中編1
☆☆☆前世
父上と兄上は聡明、母上も賢妃と列国に名が通っている。婚約者の次期辺境伯ジャームズもとても誠実。
私は、とても幸せな日々を送っていた。
聖女が来るまでは、
☆王都貧民街炊き出し場所
聖女が不穏な騒ぎを起こしていると通報があり。
私は直接確かめようと、護衛騎士を連れ、現場に向かった。
炊き出し場所に入りきれないぐらいの貧民達が集まっていて、
聖女の話を熱心に聞いていたわ。
『~~天は人の上に、人を作らず。人の下に人を作らずって言葉があって~人権というものがあります。1人1人が、王様と同じ権利を持っていると言えます!』
『何だって!』
『聖女様が仰るのだから、本当だろう』
『俺たちにも王様と同じ権利があるんだ!』
・・・危険な思想、違う。
我が王国でも、今、一生懸命に、平民が不当に逮捕されない権利、財産を没収されない権利から始めている。反対する貴族達を説得しようとしているのに、
まだ、早い。
『ちょっと、聖女タナカ様、この炊き出しは王家の予算から出しています。王家をないがしろにする発言は控えて頂けないかしら』
『そのお金は民衆から巻き上げハラスメント!』
(おい、聖女様が、王女にいじめられているぞ。ヨシ)
コツン!と石がエリザベスに当たる。誰かが紛れて石を投げたのだ。
『無礼者!』
『待って』
・・・不味い。圧倒的多数。ここで暴動が起きたら、収取がつかない。
『それ、やっちまえ。こちらには聖女様がついている!』
『『ウオオオオオーーー散々、贅沢をしていた王族だ!』』
『アハハハハ、フランス革命みたいに~王様を殺して、平等な世界を作るの!』
・・・貧民街から始まった暴動は、やがて、王都中に広がり、私は捕らわれ、反王家の貴族達の支援を受けた聖女軍により、王城は落城した。
『王女様~これをご覧になって』
『お父様、お母様、お兄様、ジャームズ!』
聖女は、ワザワザ、4人の首を、私の牢まで、見せに来る。
『これからは、新しい国作りをする。騎士団を解体して、この国を非武装中立地帯にするの。紛争の解決を軍隊で行わないのよ。話合いで解決するわ』
『・・・そんな。ことをしたら、他国はともかく・・・魔王軍が・・』
『魔族を差別するレイシスト!』
・・・あれ、れいしすと、と言われたら、急に、私がものすごく、悪く思える。
これは、魅了?
『そしてね。民主政治を行うのよ。レイシストの貴方には分からないよね』
・・・私は生かされた。時には旧体制の悪者として晒されたり、王家を代表して民衆裁判を受けて罵詈雑言を浴びせられたり、牢で拷問を受けたり、女として筆舌に尽くしがたい行為も受けた。
しかし、牢にいても、漏れ聞こえてくる。
あの聖女の政策は上手くいかず。
次々と、反聖女派、レイシストのレッテルをはられた人たちで牢が満杯になる。
私の牢にも、子供達が入れられるようになった。
『ウワ~~~ンウワ~~~ン』
『あれ、慰問で、お菓子くれたお姉ちゃん?』
『そんな。貴方たちは貧民街の孤児院の子供よね。聖女は貧民の味方じゃないの?あなたはどうして、入れられたの?』
『グスン、グスン、王様がいた時代の孤児院は朝ご飯食べられたと言ったの、そしたら牢に入れられたの』
『そう・・・』
・・・貧民街の大人はダメだ。子供なら・・・せめて、知恵がついて、自分で考えて、聖女軍につくのも良い。逃げるのも良い。自分で判断して欲しい。
との思いが強くなる。
やがて、私は、栄養失調と疫病で目が見えなくなり・・・動けなくなった。
しかし、
『お姉ちゃん。ご飯、少しでも口にいれて、あ~ん』
『フラン、お水が欲しいのかもよ』
・・・フランっていうのね。
しばらくは、子供たちによって生かされたが、やがて、意識がなくなった。
☆☆☆革命から2年後
王城に、人族軍では使わない。魔王軍の毒々しい太鼓の音が響き渡る。
ドロドロドロ~~~~
『ここに、王族の姫がいるって記録あったんだけど、ありゃ、子供たちが・・・死んでるぜ。おい、ハエがヒデェな』
『お、この女か。死んでいる。ミイラ化しているぜ。どれ、少し、会話がしたい。死霊使い頼むぜ!』
『御意!』
『魔神よ。かの女の魂を。しばらく~現世にとどめおかれよ・・・・』
・・・ここからは、薄らと記憶がある。
『あのよ。あの女、結局、民主政治をするとか言ってたけど、民衆集中制とか言って、独裁を始めやがったよ。
真に賢い、民衆の気持ちが分かる聖女に権力が集中(独裁)しても、民主政治と変わりないとかいってな。ワケワカメだろう?あ、ワケワカメって、この世界の人には分からないか』
『騎士団を解体したけど、聖女護衛軍を作って、戦争を始めやがった。レイシストを撲滅するとか言って・・・全く意味が分からないよな』
『何故、そんな話を私に・・・』
『あの女、お前を悪女にして、自分の正当性をこれでもかと主張していたからな。本当に悪女なのか興味があったのさ。それに・・・ほれ、これを見てみろ、あ、動けないな。失礼』
・・・私の堅くなった死体を魔王が魔法で動かし、子供達の死体を見せる。
『ウッ』
・・・涙が出ないはずなのに、口ごもった。
乏しい食事、それを私に分け与えようと、スプーンで、私の口元に運ぶ途中で息絶えたであろう子供の姿が目に入る。
餓死寸前でも私を看病してくれていたのね。
『せめて、聖なる火で、子供達を女神様の御許に送って下さい』
『え~魔王にそれ言っちゃう?まあ、いいか、女神教の神父のレジスタンがいたから頼むわ』
・・・
『魔王殿、牢に連れて来られたから、てっきり・・』
『ダン神父よ。信教の自由って奴だ。魔神様の悪口を公然と言わない限り活動を許すぜ。生き残った人族の希望になりなよ。さあ、送ってやりなよ』
・・・何だ。魔王軍の方がよほど話せるではないか。この戦乱で人口の4分の1が亡くなった。
外国や魔族との戦争よりも、聖女軍の国内粛清がほとんどだ。
いや、あれは聖女ではない。聖女モドキだな。
『神父さん。それは何だい?』
『聖女モドキが身につけていた王家から奪った秘宝です。最期、エリザベス様の御許にあるのが相応しいです。何でも、死に戻りのペンダントとの伝承がありますが、誰も効能を確かめる術はありません。何せ、死に戻りですから』
『ああ、そうだな・・・効能あればいいな。こんな戦い嫌だったよ。勇者と戦いてぇ』