第三戦 MADっていう暮らしの始まり(15)
「あのね、聞きたいことがあるの。学校の中にある直感が鋭い人がいるって噂を聞いたけど……」
「……はぁ?何それ?」
「ちょっかーん。それに危険が予知でき、さらに回避できる直感なのよ、プレコグニションみたいなの。知らないの」
宮部の言葉はバチに変わって僕の内心の木魚を叩き始める──芸音はこの人にも僕の秘密をもらしちゃったのか。
喋りって何なんだ。明らかに僕に狙いをつけてるじゃないか。
「なっ、何言ってるの。勝手に他人の家に押し入った上に、こんなわけがわからない質問をするなんて……」
「わけがわからないなんかじゃないわよ。情報によると、かつてあんな能力を目撃したことがあるって君は」
漆黒の目玉はまるで二個の大きい黒曜石のようなものの、少しも人間の生気がなくうす暗い光が溢れてる。
その眼差しに床に凍りつき、相手の口がもう少しでこちらの顔に触るのを忘れるところだった。
「目撃?」
「そうよ。体育館でね。噂によると、君は直感っていう能力を持ってる人と一緒に着替える女子生徒を覗いた時気づかれてしまい、あの人の直感能力で女子生徒に押し倒された跳び箱に圧死される危機を脱したそうね」
宮部が言ったのは大筋で正しい、だがもう一人なんていないんだ……なぜこのことを知ってる人が益々多くなるんだよ!
僕が迷子になって体育館の女子更衣室の物入れに隠れた情けない話は、実はその後の話があるんだ。あの時気づかれて逃げようとしたとたん、なんと女子生徒たちは積み上げられた跳び箱で僕を攻撃するほど怒った。冗談ではない、あの高さの跳び箱に当たれば、絶対重体になる。
宮部が何処からこの情報を入手したのかわからない。芸音さえも僕に鎌を掛けてそれを知ったのに。
しかし、宮部は危機回避という能力を持ってるのが僕だっていうことを知らないようだ。
もっと重要なのは、僕の直感の弱点、宮部はまだ見抜いてないようだ。
「ねー、いいでしょ。知ってるなら、教えてちょうだいよ」
「……その跳び箱ぐらいは誰でも避けられるよ。ただちょっと身をかわしただけだよ」
「うん?じゃもう一人は?」
「他に誰もいなかった、僕一人だけ。さっき君が言ってた直感とかなんとかは、本当に知らないよ」
「もうー、これだけじゃあたし満足できないわよ……キーミ、知ってるよね……」
そう言いながら、胴体をこちらの体に伸ばしてきた宮部。その下半身は自分の腰に沿って緩々と下に移動してる。
一般の男性なら、きっともうたまらないだろう。こんなことを情事と言ってもすぎない。
が──
「宮部さん、君がどうやって僕の体育館での出来事を知ったかわからないけど、もう本当のことを教えたよ。そしてもしマジでプレコグニションみたいな直感を持ってるなら、今君に床に押し倒されるわけないじゃないか」
眉を顰めて、自分の肩をつかんでるその両手が暫しぎゅうと握ってた。
と、両目を閉じ、そっと手を僕の肩から逸らした相手。
「フフ、やはり違うのか今回は……」
宛も鶴の姿、宮部が優雅に立ち上がって、自分の体から離れていった重さはまるで羽のように軽やかだ。それに比べ、僕が凝らした腕で体を支えるのも難しい、やっとのことで相手とともに地面から離れた。
「もう……あたしもミスをするなんて、まったくまだ未熟な身よね」
「勝手に感慨にひたるなんてやめてよ。どうして僕の家に押し入ったの、そしてどうやって僕がここに住んでるのを知ったの」
「ふふ、ただ無性に君と喋りたいって言ったじゃない」
「あんな子供騙しな言葉は早くゴミ箱に捨てた方がいいよ!言ってくれなかったら警察に通報するよ!」
「あらあら、綺麗な少女が部屋に現れたのに、少年は警察に通報するなんて。まだどの小説でもこんな展開を読んだことないわ。一般的に直接少女を住ませるところなんじゃない。喜んで住むよ」
「ちょっと真剣に答えてよ!」
「うん?今真剣よ。さっき取調室で怒った君を見た時、やっぱり少し男らしいと思ったよ」
柳下の挙動は間接的に僕のイメージを転換してくれたようだけど、これによって変な女性を惹きつけて欲しくない。
「まあ、いいわ、そのトイレに行きたい顔を見るとなんか可哀想。からかわないでおくわ」
「困ってる表情なんだよ、どうしてトイレに行きたいなんて思われるの」
「じゃどうして常に眉を顰めてるのか自分に聞きなさいよ。その様子は本当に用を足したい人みたいだから」
片目を閉じて宮部は人差し指を左右に振ってて、まるで子供に言い聞かせるお姉さんみたい。本来眉を顰めるってのは困るという意味、一体何の理由で宮部まで芸音と柳下と同じ見方をするんだよ。
「では、そろそろ時間ね。じゃ」




