第五戦 戦略芸術(10)
葉擦れの音と共に、街灯から飛び降りる赤髪の娘が隣の木の枝に沿って下に移動し最後は宮部の傍に来た。そんな滑らかな動きは、多分スタントマンでも感心するだろう。
あれは何?手錠?芸音がある銀色のものを取り出して相手の両手にかけてすぐ、すっかり黒髪少女の顔が地面に倒れていく。ちょっとあの模様はとあるテレビから這い出る怨霊みたいだ。
宮部が気絶したようだ。
多分元々女性と言い争うのが好きじゃないからか、あるいは黒いロングヘアーの魅力がかなり印象的だったのか、理事会の幹部の娘がこんなはめになったのを見て、ちょっと可哀想だと思った。
でも、それはただ一瞬だけだ。柳下がぼんやりとした時間より短い。
逮捕を終えた後、僕らの方向へ来た芸音。
「本当に申し訳ありません、ユアハイネス。もっと早く来るべきでしたが」
「芸音……」
「立ち上がらないでください、ユアハイネス。その傷で移動してはいけま──」
突然、宛も放勢するばねのように相手が近寄ってきたモーメントに、柳下の上半身は芸音の体へ飛び込んだ。
「芸音!見捨てられたと思ってた!」
怒るような悲しむような、柳下の声はちょっと飲酒後の無意識な怒号のようだ。
「あんたはヘプタ・エックスのストーカーだって宮部が言って、俺が撃たれたのも忘れるほど悲しい……まだたくさんあるのに!俺たちまだたくさん話をしてねえのに!まだたくさん大切なことをこれから一緒にやるのに!」
二人の少女が再会した瞬間、自分は彼女らと遠く離れてるって感じた。
芸音のような親友以外に、柳下はこんな感情をもらさないだろう。
大切なことか。彼女らの友情から見ては、確かにできることはたくさんある。
「この前サハラマラソンに参加しようと約束したのに!あんたがドタキャンしたら俺は怯者しか代わりに補充できねえんだ!なら絶対負けるよ!」
我慢だ。今この体は負傷状態で、大声で抗議すれば絶対内臓まで傷つける。
「ユアハイネスに認めていただいて誠に恐縮のいたりです。でもここにはまだ他の人がいますから、先に手を放していただけませんか。帰ってから喜んで同じ姿勢で一日中抱かせます」
仮に柳下が体内に磁石があったら、きっと磁極が変わってた、でないと急に芸音の体から弾むように離れるわけがない。
「やはり……まだユアハイネスは本当の私を受け入れられませんね……」
その激しい反発が芸音に寂しく目を伏せさせ、その顔は恋愛ドラマの中のヒロインに断られた主人公にやや似てる。まったくあの娘はそのパターンを真似してると思う、確かそのタイトルは……
……あれ、目の前が歪み始めた?芸音と柳下との姿を重ねたりしてるなんて。
益々視界がぼんやりして、芸音の両目が空のピカピカしてる星のようになり、まだこちらへ向きを変えてきた気配が……
……
……ボ……ボクシッケツ?




