いんだが……彼女に特能診断を受けさせる予定はあるのか?」

「……それは俺が決めることじゃないな。彼女がそれを望めば受けさせるさ」

「教えないのにか?」

「うっせ」

「……今度は最後まで護ってやれよ」

「あぁ。……死んでも成し遂げるさ」

「死なない程度に頑張れ、親友」



 ほろ酔いの夜は過ぎ、翌日の朝になった。結局フィーコスは2人で寝たらしい。ギムルらに礼を言って2人で帰途につく。

「昨晩はどうだった?」

「中々面白い話を沢山聞かされました。私から振れる話題は少なかったので……。でも楽しかったですよ。それに私のことを友達と言ってくれて……」

「へぇ……」

「良いものですね、友達って」

「そりゃそうさ。家は王都の端だから結構かかるよ」

「ギムル様曰く「アルゲティは堕落してたから家の綺麗さに期待しない方が良いからな」だそうです」

「……それ自体はホントなんだけどな」

「お片付けしましょうか……?」

 ……どうせ数日で発つことになる。でも帰る家があるってのはモチベーションにもなる。

「そうだな。2人でやろうか」

「えっと……ご好意に感謝します……?」

「どこで覚えたそんな言葉。まぁ良いや。ところで」

「何でしょう?」

「特能診断、って知ってるか?」

「……知りません」

「だろうな。簡単に言うと、先天的に備わってる能力が分かる、ってヤツなんだけど。ちょっと金は取られるけど、どうする? やりたいと思う?」

「やらせたいと思ってますか……?」

「どちらにせよ、君の自由だな。存在だけでも知ってほしかったんだ、金のことなら心配しなくていいし」

「……もしそれでお役に立てる可能性があるのならば、やらせてください」

「あぁ。じゃ、役所ギルド行こうか」


「おはようございます。そちらのお席にどうぞ」

 スタッフが愛想よく迎えてくれた。役所ギルドが混むのは夕方くらいからだっけ。朝はあまり客がいない。

「朝からすみません。彼女に特能診断をお願いしたくて来たんですが……」

「分かりました。診断料は15万バレットです」

「……ほい」

「ちょうどですね。準備があるので少々お待ちください」

 ところでずっと横から視線を感じる。

「……どうかした?」

「いえ。それはこちらの台詞です」

 どこで覚えたそんな定型文。

「……と言うと?」

「虚空を見つめて深く何かを考えているかの様に見えて……気になってしまいました」

「あぁ……。それがさ〜、何か忘れた気がするんだよな……。割と大事なことだと思うんだが……まぁ後々思い出すだろきっと」

「それって大丈夫なんですか?」

「いや? 何せ酒の席で話したからなぁ……。俺一定量酒飲むとその時起きた事忘れる体質なんだよ」

「なら飲まなきゃいいんじゃ……」

「飲みたくなるんだよ。そういうモンさ」

「そういうモンなんですね……」

「用意が出来ました。こちらへどうぞ」

「はい……」

「あ、申し訳ありませんがお連れの方はここで待っていてください」

「あっはい。……そんな緊張すんなって。すぐに終わるから」

「分かりました……」


「こちらにお座りください」

 案内してくださった女性スタッフとは違う男性が来て椅子を示した。人柄も良さそうで、あまり緊張しなくて済むかもしれない。

 座ると尾が目立つかもしれない。相手は1人。上手く相手の死界に隠す。

「失礼します……」

「僕は診断係をやっています、サトリといいます。本日はよろしくお願いします」

「フィーコスです。よ、よろしくお願いします……」

 そんなに緊張しなくてもいいですよ、と言って彼は書類に目を落とし、そして私を見て口を開いた。

「早速本題ですが、特能診断の方法についてはご存知ですか?」

「いいえ。私は提案されただけなので……」

「それじゃあ説明させていただきますね。特能診断とは、その名の通り自身の身体に備わる特殊な能力が知れる、というものです。勿論持って産まれない人もいますよ。なのでまずはあるかないかを調べます。具体的な能力はその後の診断で調べます。……の前に、簡単な質問をいくつかしても?」

「どうぞ」

「能力があると感じた経験は?」

「……無いですね」

「では……もし持っていた場合、倫理的タブーを犯さないと言えますか?」

「……と言いますと?」

「結構あるんです。自分の特能を知って犯罪行為に手を出すパターンが。そういったことをしないですか、ってことです」

 口頭でなら何とでも言えちゃうのでは? 誓約書すら書かせないの?

