終戦 男らしさっていうのは(9)
「それから、家が火事に遭ったのは僕が初めて料理してみようとした時、火を消し忘れちゃったから。妹もまだ生きてるし、ただ自分のものが燃やされたのをとても怒ってたから家出しちゃっただけだ。一応それも『いってしまった』と言えるけどな、だってもう久しく会ってないから」
耳を覆う両手をパタっと下げた。どうも柳下がやっと平常心で聞いてくれるようだ。
なら、ついでにそのコトも言おうか。どうせ元々その誤解を解いておこうと思ってたから。
「あと、この前おまえが聞いたあのスクールバス事件もヘプタ・エックスと関係ないんだ。それはクラスメートが僕の席の下に爆竹を置いてやがって、結局直感が発動してしまって僕に車窓を破らせて逃げさせただけだ。その後はとても恥ずかしいしまた説明もできないので転校したんだよ。それを内緒にしてね」
まったく以前言いにくかった秘密だが、ようやくすべての誤解をはっきり説明してしまった。
誤解を解くことより気持ちいいことがないなあ。一頻りすっきりした感じが心の中でワルツを踊り始……
……どうして急に一片の影が柳下の周りに立ち込んだんだ。まさかまた疲れて目がかすむのか?目が覚めたばかりなのに。
「フッ、フフフフ……そうか……」
1オクターブ低い声に驚かせて、相手の体がまるで故障した壁掛け時計のからくり人形のようにガシャガシャっと振り返った。
死亡を示す細い目をこちらへ投げてきて、顔にド暗い雰囲気を浮かべた柳下、さっきの朗らかさとは雲泥の差だ。
彼女を電車に間に合わせなかったからこうなったに違いないんだ。だったらこんなに長く言わなければよかったのにな。
「何か聞きたくない話を言ってくるかと思ったから、ずっとおまえを回避しようとしてたけど」
えっ?彼女は僕が何か言い出すのを怖がってたから黙って立ち去ろうとしたのか。橋の上の邂逅を忘れようとして、僕を避けてたと思い込んでたけど。
「前は図書館でおまえもヘプタ・エックスに狙われてると思ったからそんなに喋ったが、やはり考えすぎだったんだね。自分で家を燃やした?妹に見捨てられた?またクラスメートに窓から逃げ出すほど驚かされたなんて?マジ残念だな」
上げた冷笑からぞっとする威圧感が広がってきた。もっと怖がらせるのは、両目が前髪に覆われたものの、かつて現れたことある『この悲惨な怯者だな』って目線がその髪を抜けて目に映ってる。
「おまえが一人前になる資格があるかどうかもう一度見直す必要があるみたいだ。明らかにまだたくさんの事を教えてやらなければな。だったら、俺はまだ男の身分をやめちゃいけねえようだ」
「おいおいおい、僕はただ──」
「旅行計画はキャンセル。おまえを指導して男らしさがある人にするまでどこも遊びに行かねえぞ!」
「ナニ?あの、退校……」
歩を進め、トランクケースを引いて僕と擦れ違った柳下。僕はただその背筋を伸ばし大股で進む後ろ姿を見送ることしかできなかった。
…………
振り返ると、さっきの旅客たちが改札口へ移動してる。彼らもなんか駅員のおじさんと同じ見下す眼差しでこちらにじっと見てるようで、ひいては『今の若者だな……』など意味不明な囁きが聞こえてくるようだ。
「この度はとても立派な失敗ですね。再び先輩を悲しく思います」




