第二戦 ゼロ和ゲーム(13)
「その柳下誠のことだ。あの子はもう先に帰って休んだ。けど、命が危険にさらされてるんだ」
さらにその言葉の意味を掘り下げようとするところ、相手はバルコニーの手すりから飛び降りて室内に歩いて来た。
銀色のポニーテールは充分な光でキラキラして見え、たとえ水晶の彫刻品でも見劣ってしまうだろう。先ほど攻撃で使った右手にシルバーの鎧をかけて、五つの鋭利な爪と機械仕掛けの手はまるで一体成型の工芸の傑作のようだ。
この人は芸音が言ってたRに違いない。学校教職員の制服を着る彼女は一種の賢そうな雰囲気が溢れてる。
「危険にさらされてるって?どういう意味だ?さっきここで会ったのに」
「柳下は、暗殺される可能性があるってことだ」
……アンッ、アンサツ?
自分がいつでもどこでもいきなり現れたアサシンに命を取られるっていうこと?
そう言えば、初めてこのオフィスで柳下とばったり会った時、確か僕のことをアサシンと名指ししてたようだった。
「ごめんね、R。まだ怯者に状況を説明してあげてる途中で貴方の電話がかかってきて……」
「大丈夫。私がいったらわりとはっきり解釈できると思うから。任せなさい」
ハイヒールを履きこなしてるRは事務机の後ろへ歩いてから勝手にオフィスチェアに腰を下ろした。
「皆は私をRと呼んでる。君は怯者というコードの佐野戦嵐だね。初めまして」
「その怯者は余計ですけど……」
「この部の顧問の先生として、私はコードで部員を呼ぶ義務がある。これで親近感が増すだろう」
「さっき僕に攻撃を仕掛けたのに、それでも親近感が増すって言えますか?もし僕が避けてなかったら?」
「まだたくさんコンクリートが倉庫にあるから、君の死体は発見されることはないよ」
一見聡明そうなものの、答えはこんなにいい加減なんて。この部では学生から先生に至るまで頭が正常な人はいないと疑ったほうがいいんだな。死体はコンクリートに封じても海に投げ込まなければ発見されないわけないだろう。
クラスメイトたちの話によると、かつてRはドイツに長期滞在し、その後外国人教師の身分としてこの学校に来た。色々な噂の中で、最も有名なのは彼女の右手であり、最先端技術を使って作り出した義肢だそうで、本物の手と差異がないそうだ。
「入学願書の自己紹介により、君は友達がいないようだね。機密を漏らす心配がないな」
「暗殺にしろ機密にしろ何もわかりませんよ。一体何か言いたいんですか」
小さく含み笑いをしたRは造作もなく口にくわえてるタバコを出す──
タバコじゃなくて、棒付きキャンディだ。赤色だからイチゴ味のようだ。
「赤ワイン味だったよ。勘違いしないでね」
「どっ、どうして僕が何を考えてるか分かったんですか」
「相手の考える道筋を予測するのは戦略の指導目的の一つである。が、身に付けられる人はあまりいないんだ。まあ、それは置いとこう」
Rが目を瞑って舌の先で棒付きキャンディをペロペロ舐めてる。より正確に言うとちゅーちゅー吸ってるんだ。その光景はちょっと焦れったくさせる。
「先に問おう。どうして君たちの部長は男性に変装してるのを知ってる?」
「知るわけないんじゃありませんか。あの人の悪趣味なんじゃない?」
無意識に軽率な言葉をすべて吐き出した後、少し間を置いてからまたおもむろに口を開く。
「……暗殺されないように身分をごまかすとか」
「そう。この前ハーハイネスは海外であるもめごとに巻き込まれて、今狙われてるの」
Rの隣にいる芸音が代わりに答えた。その顔に珍しく厳粛さが浮かんでる。
「だから柳下は海外からこの学校に転校してきたわけか?」
「うん。学校の経営者たちはそれを知ってて、かつて教官を担当してたRをハーハイネスの保護者として委任したってわけ」
「どうして専門のボディーガードに頼まないの」
「ハーハイネスを狙う組織は国際犯罪集団だし、知らない人に任せたら行方を暴露される可能性もあるから」
ここまで聞いて、はじめて自分はもう未経験な状況に踏み込んだことがわかった。
国際犯罪集団。時々ニュースで見ることがあるけど、自分の周りの人がこんなグループに狙われるなんて初めてだ。
ただ、今確信できることが一つある──芸音がふざけてないってこと。直感がそう教えてるから。
「だったら、どうして君が柳下の守護をしてるの。君たち知り合ったのは今学期だったんじゃないか」
「私の後見人はハーハイネスの親の友達だから、幼い頃からすでにハーハイネスとは知り合いの関係なの」
なるほど。道理で柳下はこの学校に転校してきた時から芸音が『カレ』の彼女になったんだ。二人は一芝居打ってたってことか。




