第五戦 戦略芸術(1)
常識上、下山の道はそんなに長くないものの、事実はそうじゃなかった。柳下は足を捻挫してしまった。最後にやっとそれを言い出すなんて、本当に強がりな人だな。
今柳下に手を貸して、肩を組んで二人でゆっくり山の下へ向かっている。
本来おんぶしようと提案したけど、その肘から攻撃をこうむってから、このサービスを解消することに決めた。
妙なのは、この体に引き受ける重量が別に重くない。やっぱり胸のサイズと重さとは直接的な関係がないんだな。
「何を考えてるんだおまえ」
「べっ……別に」
「ウソつき。スケベな顔して、きっと何か変なことを考えてるに決まってるな」
芸音とRと同様、柳下も相手の心の声が聞ける能力を持ってる……それともこちらの表情がまた不甲斐ないのか。
またため息をついた彼女。この頬がその吐く息の温度が感じられる。
こんな近い距離だとちょっと緊張するから、できる限り目線を山の道に集中することしかできない。
そして、僕はもう柳下を男として扱うことができない。
「もうすぐ分かれ道に着くよ」
僕らが山道からさっき通り過ぎた分かれ道に戻って、ベースへ戻る方向へ進んでいく。
「……んっ?あれは……」
ある崖の付近のある街灯の近くに、一つの人影が現れた。
宮部みたいだ。そのきょろきょろ見回す様子から見れば、こっちに着いたばかりってのは推して知るべしだ。
こんな柳下を運ぶ人手が要る時に、宮部はちょうどよいタイミングに来たな。
柳下を支えて進む一方、宮部もこちらへ近寄ってきて、最後僕らは街灯の明かりの下に集まった。
「ヤッホー、山頂から降りて来たの。お二方早いね」
「いや、ただペースが落ちてねえだけ。芸音を見つけたか」
「いいえ。元々君たちに聞くところだったのに……どうやら諦めるしかないわね」
「諦めるって?」
「そうよ。下山の道をすべて調べて、全然誰も通った跡などないわ。黒羽さんはあたしたちが知らないルートを選んだかもしれない。あるいは直接この崖から飛び降りたとかね」
宮部が言い切ると、隣の柳下が微かに悔しい反応をもらしたのを感じた。
「そういえば、君たち負傷者がいるの。どうしたの」
「何でもない。ちょっとひねっただけだ」
「あらあら、本当にお気の毒に。経験不足の人が勝手に山に入ったら怪我をするのよ。君たち迷子にならずにここに到着できて本当に運がいいわ。山神様に感謝しなさいね」
「……じゃベースに戻るよ」
「ついでにあたしも。恐らく黒羽さんを見つけることはできないわ、明日早朝に部員同士一緒に下山した後、理事会と連絡するしかないわ」
宮部のような腕前がいいエージェントですら芸音を見つけられなかったのか。
もしも僕たちベースに戻って芸音も現れなかったら、それはすべての希望がなくなるのを示す。
「ふふ、お二方がこんなに互いに支え合えるなんて、以前対立してたことを思ったら本当にびっくりね。大丈夫、手伝ってもいいわ。部員同士だからね」
「そうか。ならば頼むぞ」
その腕をこちらの体から逸らし、僕が宮部に近寄って柳下を渡しておこ──
バンっ!
掌からぱっと現れた火花。
静寂を引き裂く爆発音。
時を劈く致命的な弾。
そして、とある空中で宙返りしてる体躯。
これらにより入り交じってきたのは、正常状況から離れたびっくりするような画面ということだ。
──思いがけず敵が発砲したものの、僕は真っ先に避けられた。
直感だから。
とっくに相手に近寄っていく時、直感がすでにこの体を支配してた。
そう、あの宮部術美っていう少女に近寄る時。
「そんなっ、まさか……」
慌ててる目つきがちょっとだけしたとたんすぐ憤りになり、宮部が銃口を僕の傍に指していく。
「君!」
宮部がトリガーを引き直す前に、ある銀色のものが柳下の手から飛び出した。
バタフライナイフ。
真っ直ぐこちらの傍から通るか早いか、宮部の銃を真ん中に当たった。
「キャーー!」




