第四戦 プランB(9)
「とにかく、状況を教えてやったわよ。あたし黒羽さんを探しに行く、たとえ見つけなくても山を降りて救援を求めなければいけないし」
「救援って?」
「君、まだ何も分かってないのね。ここは所謂圏外エリアなの、つまりあたしたちは山に閉じ込められてるってことよ。山を降りて救援を求めない限り、誰もあたしたちがここにいるのを知らないのよ」
事態の深刻さは、遥かに予想を上回っちゃったようだ。
山に閉じ込めたばかりか、飲食料品の量もあまり長持ちできない。一刻も早く救援を求めなければ、部員たちは危機に陥るだろう。
「おい!誰か、中にいないか!」
メタルドアの外から強くノックする音を立てて、宮部がボタンを押してドアを開けるが早いか、一人の部員さんが外から室内につんのめった。
「宮部さん!……ああ、よかった。あの……部長がものすごい勢いでベースから出て行っちゃったんだよ!」
「えっ!君たち止めなかったの」
「全然止められなかったよ。絶対黒羽さんを見つけるとか何とか言って、一人で走って行ったから」
「ナニ!山の中で迷子になっちゃうわ!」
かっと怒った宮部はこちらを向き、
「もうなんだかんだ言う暇がないわ。あたし山を降りて救援を求めに行くわ、そして黒羽さんを捕まえることを試してみよう。部長に会って彼を守るわ」
「君一人で?皆で探しに行くのは駄目なわけ」
「君たち捜査員の資格を持ってる?それとも野外でのサバイバル訓練を受けたことある?」
あっ、確かに。宮部は理事会の捜査員だから、こんな風に仕切る権力があるのは当たり前だ。
「下にいる全員におとなしく自分の部屋にいてもらうよう伝えてなさい。あたしすぐ救援を求めに行くから」
「はっ、はい!」
指令を受けた部員さんがすぐさま離れていく。あの人は知らないけど、とても大きなプレッシャーを抱えてるように見える──宮部の口吻は随分コマンダーのようだから。
「君も下に行って。確かにサイレン音がうるさいけど、ちょっとは寝れるはず」
「もうこうなっちゃった以上、寝れるわけないだろう」
「じゃ見計らって行動してね。とにかくあちこち駆け回らないでね」
と、鋼線を袖から投げる宮部。鉄鉤がバルコニーの手すりに引っ掛かってすぐ、宮部は外へ敏捷に飛び降りた。
それを見てはらはらする中、鉄鉤が手すりから離れた。宮部が下でしまってるのかな。
とてもプロフェッショナルだ、宮部さん。君の腕前は本当に悪くないね──だが僕を一人でここに置いていかないでくれ!
「はー、どうしよう……」
喃々と独り言を言いつつ、僕が緩やかに床から起き上がり、操作盤を押して体を支えてる。
操作盤の上に明らかな穴が一つ。回路は元来その中に差し込まれてるようだ。
芸音が僕を気を失わせてからパスワードで回路を盗み、そして一人でベースから逃げたってことか。
──それは事実なのか?そうみたいだけど、受け止められない。
とはいえ、受け止めないってのはある意味で、意地を張るようなものだ。
大量の直接証拠と間接証拠は全部芸音がストーカーってことを指すんだ。こんな情況で彼女の容疑を晴らす成功率はほぼゼロってことだ。
さらに、あの娘は図書館爆発事件の黒幕の可能性もあるんだ。
もしRが母国に帰らなければ、こんな事態には至らなかっただろう。
益々Rはわざと海外に送り出されたと疑えてきた。そうなると敵は手を出すチャンスが作れるからだ。
それも芸音の仕掛けなのか。もう推測したくない、もっと辛くなるだけだ。
──もし先輩は──
あれ?気絶する前、芸音は何か言ってくれたようだ、でもどうして思い出せないんだ?
……駄目だ、ただここに突っ立って考えてるのはまったく時間の無駄だ。記憶の断片はこれっぽっちも頭に再現できない。
なんか、思い出せないということはあくまでも脳が記憶の引き出しの鍵が見つからないそうだ。あちこちぶらぶらして、脳のやる気を引き出せるかどうか試してみよう。
「とりあえずここから出よう……」
オフィスを出てから、僕が階段からグランドフロアの廊下に出た。
部屋の隙間を通して、部員らが敷物に座ってぼんやりしているのでなければ、一緒に集まって喋ったりしてるのが見える。
「なんと賊が傍にいたとは」、「黒羽の仕業だぞ」、「あの人がそんなことをするなんて」などの声が室内から耳に入ってきた。もう、芸音は部員たちの中では副部長からストーカーになってしまったようだ。
何か誤解があるに決まってる!──って、すごく彼らに言ってやりたいけど、こんなのこれっぽっちも説得力がないのが分かる。
すでに事態がこうなった以上、説得して状態を逆転するなんて非現実的だ。
結局、廊下から離れるのを選び、一人でホールをぶらぶらした。




