第五戦 戦略芸術(7)
「……君が僕の頭を撃たないのは、もし君の夜間視力が弱いわけじゃなかったら、銃弾が残りわずかだから表面積が広い部位しか狙えないんだ、僕たちの距離が遠すぎたので一つの弾がそれたらもう終わりだ。また、六発目の時に直ちに僕に撃たなかったことから見ると、君がその弾を僕に撃ったら柳下を仕留めるものがなくなるって意識したことが推測できる。最後に──」
勢いに乗じて銃身をつかむ手をぐっと振り、この裏拳を思い切り宮部の頬に入れた。
「──さっきの君の表情はもうぼろが出てるぞ!」
拳を喰らった体が後ろに倒れてから、ふっと僕と一段の距離をおいた宮部。殴られた頬を撫でながら、その眼差しは極めて憤りで揺れてて、足どりが後ずさりし続ける。
「バカな……こんな命知らずなやり方なんて……君のようなボードゲームさえもよくプレイできないやつがそこまで考えられるわけないでしょ」
「ただ盤上遊戯は苦手だけだ、相手の考えを予測するだけならまだ少し自信があるんだ……」
ブンブンと首を振り、怒って言葉が詰まる宮部だが、その目が裏に吐き出したい言葉を全部もらしてた。
驚きや恨みや信じがたさなど、多分こんな感じだろう。まだ二言三言英語の卑語もあるんだね。いや、恐らく卑語の方が多い、だって彼女は英語の環境で育ったからさ。
ここまで、隣の柳下がとうに首を上げて見てたのに気づいた。
「……戦嵐……」
「この前僕の答えにまだまだ満足してないって言ってたよな、今他のもので証明してやる。喧嘩は苦手でも、人を守る責任はとれるんだ。もうおまえは理解してると思うけど……」
「おっ、俺は……」
「次世代人間だから何だ?コードで人のすべてを体現することができない。おまえに怯者ってコードを冠されても本当の怯者になるなんて考えたことないよ。もし自分を変えたかったら、まずそのコードを忘れるべきだ」
生まれつきの特殊な身分で皆と異なってると思うせいで、男という名目で他の身分を作ろうとしたんだ。
柳下が男性になりたいという気持ちは、人を守りたいこと以外に、恐らくより一層深い意味があるかもしれない。
それはただ自分の推測だけど、事実とは大差がないと思う。
男になるなんてことより、柳下に本当に必要なのは、自分を普通の人にすることだ。
「……ふふ、先ほどは君の勝ちなの」
遠方から明瞭に踏み鳴らす音が聞こえてきて、宮部の立ってる所はすでに僕たちと少なくとも三十メートル以上がある。
そんなに遠くまで行ってどうする?逃げるつもりか。
「なんと怯者もヒーローに変身することがあるのね、でも現実は現実よ」
「どういう意味──」
下腹に力を入れて声量を上げると、突然一波の震えが肩から襲ってきた。
「うわあああああぁ!」
ちっ、撃たれた部位が今痛くなり始めるなんて。
激痛が全身を齧り、ますます動悸の音が大きくなるのを感じて、いつでも急に止まりそうだ。
「ストッピングパワーが足りないって何なの?出るものは必ず出るのよ。もう動けないほど痛いでしょ」
いかにも、すでに僕は歩を移すのも難しいほど痛い。意志力でどうにか立つ姿勢を保つことだけでも、鉄の処女に閉じ込められて四方八方からくる痛みを感じてるようだ。
「さっきの振る舞いで君に興味が出たわ。頂いた拳をお返しする為に、ちゃんと君を踏みにじるべきでしょうか」
黒髪少女が腕を振るい、銀色の光に輝くものが漆黒の向こうから飛んできた
。
また鉄鉤だ、おまけに今回は首を狙ってくる!
地面に倒れて宮部の攻撃を避けようとするが、恐らく間に合わない。
目を閉じ、僕は首から現れるだろうとがった痛みを待っておく。
数秒だけかもしれないものの、その待つ時間は宛も隔世のようだ。
その上、もっと怪しいのは現れるべきの痛みがずっとないし、却ってストレスでとっくに息もできないほどだ。
数回深呼吸した後、僕がかっと目を開ける──
「……」
目先の光景に僕は声がとらわれた。
なじみの鋭い目つきはすでにその顔に戻った。
柳下は怪我してない手で敵の鉄鉤をぎゅっとつかみ、そのかつらがちょうどてのひらを守るグローブになった。
鋼線の張り切った程度と柳下の腕の震えから、彼女は宮部と鉄鉤の制御権を奪い合ってるのが見える。
しかも情勢は柳下の方が勝算が高い。
宮部の顔がはっきり見えないけど、相手は速やかに袖を捲って籠手を現してから、あるスイッチを押して鋼線を切った。
無理に立ち上がった柳下が鉄鉤をなげうつと、再度その横座りの姿に戻った。
「……大丈夫か」
「大丈夫大丈夫……うっ!いたたたたッ!」
いつでも身体の感覚は素直だな、たちまち見栄を張る僕の言葉を崩させるなんて。なさけない。




