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48・唯我独尊、獣王無人

 『獣王無人ザ・ビースト』。


 それが変化したコマに表示された名称だ。

 そしてジューミーが『獣王』を手にもち、すい、すいと手を進めた。


 5一にいたコマを4二、そして4三へと。


 「驚いたかい?これが『唯我独尊スタンド・アローン』によって変化した王、『獣王無人ザ・ビースト』の動きだ」


 ジューミーはにやりと笑う。


 2手指した?

 草歩は慌てて能力を確認する。


 *『唯我独尊スタンド・アローン』はプレイヤーのコマの数が相手のコマの数の半分になったとき、王を除く盤上のコマ全てを犠牲にすることで発動できる*


 *『唯我独尊スタンド・アローン』の発動によってプレイヤーの『天下皇帝ワールド・エンペラー』は『獣王無人ザ・ビースト』に変化する*


 *『獣王無人ザ・ビースト』の移動範囲は『天下皇帝ワールド・エンペラー』と同じ周囲9マスであるが、一度のターンに二度行動できる*


 *『唯我独尊スタンド・アローン』中、他者の能力を発動することはできない。発動した場合『獣王無人ザ・ビースト』は『天下皇帝ワールド・エンペラー』に戻る。


 *この能力は発動すると相手に権利が移り、相手プレイヤーは発動条件を達成することで『唯我独尊スタンド・アローン』を発動できる*


 この能力。『一度のターンに二度行動できる』。


 つまりトー伯斎師匠の『疾風迅雷ブリッツ・クリーク』のように能力を発動すると一度だけ2手させるのと異なり、この獣王は常に2回行動を取るのか!


 周りの兵全てを捨てることと引き換えに、単体で最強の力を手に入れる能力。


 草歩はジューミーを見る。その肉体と雰囲気がかもし出す、余裕と気取らなさの裏にあるあらゆるものに囚われぬ自らへのゆるがぬ自信と周囲への無頓着さ。


 まさにこの『唯我独尊スタンド・アローン』の能力にふさわしい男だ。


 草歩は考える。

 一体どう指せばいい?


 実は草歩はこの『唯我独尊スタンド・アローン』に似た変則将棋のバージョンを遊んだことがある。将棋に興味を持ち始めたばかりの頃で、まだ挟み将棋や回り将棋、将棋崩しなどを友達と遊んでいたくらいのことだ。


 相手がいなくては将棋はさせないが、インターネットの対人将棋をやるには弱すぎる草歩は当時、友達も帰ってしまった暇な夕方、ネットでいろいろな将棋ゲームを遊んでいた。


 コンピュータを駒落ちにできる『ぴよ将棋』や、敵の名前が『あひるがあがあじごく』とかおもしろい『きのあ将棋』、どうぶつ将棋もさせる『将棋の遊び部屋』など。


 その中に、とても変わったルールのゲームがあった。


 名を『獅子王ししおう将棋』という。


 獅子王将棋では初期配置から相手の王様が『獅子王』になっている。相手にあるのは獅子王のみで、今の獣王のように味方はゼロだ。


 そしてその『獅子王』の動きが、まさにこの『獣王』と同じ、周囲9マスを2回行動できるというものだったのだ。


 残念なことにそのネットページには獅子王のAIが搭載されておらず、草歩は自分で獅子王側と普通の将棋陣営側を動かしてコマの動きを確かめただけですぐに飽きてしまったが。


 しかしそのちょっとした動きだけでも草歩は思い知らされていた。

 『獅子王』、つまりジューミーの『獣王』の強さを。


 草歩は考えていたが、いつまで手をこまねいていても仕方がないので5四にいた歩を進める。歩を5三になって飛車を成り込む狙いの手だ。


 ジューミーは草歩が成った5三のと金を4三の獣王で取る。そして4四へと駒を進める。


 そう、これだ。


 『獣王』の恐ろしいところは、本来他の駒の効きで守られているはずのコマをとれてしまうことにある。


 今成った5三のと金は5八の飛車で紐がついており、本来王で取ることはできない。


 だが『獣王』であれば5三のコマを取ったあと、飛車の効き筋から逸れることができる。


 もちろん今のは取らせるために成った歩だ。飛車を成り込むために。

 しかし、この後どう進めるかは本当に慎重に考えないといけない。


 草歩はとりあえず飛車を5一に成り込んだ。


 ジューミーは獣王で草歩の構えた、金多田の出来損ないの囲いに襲いかかってくる。

 相手の歩のうち捨てによって、多田の2、3筋歩は上ずっているし、4五にはすでに歩がない。。


 4四のコマが1ターンで3五の歩をとりまた4四に戻る。このままだとすぐに囲いが崩壊してしまう。

 そしてきっとあっという間に王をとられてしまうだろう。普通の囲いなど『獣王』の前には役にたたない。


 草歩は5一の龍を5七へ引き、中央を守る。ジューミーは狙いを変えるためか3五3四とコマの位置を動かす。中央は4六の銀と龍が強いからだろう。


 仕方がない、こうなったら。


 「『不殺友愛オーセンティック・ディボーション』!!」


 草歩は相手から取った飛車を3一に打ち付けた。二枚龍で追い詰めてやる!!

 ジューミーが眉を上げる。さすがに驚いたようだ。


 「ほお、変わった能力だな、坊やも。取った駒を使えるのか?まあ、俺にゃあ無縁の力だがな」


 そう、そうなのだ。『獣王』になっている間はジューミーは他人の能力が使えない。まあ、使う必要がないとも言える。それほどに強い。


 だから草歩も自分の『不殺友愛』をもう二度と使えないのだ。持ち駒がこれだけあっても何の役にも立たない。


 相手の能力を実質封殺し、己の独壇場どくだんじょうを作り出す、まさに『獣の王』にふさわしい傍若無人ぼうじゃくぶじんぶりだ。


 ジューミーは飛車の効きを確認したのかしていないのか、桂で支えていた2五の歩を取り、2六に侵入してきた!


 しまった、龍を作っているひまなどない。

 草歩は4九へ王を逃す。


 ジューミーが3七の桂馬を取って2八に動く。これも王手だ。草歩には逃げる以外の手段はない。

 獣王の手の届く範囲に王がいる限り、それを弾くことはできない。


 5八に逃げた草歩の王を、ジューミーは獣王を3八、3九と動かして追ってくる。これもまた王手!


 草歩はひたすら逃げ惑うしかなかった。


 そしてジューミーは駒を取りながら草歩の王を追い詰めてゆく。

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