第三戦 MADっていう暮らしの始まり(5)
「……」
「……」
彼の目と合わせる時は客観的にただの数秒だけど、
僕にとってあれは生まれてから今に至るまですべての月日と同じぐらい長かった。
違和感。それは一種の違和感だ。まるで自分の身分は他の人に取って代わったように不快を感じる。
「っ!」
相手が椅子から飛び降りる格好は猫より敏捷で、我に返る時もうすでに壁の隅に追い詰められちゃった。
「何ものだ。誰がおまえにこんなに着させるんだ」
中性的わざと抑えてるバスが相手の口より出て、この人は誰か気付いた。
「……柳下?」
まやかしがまず目を見開いてすぐに、あの人が一貫として僕を見る軽蔑の目つきに回復した。
「フン、おまえか」
何だよそのおまえかって!僕の格好をしてあんなだらしない姿で本を読むなんて、傷つけるのはこちらの名誉だ!もしいつか彼女がそのまま女子トイレに入って見つかったら僕は変態になってしまうじゃないか。
……待ってよ、わかったぞ。道理で柳下がそんなに多くの人を怒らせるものの学校で因縁を付けられることなどがしないんだ。そちらは放課後僕に変装してるからだ。びっくりしたよ、かつらを被ったら僕に似てるのな。
「きっと芸音の悪巧みだろう。つまらねぇ、とっくに護衛なんて要らねぇって言ったのに……」
あのさ、僕の顔でそんな借金返済されてないような表情をしないでくれる。自分とそっくりの顔に嫌な人の人相が浮かんできたりして、また生粋のはっきりしてるソプラノを操るなんて。マジ気持ち悪いから。
「昨日頭を芸音にたたかれてたね、大丈夫?」
「僕も追い詰められっ……はい?」
相手が偽装のことについて質問してくると予想したものの、柳下は思いも寄らない言葉を言い出した。
「堪違いするな。優秀なリーダーは適時に部下のことを気遣うもんだ。ただそれを貫くだけだ」
フンと柳下が目を閉じ向きを変えて席に戻り、またあぐらをかいてて、机に置いた本を読み続ける。
もう本物がいるのに、足を下げるぐらいはできるだろう!断固抗議を!
「お……おまえどうしてここに……」
本気を出せなくて、こんな極普通の質問を聞く勇気しかあるまい。誰から僕に変装するのを教わったかとさえもスキップしちゃった。
「本を読むだけでおまえに届け出るなんてしなければならねぇのか」
確かに目の前の机にたくさんちょっと古っぽい本が置いてあるけど、その大量置きっばなしの本から見れば一冊でも読み終えてないようだ。
あっ、まさかこの前宮部が言ってた人は柳下のことなのか。恐らく本棚の本が全部彼女にここに運ばれた。
閲覧机に近づき、本の表紙に書かれてるタイトルにざっと目を通す。
現代大戦略とか、欧米戦略思想史とか、東洋戦略思想史とか、リーダーのアートとか、当代傑出した人物など。
この光景はまったく戦いずきな好戦者が宿題を復習してるみたい!
「それ、全部読み終えるつもり?今日中で?」
「手にしたのは必ず。他のはわからねぇ」
「じゃ、どうしてこんなにたくさん運んできたの。一冊一冊取ってもいいじゃない」
柳下はただ勝手に本の一ページをめくってしまった。
きっと何かある。これらの本に何か訳が隠されてるのかをチェックした方が……アノ名前が発見できそうな予感──
作者、キャト。訳者、キャト。編集、キャト。校定、キャト。序文、キャト。
「マイスターの作品ならすべてが好き。問題でもある?」
発見したものに意外とは感じてなかったが、柳下はそんなにお袋に崇敬極まりない念を抱いてるなんてけっこう驚いた。
賭けてみようか。こんなところで柳下に会ったなんて、絶対芸音が事前に計画しておいたことだ。あの娘は柳下がここに現れることを知ってる。
今は昨日の話題の続きを話すチャンスなんだ。Rの言ってたことを一切柳下に確認すべきだ。
もちろん、彼女の口から何かを聞き出そうとしたら、明らかに質問方式を変えなければいけない──まずお袋のことより着手しよう。
「あるよ。ところで昨日まだ答えてくれてないのね。どうしてそんなにハっ……キャトのことを重視してるのか」
柳下が顔をそらし、相手とつき合うことを潔しとしないことを象徴する細めな眼差しが再び現れた。
が、わずか一瞬だけだった。
相手が息を深く吸い込み吐いてから、彼女の向こうの席に座るようと目配せする。
椅子を引き出すが早いか、柳下は口を開く。
「マイスターの噂と特色について、知ってるはずだろう」
「うん。よく姿を見せないけど、あの方は今の戦略思想には独特で優れた見方を持つ無国籍者。だね」
「それだけじゃねぇ。マイスターは世界国際戦略ゼミナールに初めて招待される無国籍者である。著作でも発言でも、そのスタイルは男性とは違いがない。マイスターが持ってるカリスマ性が女性の中でもかなり珍しいから、俺は非常気に入るんだ」
男性と違いがない?お袋が表現したものは特別は特別だけど、自分の目にはただの行動派女性だと思ってるな。
「でも、そんなにマイスターを尊敬してるのは、実はかつてあの方に指導を受けたから」
どうやら面白い話題がきたようだ。従来お袋はそれなどを言ってくれたことがないんだ。
「俺以前海外で勉強してたことを知ってるだろう。マイスターは俺が小学生頃の……」
「先生?」
「スクールバス運転手」
なっ、何だって?




