第二戦 ゼロ和ゲーム(11)
「はあ?」
わざと聞こえないふりをするよう、勝手にさっと向きを変えて、柳下は自分のソファーに戻ってもう一度本の世界に入ろうとしてるようだ。
おおかた今し方の会話は、ただあってもなくてもよいレクリエーションだと思ってるんだろう。
でも、あいつはさっき自分が投げ出した本を持ち返すのを忘れた。
「あの……本を持ってくれ……」
遠くないけど、やはりこっちから本を持って届けるのは力がかかるし、それに──先ほど他人を無視したのに、またものを拾ってもらうなんて、こんなに人を手伝ってあげるのは億劫だよ。
本は依然としてベッドにうつ伏せになってる。拾ってから背表紙の上にある文字は目に映ってきた。
書名は、孫子の兵法。
なぜこんな無味乾燥な書物に興味がある女子高生がいるのか。
ちなみに、中学に入学した時、もうお袋のもとでこの兵法書の内容を分析したんだ。
あっ、また小さいなサブタイトルがあるみたい。
……傑出したリーダーのなり方を教わる。
まあ、傑出のリーダーはこんな書物を見ないのは知ってるさ。せめてお袋はこう言ってたんだ。
あれっ、作者の名前みじか──
──キャト。
お・ふ・く・ろ!
「はっ、早く!」
目を細めながら手をまっすぐ出す柳下。元々その緊張ぶりは今一層明らかになった。
最初は恥をかくのを恐れて持ってもらおうとしたくせに、却って読んでる本が見られた上に自分が正真正銘のファンってことが確かめられちゃって、これはいわゆる有害無益ってのか?……あれ、熟語を間違えたかな。
まあいい。お袋のファンには、少しサービスをしてあげよう。
「ハーハイネスに近寄るな!」
ドッ──!
まさに本を拾って柳下の方へ踏み出そうとする拍子に、大きく響くぶつかる音が強烈な痛みとともに頭部から放射する。
壁の隠し扉の影が視野の辺縁に揺れ動いてきたと同時に、僕の意識はまた天国の方へ走っていってしまった。




