第二戦 ゼロ和ゲーム(4)
「おまえっ!……」
「やぁっと本気で私と交渉するよねー」
すでに相手の目が邪気から一層邪悪に昇華してきて、すっかり顔の雰囲気が一般の女子高生とは全然違う。
いけない。ぼんやりする余裕がない。これを芸音に言い触らされれば……
「なっ……何を言ってるのか分からない」
「とぼけるなよ。他人の情報を得るのはスパイにとってかなり容易だね。ここはスパイ養成学校って言ったじゃない?」
「君の言ってる意味が分からないし、何が言いたいのかも分からない」
否認。これは現在たった一つ思いつく応対方法である。芸音は何処から断片的な消息を尋ねただけで今鎌をかけようとしてるのかも。白を切るのを続けるだけなら騙されない。犯人でさえも沈黙を選ぶ権利があるんだぞ!
しかし、明らかに芸音は揺り動かされない。
「……忘れたのなら、思い出させてあげよう」
と、目の前にある事務机の後ろに移動して座った芸音。相手は指を組んだ両手で自分の下顎を支える。
「去年のクリスマスイヴ、ある辺鄙な田舎の小さい学校でスクールバス事件が起きた。その事は情報をブロックされたため、報道するマスコミや新聞などもないし、あの学校の学生もそれを話したがる人もいない。心当たりがある?」
「……」
「その時スクールバスの中に学生を満載して、皆郊外から登校しに行く。それからある状況が発生して、たった一人しかバスから逃げ出せなかった」
芸音の言葉はまだ僕を動揺させてないけど、横から柳下が本を持つ両手がぶるっと震えたのを感じた。
「本当に凄いよね。あんな状況でバスからかすり傷ひとつなく逃げ出せるなんて……正確に言うと、その逃げ出した人は間近に迫る危険が予測でき、ひいては複雑な反射運動もできる能力を持ってるはずでしょう。一応直感と略称しましょうか」
多分無意識に歯をくいしばるのを見られたのか、芸音の暗い表情に一抹の得意げな笑みが付け加えられた。
「その後、あの学生は幸い他の学校に転校できたけど、生憎彼のクラスメイトはもう二度と彼と連絡を取らないの。何しろあの事件は──」
芸音は上半身を前に傾いた同時に両手を開く。
「ドーン、爆発」
柔らかい声とはいうものの、鉄槌の如く力がありむざむざと僕の警戒心の壁を破砕してしまった。
そうだ。あれは確かに去年のクリスマスイヴに起きた爆発事件だった。さらに、僕はその関係者である。
スクールバスの中から爆発直前にガラスを破って脱出したのは僕しかいなかった。同じく逃げた人は一人も……
こんな先覚者のような反射運動をさせ、僕を守って傷付くことを避けたのは、まさにその『直感』である。
「……何処から知ったの」
「じゃ認めたのね」
「どんでもいい!あの事を知る人が僕と前の学校の人間以外誰もいないんだ!言うんじゃ──」
「安心しなさい。私は君の過去にまったく気にしてないのよ。けど、ハーハイネスの方はちょっと違うようだね」
すでに『ハーハイネス』って用語に慣れてきただろうか、我にもなく視線が柳下の位置へ向いていく。
その瞬間、ちょうど相手が速く再び頭を本に隠した小さい仕草をとらえた。
あれ?あいつはしばらくの間僕を覗き見してたのか。
「どうやらハーハイネスは君に興味をしめし始めたね。これはいい始まりよ、君にハーハイネスの護衛兵を担当して欲しいから」
「護衛兵?もうこの時代にまだ護衛兵なんて!ボディーガードっていうべきだろう?」
「ほう、もうこの役目を充分認識してるのね。やる気満々じゃない」
「いやいやいや!誤解だ!ただ君の語弊のあら探しをしてるだけだ!」
「そう?残念だね、特別な手段を使わなくても君をおとなしく服従させられると思ったのに……」
まだ芸音の意図を思索してると、相手は事務机の下からあるものを取り出して机の上に置いた。
あれはしばらく前に階段の近くで彼女に会った時のダンボールである。
「ゴホンゴホン、何処から始めようかな」




