第四戦 プランB(13)
「……でも俺は失敗した。ストレングス以外に、俺はもっと強くなれなかったし、芸音が世話をしてくれる状況も変えなかった。今こんな事態に陥るなんて、芸音が俺の軟弱さに反発して、ストーカーの組織に入ったりするのを恐れてるんだ……」
「黒羽さんがマジでストーカーだったら、とっくにおまえを仕留めてただろう」
「ヘプタ・エックスの中にアサシンとストーカーとの任務は別々だ。あの子はただ回路を盗んだらもう目的を達成したと言えるんだ……」
「じゃ、どうして黒羽さんが僕を引っ張っておまえの護衛をさせたんだ」
まるで弾丸に射抜かれるように──再び、僕の問いで全身硬直した柳下。
「ああ、ずっとしゃがみこんでてまったく疲れたよ。ちょっと座るからね」
と、僕が直接ぬかるんだ地面に座って、柳下の方を向いた。ズボンは多分もう泥だらけだな。
「おまえ何か勘違いをしてるかもしれないけど。今できるのはその誤解を解くことだ」
「……俺は何か勘違いしてたのか」
「まず、かつて母が一人前になりたがったらまずチカラを持つことを教えてやったって言ってたよね、そしておまえはそのチカラをストレングスに理解した。言っておくけど、そのチカラってのはストレングスなんて指してないし、却ってストレングスとあまり関係ないんだ」
「じゃ言え、マイスターが言ったチカラって何のことだ」
「いや、従来何も解釈したことがない、しかしそのチカラはストレングスじゃないってのを自ら声明したことがあるんだ」
「な……なに?」
「皆に解釈の自由を与えるため、母がはっきり説明しなかったかもしれないが、そのチカラっていうのはどう見ても喧嘩するなんかと関係あるわけがないだろ。もしマジで喧嘩のことだとすれば、母はただ一人一人にボクシンググローブを渡すのを主張するはずだ」
「……」
「僕から言う資格多分ないけど、そのチカラの意味っていうのは精神面のものを指すと思う」
「精神面?」
「そう。勇敢、沈着、理性、また責任感があること。これらの精神面に属するものこそ人を一人前に鍛えられるんだ。それが、男らしさというものだ!まさに僕がずっと追い求めてるものだ!」
「じゃ女性は一人前になるチャンスがねぇっていう意味なのか」
ちょっと呆れてから、自分が失言したのに気づいてしまった。女権団体の上様たちよ、うっかりしちゃって申し訳ありません!
「いやいやいや、もちろん女性も。ただどんな適切な形容詞を使うのかわから……」
「リーダーの特質。マイスターの著書『リーダーのアート』の一百三十ページの四行目に書いてある」
すげえ、どの行でさえも覚えちゃったなんて、僕はエロ本のどのページにすばらしいやつをのせてるのかしかそんな能力を持たない。
「リーダーの特質か……それらをマイスターが言ったチカラと連想するのは初めてだな。確かにリーダーの特質があるかどうかとは一人前になれるかどうかとは関係あるようだ。うん、この見方は悪くねえ」
最後、拳で手の裏を叩いた柳下、まるで何かを悟ったみたいだ。
これは目からうろこが落ちるということかな。でもそれを一緒に連想するのは当たり前のことだろう。まさか柳下は本を読み切っても少しもまとめはしないのか。
「いいだろう。マイスターの本意を勘違いしてたのを認めてやる」
「ならば自分が男だということに拘らなくてもいいだろう。女もできるんだよ。男らしさに男女の区別はないっていうことだ」
「そ……それは……それは後にしよう、これくらいの答えではまだまだ満足してねえ……で?まだ何か勘違いしてるのか、俺」
「さっきの話しで、おまえもしかして黒羽さんへの信頼を失ったってわけか」
寂しげな表情が再び現れた柳下、また目線を抱え込んだひざに落とした。
「そ……それは……」
「黒羽さんがストーカーだと思ったから?」
「しょうがねえだろう?まさかまだ他に回路を盗める人がいるか」
「いや、黒羽さんが回路を持って行ったに違いないだろう、僕はただ黒羽さんはストーカーなのかって聞いてるだけだ」
「……ということは、あの子は他の理由で回路を盗んだってわけか?」
「うん、その通りだ」
柳下はそんなの筋が合わないと思うかもしれないが、僕は自分の推測に自信がある。
だって、もし柳下の過去が事件のカギだとしたら、すでに芸音がバルコニーで言った話の意味がわかったかもしれないんだ。




