第三戦 MADっていう暮らしの始まり(16)
「まっ、待て!まだ質問に答えてくれてないよ」
「答えたら、何かメリットがあるの」
口元に一片の笑みを浮かべ、宮部があだっぽい眼差しをこちらに送って、その後ろに狐の尻尾があるかどうかと疑わずにはいられない。
「来意を告げてくれれば、何か手伝ってあげられるかもしれない」
自然な口振りで相手に自分の考えを伝え、影響などこれっぽっちも受けてなかった。お袋のおかげで、色香の誘惑に対して一定の抵抗力を持ってる……まあ、どんな方法なのかは別の話だ。
宮部が片手で下顎を支えてるのが見え、ほとんど光沢のない黒目は片側にしばらく釘付けになった。
「……フフン、君勝手に他人を疑うしかできないわけじゃないらしいわね」
黒い揃えた前髪を撫でてる宮部はすぐ鋭利な目つきに変えて僕を見つめる。
多少柳下の勢いと違いがあるが、あれは一種の自信がある象徴だ。
「この学校は実際にはテクノロジーの実験場ってことを知ってるのね」
「うん、まだはっきりわからないけど、部をユニットにして、たくさん先進的な装置の試運転に協力することくらい」
「間違いない。では、ストーカーのことを知ってる?」
この質問にはちょっと嘘をついたほうがいいと思う。だってストーカーのことは芸音に教えられた秘密だ。
「……スッ、ストーカーって?」
「各部に属する設備の情報を盗むスパイよ。通常は他の国がひそかに派遣して来たけどね。部に対して、これらのストーカーは一番デンジャラスエネミーよ、だって一旦装置の情報が盗まれたら、部どころか、学校でも賠償する可能性があるのよ」
「なっ、なんかかなり過酷な……」
「そうよ、だから話をする時に気をつけないと、だってスパイさんはあたしたちのな・か・に・い・るかもよ」
と、宮部は手を銃の形にして僕を指しながら、小声でバーンっと言った。
「でもさ……そのストーカーなんとかって君とは何か関係あるの」
「あたしの仕事はこれらのストーカーの黒幕を調査すること」
声は低く沈んできて、軽はずみな態度は真面目になり、宮部がすでに服のポケットからある証明書を取り出して面前に見せたのに気づかなかった。
証明書の上に一面英語が書かれてある。最近英語で書くほうがかっこいいとか流行ってるのか。
……あれ?証明書の左に金色の鷹があり、それに何か書い──
──中央情報局!
「英語が読めてよかったね。最近の日本高校生はアルファベットすら覚えてないと思ってたけど」
「なっ、なんで中央情報局なの」
「あたしは帰国生徒なの。本当はアメリカ籍よ」
ま、またそこかよ!
「この学校はどんな国の支配にも属さないし、理事会と理事会が認めるグループにより管理してるものだし、理事会の構成人員については、もちろん各国から来たに決まってる」
「しかし学校は外国の情報機関の人が入るのを許すの」
「うん……多分」
「首を傾げてそんな曖昧な言葉を言うな!」
「あら、君は『もし学校に入らせなかったら一発制御不能のミサイルが君たち理事会のオフィスの屋根から落ちないって保証できないわ』っていうセリフのほうが好きなの」
「嫌だ嫌だ嫌だ!……違う!ちょっと真剣に!」
「うふふ、本当に可愛いわね君。やっぱり少年を翻弄するのは楽しいね」
高校生なのにまたカワイイって言われるなんて、それも同い年くらいの女性に。僕が追い求めてる男らしさは、自分からもっと遠く離れたらしい。
「知ってるの?この学校だけじゃなくて、世界で色んな大企業にもストーカーが存在してるのよ」
「色んな大企業に?」
「うん、所謂産業スパイっていうものよ。それらのストーカーは大部分同じ組織のもとで訓練を受けて操作されてるの。組織の名前はヘプタ・エックス、インターナショナルの犯罪組織よ」
国際犯罪組織ヘプタ・エックス?なんかださい名前だなぁ……っていうか、自分がかかわる面倒なことが一層増えてきたじゃないか。
「その組織の未成年スパイ訓練養成に関する情報を集めるために、あたしがここに派遣されたの。だって子供を戦争に参加させるのと同じく、インターナショナルに許されてないからね」
「中央情報局こそ少女エージェントを訓練するのが許されてるの」
「ふふ、だってうちは中央情報局ですもん(心)」
「あのハートって心だけで言ってもらえる?」
「それじゃ控えめすぎ、もっと奔放な方がいいわ。あたし日本出身だけど、アメリカ育ちで、アメリカの文化に慣れてるの」
僕の知ってる限りでは、あの地球の向こう側にある国は映画の中で演じられるようにそんなに自由奔放じゃない。もしマジで未成年の女性と付き合いたがったら、やっぱり相手のご両親に銃で問い質されてしまう可能性がある。




