第一戦 目には目を(11)
「もういいんだ、やめておけよ」
あまり知らない声が耳に入ったと思うと、足掻いてる少女が急にしずまって抵抗をやめたようだ。
またよその人がここに隠してるのか?戦略部のオフィスはいつから部外者が勝手に出入りできるのか?
声の方へ向かい、室内の小部屋はいつしか開き、さらに一人の娘が立ってる。相手が片手で特殊な形の拳銃を持って、間違ってなければあれはとっくに生産終了されたルガーP08のはずだ。
その娘は焔のような鮮やかなヘアーをして、頭の両側に肩近くまで細長いツインテールを括った、かなりすっきりと洗練される髪型。上目線のような目つきに余裕があり、少し上げる口元が全てを掌握できる自信をもらしてる。
確かに、声とか髪型とか口吻とか風格とかまったく別人。けど僕が──
「くっ、黒羽さん?」
と思わず言ってしまった。
「おやおや、まだ私さえもわからないほど愚かじゃないね。どうやら救いようがあるんだね」
「救いようがある?何がだよ?」
「もちろん君の頭よ。先ほどの一局だけ見て私でさえも泣きそうになったよ。君がもっと長くプレイできるのを期待してたから手加減しておいたのに、あっという間に最悪の手を打ったなんて。まったく私の苦心を無駄にするやつだね」
相手が横向きで銃を持つ仕草は映画の刑事キャラのような迫力が妄動させないほど溢れてる。甘い声はもうどこへ行ったかわからない、かわりに一種の狂気なメゾソプラノだ。
この人はマジで芸音なのか?信じられないよ。あんな気遣いのいい娘が僕の頭をからかうなんて?
「あってはならないことでした、ユアハイネス。この人の知的水準からみれば、組織のアサシンのわけがないと存じます」
芸音は僕を呼ぶわけじゃないのがわかる。だって声が急に恭しさが増えてきたからだ。ちなみに、あの『知的水準』ってどういうことだよ?または誰かをユアハイネスと呼ぶの?それはかなり荘重な言葉遣いだ、勝手に何処の庶民に使わせるものじゃない。
…………
もういい……いきなり芸音に銃で撃たれないよう、慎重にゆっくりと頭を前に向けたほうがいいだろう。
もう一度目線を金髪少女と合わせると、相手の眼中に溜まる涙がまだキラキラしてて、すぼめた唇としかめっ面がまるで僕は彼女を害した変質者って訴えるようだ。
「芸音よ……怯者がいきなり入ってきたのはあんたの仕掛けか?」
「はい、無断でセキュリティカードを床に置きっ放してあいつを引き付けようとしたことについてお詫び致します。ただできるだけ早くあいつの裏の顔を暴露させようと存じております。本来あいつが手を出す寸前に撃とうと予定しておりますが、いつもの通りに愚かな様を見ると自分の間違いを承知しました。申しわけありません」
芸音に蛞蝓に如かずもの扱いに論われたとはっ!僕の小さな自尊心が再び踏み付けられてしまった。
「何故風呂に入ったところにやつを入らせるんだ?」
金髪少女の質問にはっと驚いたようで、芸音が何か躊躇ってるように唇をなめる。
「そ、それは……もしユアハイネスを普段のご様子で見せたら、あいつはそんなに軽々しく本当の姿を示さないと思いまして……」
「そう?他の理由があるだろう、あんた。まだアノ事を考えてるだろう。要らんと言ったじゃねぇか!」
「はっ、はい。申しわけございません……」
頭を下げ唯々諾々と返事で、芸音の様子は王様に叱られてる無抵抗な衛兵を連想させられた。
やっぱり金髪少女は芸音が言ってたユアハイネスだった。芸音を咎めてからまた視線を僕に投げてきた。
相手がだんだん落ち着きを取り戻したようだ。元々哀れな目もすでに冷たくなり、始めから目を合わせた時の態度と同様だ。
「今勝手にやつを離させてはいけねぇよ、事実おおやけになってしまうぞ。とっくに始末する方法を用意しておいてるんだな?」
「はい。コンクリートを使おうと考えたことがごさいますが、近くに川などがごさいませんからやめました。しかし……」
ちんぷんかんぷんっていうのはこういうことなのか?芸音と少女の対話に全然口出せない。彼女らはどうやって屠所の羊を処理するかを討論しているらしい──もちろんその羊は僕だったのね。
だめだ、このままじゃまずい。今一体どういう状況なのか、はっきりしなければ……わけのわからない死に方なんてごめんだ。
「あ、あの……」
「何よ?」
「たっ……ただ聞きたいんだけど……あの女子は一体どちらさま?」




