第三戦 MADっていう暮らしの始まり(2)
図書館へ行って訓練をする?利用者カードがなくても本が借りられる?それから多分係員が次の冒険場所を教えてくれて、そしてカメラなどを何処かに隠して僕の馬鹿馬鹿しい行動を隠し撮りするだろう。
芸音が何を考えてるのがわからないけど、直感が嫌な予感を伝達してくれてる。
手にしてるメモを僕に届ける相手。
「これは本のタイトル。早く行きなさい、もうすぐハーハイネスが帰ってくるの」
「もっ、もし失敗したら?」
「仮に色々な原因で見抜かれれば、戦略部は君の存在を否認し、そして学校も君の学籍を除籍する。君はアメリカ経済衰退時に大量に現れたホームレスのように路上生活して、無駄に希望のない明日を待ってるしかないの。仮に色々な原因で死亡であれば、我々は君の席に一輪の花を捧げ、ついでに石材店に知らせて少し業績をあげるの」
その最後のセリフに対してもう免疫があるが、前の三句のが多分本当かもしれないってわかる。
「とにかく、本番だからね。見抜かれちゃ駄目、さもないと君に護衛など頼む必要ないの。なるべくハーハイネスの言動をまねして、本を借りて戻りなさい」
悪賢い笑いを控え、真面目な表情で最後の説明をした芸音。本気になった魔王の姿が見られ、勇者としても結末がついたというわけか。
でも出発前、まずあることを明らかにしたいんだ。
「黒羽、聞きたいことがあるんだが」
「オトコに呼び捨てで呼ばれるのは嫌だけど、キミは例外……何よ」
「どうして柳下は自分を男性に装うのか。もし本当に狙われてたら、せいぜい偽名を使えばいいじゃないか。わざとそんな風にまで改造する必要あるのか」
芸音が黙った。相手は両目を閉じながら腕組みをして、まるで待ち設ける状態に入ったようだ。
多分これ以上話したくないだろう。芸音は柳下のボディーガードだから保護する対象の情報を一切守るのは義務そのものだ。
何も言わずにオフィスを踏み出そうとすると、
「性同一性障害」
芸音の声が背中に響いた。
「これは一種の精神疾患であり、先天性説と後天性説の仮説がある。ハーハイネスの場合は後天性かもと思ってる」
「後天?」
「ただ自分の推測で、他の証拠などがない。言えるのはここまで」
無表情で、相手は気持ちを見抜きにくい、心のない声で言った。
慎重に考えた上、この情報を教えてくれたのかな。ひょっとしたらある意味で彼女は本当に僕を信じてるかもしれないんだ。
返事もなく、僕はそっとうなずいてすぐに、メタルドアの重い音でオフィスから離れていく。




