第三戦 MADっていう暮らしの始まり(14)
家へ帰る道を歩きながら、一時間前に起きたことがまだ頭に詰まっている。
管理棟から出て間もなく芸音が現れ、とっくに外で待ってたことを示した。当時芸音は土下座までしようとしてたくらいでずっと柳下に謝罪し、またユアハイネスと同年同月同日に死ねないなんて本当に万死に値するとか繰り返して言いながら、柳下がまだ生きてると知らせると、ようやく芸音が自分の挙動を控えた。
ベースで変装を解いてから、芸音が僕の軍服とかつらを回収した。これらが再び君の前に現れる時、護衛の責任を取ってもらう潮時である──最後に芸音はこう言った。
っていうか、あの人たちと別れるまで、柳下が芸音に対する態度は何も変わらない、たとえ彼女が宮部の憶測の真相を聞いたとしても。どうやら取調室での心配は余計だな。
妙なのは、尋問が終ってからベースを離れるまでの間に、柳下は僕を正視したことが一度もないし、語り合うことなども言うまでもない。つい視線が合ったりすると、相手もすぐに顔をそらし、僕っていう人が存在しないふりをするんだ。
どうせあいつとの関係はこんな感じで、不行儀などどんでもいい。彼女の命を守ったとしてもいかがなものか。
交差点を通り抜けてから、僕の家はある路地の一番後ろにある。二階建ての一軒家は一般の住宅と区別がないけど、ラブコメをここで上演するのはちょっと困難かもな。
ドアを開け、勝手に靴を脱いでスリッパを履いてから、僕は玄関を通って二階にある部屋に入ろうとする。
もし見知らぬ人が家に来たら、一目できっとあのリビングルームにある古代西洋のキングの玉座みたいな席に引かれるだろう。あの席の持ち主は誰って言わなくてもいいね。もちろん、お袋のものを使う勇気はない。
彼女がいない高校生として、僕の部屋はとあるいつも耳のない青猫を頼りにする人生の失敗者の部屋より一列のガンラックが多いと言ってもすぎない。
よどんでる空気が気分をうっとうしくさせ、さらに今日の出来事も加え、不安定な気持ちはすでに心に連鎖反応を起こしてる。
学生かばんを放り投げて窓を開け、ちょっぴり自由な空気をとらまえようと試みる。
ガチャーン──!
窓枠に近寄ったところに、室外の風景がいきなり大きな黒い影に飲み込まれた。
ガラスはスローモーションで面前に破裂し、まるで砕いた氷のように外から内に吹っ飛ばされた。もしも強化ガラスじゃなかったら、すでに顔を怪我したかもしれない。
黒いストッキングに包まれる細い両脚が窓を突き抜けてこちらに首をはさみながら、飛び散るガラスの欠片に伴って僕を地面に押し倒した。
腿の持ち主はわざとやったのか。いや、こんな押し倒す形式と持ち主の表情から判断すればこれは事故だとわかる。
ガラスの残骸が一面に散らばってる床に倒して、自分の下顎は相手が言うまでもない駄目な所とただ手のひらくらいの距離しかない。
宮部術美と呼ばれる少女、そのままで僕の胸に座ってる。
自由、どうやら一度も僕を愛顧することなし、この部屋ですら来訪するのも嫌だったらしい。ただ今叫びたいのは──君忘れ物でもしたのかっと。
「ありゃ……違うのかな」
小首を傾げて、歪んだ眉と少し開けてる口では相手の戸惑いを感じた。けど下敷きになった僕の方が戸惑うんだよ!
「おい、何してる!これは不法侵入だぞ!早く離れろ!」
「……」
「寄り目なんてするな!笑い出しちゃう!」
いきなり、そっと目を瞑った宮部は顔をこちらの面前に近づけてきて、両手をやさしく僕の肩に置いた。
「ヒヒヒ……ごめんね。あたしはただ無性に……うん、君と喋りたいの」
「インターホン押せばいいじゃないか!ボタンが見つからなかったとか言うなよ」
「あら、インターホンなんて個性がないじゃない。それにどの家庭でもベルの音が同じだし、つまらないわ」
「それはドアにトランペットを掛けるほうがいいっていう意味?」
「フフ、なんかこの比喩はいやらしいわね。でも演奏するなんて苦手だから、直接君の部屋に来たわけよ」
と、鼻尖を僕の鼻先にくっついてきた宮部。驚異の寒気が心構えがないうちに全身の神経を侵食してる。
痒みは鼻頭で踊ってる、だがまったく止める気力はない。
どうして?どうしてこの少女の顔はあの十年前サンダルを拾わせられた娘の姿と重なったのか。
馴染みのないありふれた感じは、我に返ってからひっそりと消えていく。もう一度振り返ろうとするが最初の感触は失った。
まさか先ほどのデジャビュはただの記憶混乱か。それとも左脳と右脳のバランスが崩れたのか。




