第四戦 プランB(11)
誰も気づかないうちに、僕が順調にベースから目を盗んで抜け出し、ただ一つの道に沿って進んでいく。
人煙まれな山中とはいえ、主な道路の街灯は欠けてない。どんなに急いでも、柳下は明かりのない小道などへ行くはずがない(それならいいけど)。
十数分後、僕が分かれ道のある広い空き地に着いた。
面前の低い防護柵の前は崖で、後ろに山頂への道と下山する道二本がある。
柳下は何処へ向ったの。山神に道を尋ねてみようかな。
いや、実はちょっと考えるとわかることだ。柳下は山の上へ行くに違いないんだ。
どうしてこんな結論が出せるかって?
理由は簡単だ。もし山の下へ行ったら、すでに柳下はあきらめたのを意味する──芸音の無実を証明するのをあきらめたってことだ。
芸音のことは柳下にとってとても大切だから、芸音はストーカーうんぬんなどと、柳下が絶対受け入れるはずがない。
彼女に起こされた時、あんないらだった様子が一番のあかしなんだ。
あの娘がただ夜景を見に行くとか、山の上へ行くしか証明できる道はない。
ときには、どうすればいいか自問することで、当人が何を考えてるのかわかるものだ。
あっ、こんな少しもロジックのない見地なんか、もちろん僕が自分で作ったものだ。お袋とは関係ない。
方向を確認すると、歩を移して進め始めた僕。すぐ結果が出たらいいなぁ。
でもこののぼり道は非常に長いらしい……夜が明けるまで歩いても柳下を見つけられないかもな。
「……えっ?」
しばらくして、ひざがだるくなってくると、ある人が隠れる岸壁に目を引かれた。
もしその下に潜む黒い影がなかったら、この岸壁は多分僕に無視されてただろう。
輪郭は前に近付ければ近付くほどはっきりしてきた。すでに黒い影の傍に一つの軍帽が置かれてるのが見える。
柳下誠、手に偽装用のかつらをつかみ、両手でひざを抱え込み体を横向きにして、岸壁の下に座ってる。
そのマントとブーツに泥まみれで汚れることから見て、柳下がもう山頂に行ってからこっちに戻ってきたのがわかる。
あれほど長い山道なのに一時間ぐらい往復したなんて、どうも陸上部の犠牲者らの泣訴は嘘じゃないんだな。
「何をしにきた」
相手に近寄り始めると、冷たい詰問が前方より聞こえてきた。あれは柳下のオリジナルの声である。
その視線が遠方へ目を据え、ただ柳下の顔の側面しか見えない。
もうこんなぼろぼろなのに意地を張るなんて。今回のコミュニケーションは水に流されないようになったらいいんだけど。
「俺を受け入れさせる理由がなかったら、おまえがこっちに残るなんて許されねえから。さっさと帰れ」
また受け入れられる理由が要るなのかよ。
では、この要求を介入するチャンスにさせてもらおう。
「……とある人は元々行方不明の友達を見つけようと自分一人で追いかけて行く。その人が分かれ道に来た時、その相手は何かをやるために山頂へ行くのを信じて山の上へ。だが最後は見つけられなくて戻ってきた」
言葉を言い終えると、こちらへ向かってくる柳下。その目の下に何かのあとがついてるのに気づいた。
あれは涙の痕なのか……今それを考えるどころじゃないんだ。
「……で?」
「そして、その人はなすすべがないので、仕方なく一人でここに隠れ、知り合いのダレかが自分を見つけて、多少何か役に立ってくれないかなと望んでて、あのとっくに脱いだかつらと軍帽が証明だっていうことだ。だから僕今ここに」
多少黒いところにいたものの、その眼差しに現れた変化に気がつく。
何回も瞬きしてから、眉尻がゆっくり下がっていく柳下。その警戒心に満ちた気配がだんだん消えていく。
「なぜ……そんなことまで……」
「それはもちろんだ。男同士の友情だもの!少年たちが支え合うってこと!」
予想の通り、柳下が軽蔑の声を出した。こんな馬鹿馬鹿しい見方を言い出す前にもうわかってたんだ。
「フン、なんか気持ち悪……」
「マジで自分が男だと思ってなかっただろう」
一瞬凍った柳下。
その反応も前に予想してたことだ。
性同一性障害やらなんやらって、結局柳下の強がりにすぎないってこと。しかし僕がそれを事実にしてた。
いや、正確に言うと、柳下に彼女がとっくに知っていても受け止められなかった事実を指摘すべきだった。
もしも柳下は本当に自分が男だってのを主張したら、きっと他人にこの意気消沈した様子を見せたくないし、さらにここで潜んで誰かの手伝いを待つなんてしない──アホのようにこれらの心配事を心底に隠して、何でもないふりをして帰ったらいいんだ。
もちろん、すべての男性がそうだと言えない、自分をサンプルにするから。
この推測をありのままに話し出すかどうかは、やっぱり先に置いておきましょう。




