第二戦 ゼロ和ゲーム(6)
「さっき入学の案内のことを言及したのに、まったく読んでないものね。いわゆる試運転は──」
途中で、徐々に大きくなってくる音楽がいきなり芸音の説明を中断させた。携帯の着メロのようだ。
──待ってよ!このエレキギターをメインに演奏するメロディーは、とあるイギリスの諜報員の映画の主題歌じゃないか!
すぐに電話を受けなく、却って芸音はメロディーにつれ指を舞って、音楽の雰囲気を楽み気味だ。
曲のクライマックスになると、満足げに携帯を取り出した芸音。あれはスパイカメラの形みたいな黒い折りたたみ式携帯である。やっぱりスパイだけ……あるいはスパイになりたいやつが配備するものだ。
あの娘は本当にとあるイギリスの諜報員をコスプレしてる……
「ハロー?……あっ、R。ごめんなさい、ちょうど用事があるから抜け出せないんですけど……」
先ほどの言論を修正しよう──彼女は自分を正真正銘のイギリス諜報員だと思ってるんだ!
「……今ですか?はい、ちょうどこちらもそろそろ……ではのちほど」
芸音が優雅にパタンと携帯を閉じてすぐ、立ち上がって出口の方へ歩いて行く。
「今ある人にちょっと用事を処理に行くようと頼まれたから、おとなしくここで待ってなさい。なるべく早く戻ってくるから」
質問するチャンスもくれないで、芸音が振り返りもせずに休憩室を離れ、間もなく遠くより喧しいメタルドアの稼働音が聞こえてきた。
再び室内はしんとなった。今このオフィスの中に僕と柳下二人きりなのに気付く。
相変わらずさっきのままで、柳下は頭を本に隠し物事に動じない。
それは相手が部屋の中に他の人間がまるっきりいなく、人間の名にも値しない生物しかいないと思ってるだろう。
本当の性別にもかかわらず、柳下が僕を馬鹿にしてる事実だけは変わりはしない。
まったくこんな気まずいアンビアンスは閉口だ。何か突発的な出来事で僕をこの息苦しい空間から解放して欲しい。たとえちょっとだけ一息入れてもいいから、さもないとマジ酸欠で死ぬよ。
ガランっ!
宛もびっくり箱のよう、突然枕元の近くの壁は音とともに開いて、芸音の顔が穴の中から出てきた。
後悔しちゃった。やはりここは静かのままの方がよかった!
「警告するのを忘れた、この間にもしもハーハイネスに何か卑猥なことをしたら、一生責任を持ってもらうよ」
と、芸音は手を伸ばして壁にはまってる銃を引き抜いて、隠し扉を閉めてまた去っていく。
これは手品か?この戦略部のベースはあちこちからくりがあるのかと思い始めた。
騒いでる空気がだんだん収まってきて、柳下が本をめくる音はたきぎを暖炉に投げ込んで燃えるように大きく響く。それは今どれだけ静かなのか気付かせる。この時間を利用して、これからどうやってあの面倒な二人を対処するのかちゃんとまとめようか。
えーと……まず最初はセキュリティカードを返すためここに来たが、柳下は女って事実を発見し、それから芸音は別人みたいに僕に柳下のボディーガードを担当しろと言いながら、何処からか僕の以前の情報も手に入れたし……そうだ、もう少しであいつに蹴られて気絶させられるのもあったな。
一応、今警戒が必要なのは芸音の方だ。以前に彼女ともっと知り合いたかったのに……一体あの娘はどうしちまったんだ?僕をボディーガードにしようなんて。武術にかけては誰よりも優れてる柳下のことだから足を引っ張るやつなんか要るわけないだろう。
「っ……!」
人は物思いにふける時、自分が何処を見てるか気付いていないのはしばしば、ふっと我に返る瞬間恥をかいてしまったことは誰にもあるだろう。
さっき状況をまとめる中で、僕は無意識に柳下をまる一分間もじっと眺めてしまったようだ。
でも、相手が座ってるソファーを見つめているだけでよかった。でなければ本当に目を合わせたら彼女を不機嫌にさせるばかりか僕も気持ち悪くなる。
とはいうものの、ある物は僕の視線を引いてしまった。
あれは一枚の写真だ。まさに柳下が座ってるソファーのクッションの隙間に挟まってる。黄色っぽくなってるけど、カラー写真だったように見える。ちょっと遠いからか、写真の中の人物の輪郭が見分けがたいし、ひいては男か女かってのも識別できないものだ。
不思議なのは、僕の手は知らず知らずに写真の方へ伸びていく。
そう、知ってるよ……あの写真の中の人は……
パッっ──!




