終戦 男らしさっていうのは(7)
柳下が僕の同校生だったとは全然知らなかった。それより、ただ今解いてはいけない封印と直面する大ピンチだ。
周りにもうあの事を知ってる人が現れないと思ってたのに、なんとまだ柳下がいるとは!
それは、僕がかつて本当の怯者だったという真実だ。
もし学院の他の学生に知られたら、恐らくもう一度転校しなければいけない。あの秘密は五十年を経ても絶対公開しては駄目なことだ。これは人類全体の安全や地球と宇宙人の国交にかかわ……僕の前途ということだけど、大切さは同じだ!
「うーん、まだ気にしてるのか。まあいい、二度と言わねえから」
「お願い、他の人に知られないで……そういえば、おまえはずっと海外にいたわけじゃないんだね」
「うん、小学校一年は日本で勉強してたが、一学期が終わる前に海外に行ったんだ」
つまり、柳下がまだ幼い女の子だった時、家族はすでに彼女を開発する会社から脱出し、暫く日本に隠れてそれから海外へ引越ししたってことだ。
しまった、柳下の前でこんな事なんて言うべきじゃない。ご両親のことを思い出す前に話題を変えなければならない。
「なるほど……っていうか、教えたいなら言えばいいのに、どうしてあんなサンダルを拾わせる方法で?」
「あの時、ある児童書を読んでおもしろいと思ったから、その中のストーリーを真似してみたいだけ」
「誰があんな変な児童書を書いたの」
「マイスターを侮るな!」
ちっ、やっぱりお袋だな、張良と黄石公の中国の伝説を児童書にしたなんて。これからもしまた児童書を書くようになったら、必ずその辺に「良い子たちは真似しないでね」って明記するようとあの人にアドバイスすべきだ。
「失意する若者に果てしない知恵を伝授すること、こんなロマンは誰でも試してみたいだろう。おまえが帰る時いつもあの橋を通ることを知って、さらにあの例のウワサで、おまえをキャストとして選んだ。それにあの時まだ男とコミュニケーションする方法もわかってねえし、こんな小芝居で慣れるのが一番よいと思ったんだ」
「その『それに』の方は主因だろうな……それからは?」
その顔を下に向いて表情が曇ってきたのを見て、自分は失言したのに気づいた。
そうだ、その『それから』って、僕が破ったんだ──約束通りに橋の上に現れてなかったからだ。
「……橋でおまえを待っても来なかったし、それからおまえが転校したのを知った。結局学期が終わった後俺は日本から離れたんだ」
「ホッ!本当にすまなかった!理由があるから……」
「なんだ」
口調に咎める意味をちょっともらしたけど、柳下の目より今か今かと答えを待ち焦がれる気持ちが映っている。
それはちょっと言いがたいが、大した秘密なんかじゃないし、柳下はとっくに知ってることだと思うけど。
「それは……それから数日後、住んでるマンションが火事に遭って、最後にキャトが僕を別の家の近くの学校に転校させたんだ」
荒く息を呑み、その瞬く動作に相手の驚きが潜んでる。
「……そっか、わかった。戦嵐、さっきの問い詰めをおわびする」
「いいよ、もう過去のことだったから。そんなに硬くしないでくれる?なんか赤の他人のような感じ……」
「硬い?オレ……」
何度も目を瞬いて、柳下の瞳がゆるゆるとその目の周りを移動して、なんか舌を噛むようにいきなり体が後ろに傾いた。
確かに今日はちょっとむし暑いけど、相手の顔にその赤みが増しつつあるようだ。熱中症まではならないだろうけど。
「そっ、そうじゃねえよ、ただ、ただせめて礼儀正しく……」
赤みは額まで広がるものの、頬に汗が出てなかった。これは典型的な熱中症の兆しであり、恐らく柳下が薄い塩水が要るかも。
「あの……質、質問がある。男同士は互いに直接名前を呼ぶのが普通だけど……」
目線がゆらゆらと定まらなく、指で自分の髪を巻いてる柳下。
一体どういうこと?まさか柳下が体内の温度にもう脳まで影響されたわけ?
「……女は直接男の名前を呼ぶのは、お、おかしいか」