「大丈夫だと思いますよ。失礼ですが……これ聞いて意味はあるんですか?」

「まぁそうですよね……。でも僕は特能があるんですよ。話している人の口元を見ると、本音が分かるんです。別にあなたのことを怖がっていませんよ?」

 本当に読まれていた様だ。思えばずっと口元を見ていて、目を見て話してくれない。アルゲティさんもサトリさんも優しげ(アルゲティさんはちゃんと優しいけど)だが、そういう意味では対照的に見える。

「まぁ知らないことに不安になるのも分かります。共感性には自信があるんです、人の心を読むのは誰よりも自信があるので!」

 ……笑った方が良いのかな。つまり無言ならバレないんだよね。

「……無言でも考えてることは薄々分かりますよ。特能がどうこうの話ではないですよ。……いつの間に話が脱線しましたね。質問は以上にしましょうか」

「良いんですか?」

「良いんです、あとはこの機械に任せてしまえば!」

「……これは?」

「これはですねー、かの有名な科学大国、スキエンティア国から輸入した特能診断機ですっ!」

「へ、へぇ……」

 ヘルメット型の機械。見た目はヘルメットだけど、何か怖い。そもそもスキエンティアってどこ?

「大丈夫ですよ、危険はないですから。ほら、着けてください」

「はい……」

 金属の重さと冷たさが伝わる。ちょっと大きいかも。

「では目を閉じて、動かずじっとしておいてください」

 ……暗い環境は慣れていたはずなのに、今になって少し不安を感じる。こんなに早く変わってしまったのは何故だろう。

「……目を開けてください。外していいですよ」

 よく分からない機械を見ながら彼は言う。右手に包まれた丸い物体を移動させながら、平らな面を黙って眺めている。

「それって何ですか?」

「パソコンという機械です。便利ですよ、これもスキエンティア製です」

「凄い国があるんですね……」

「えぇ。ジェバルとは比にならないです。それこそ数百年レベルの差があります」

「想像もつかないですね……」

「……結果が出ました。フィーコスさんには特能がありません」

「そ、そうですか……分かりました……」


 戻って来たフィーコスの表情を見て悟った。

「……無かったんだな?」

「はい。薄々分かっていましたが……」

 蛇帝の皮肉が効いている。けれど……

「大丈夫さ。きっと咲かせてやるから」

「……何のことですか?」

「こっちの話。気にすんな」

 15万の金をドブに棄てたことになったが、別に後悔する理由にはならない。

「ところでアルゲティさんには特能あるんですか?」

「……ある。物に憑者を取り憑かれせる能力。だけどその憑者の性能に応じて記憶を渡さないと憑かせられないんだ。中々難しい能力だと思うぞ」

「記憶って……」

「娘が帰って来る様に憑かせた指輪には両親が死んですぐの記憶を。まぁそれで最期に着けてた指輪だけ戻って来たわけだが……。そして今着けてるこの結婚指輪にも憑けてある。こっちには娘との喧嘩の記憶を」

「……あんまり特能持ってて嬉しくなさそうですね……」

「良い思い出が無いんでな……。まぁ良いさ、帰ろう」

 金は払っていたのでそのまま帰路に着いた。

「こっち方面は初めてかもしれないです……」

「それもそうか……」

 奴隷商店を通り過ぎて、更に奥へ。この辺りが衛生面の良し悪しを別つボーダーラインだ。

「下り坂なので楽そうですね」

「ここからだと1時間ぐらいかな〜」

「帰ってからは家全体の片付けと食事の用意と……」

「それは一緒に。な?」

「分かりました……」

「思ったんだけど、少しずつタメ口に切り替えていきなよ。俺堅苦しいの苦手なんだよ。いきなりじゃなくて良いから、慣れていこうぜ」

「分か……った……?」

「そ。それでいいよ。無理しない程度に仲良くしようぜ」

「……私達って仲悪いの?」

「そんなことないと思うぜ?」



 まぁ順風満帆にいくことはなくとも、波乱万丈までとはいかず、ちょうどいい旅になるだろう。

 ……と思っていた時期が俺にもある。

ギムルの紹介から始めます。


名前:ギムル・アルベッド

名前の由来:特になし

性別:男

種族:人間。国王の遠縁

身長・体重:180cm・68kg

年齢:43

誕生日:1月15日

能力:知識、記憶力。血脈だけで仕事していない

言語:人間語

一人称・二人称:俺・お前、君、呼び捨て、〇〇様

職業・所属階級:ジェバル王国国王従者筆頭、名家アルベッド家の主人・上級貴族

髪:藍色がかった黒髪

肌:まだ衰えは感じさせない

眼:怖くはないが鋭い瞳。紺色の瞳

口:秘密は厳守する

装飾品:あまり飾らない

食事:普段の食事は謙虚。来客時は豪華に

好きな物事:王族の方々。家族

嫌いな物事:王族を侮辱する者


当時の風呂は混浴だそうです。



次回もよろしくお願いします。


ズーマ

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