44・『宣誓』の条件!
「おいガラーム!!僕と『宣誓』で勝負しろ!!」
草歩はさけんだ。
その声に周りの奴隷やシルバーが訝るように見る。ガラームも今初めて存在に気づいたかのような腑抜けた顔で草歩を見た。
そして目をパチパチとしばたたかせると、バカにしたような口調で言った。
「誰ダおまえ?」
山椒魚から降りて脇で手綱を持って控えていたヤギ執事が小声で、
「ご主人さメェ〜、昨日ピーグイ様が連れてきた奴隷のガキでごぜえメェ〜す」
とささやいた。
ガラームはそっくりかえってガららと笑う。
「なんダ、昨日のガギガ。『宣誓』もグゾもデめえバビーグいのもんジゃねえガ。ドっドドギえろ。痛い目ダグなギゃよ」
「いいや!僕はピーグイの奴隷じゃないぞ!お前に『宣誓』を申し込むことができる。確認してみろ!」
ガラームは面倒そうに草歩の『宣誓』申し込みを確認していたが、すぐに驚いたようだった。
「んん?ドういう訳ダ?ビーグいの野郎?」
「わかったら僕と『宣誓』で勝負しろ!そして僕が勝ったらトードさんとフロッガさんを解放するんだ!」
「ガららああ?ゾれで俺になんの得ガある?お前ガ『果ダジ』に見合うモンを持っデるダあ思えねえな」
「僕自身を賭ける!お前が勝ったら、僕を奴隷にすればいいさ!」
ガラームが草歩を見下していう。
「ガらあ。興味ねえな、おまえにゃよ。『宣誓』ゼズドもお前にゃ何も出来んジな」
くそ。その冷たい言い方に草歩は怯む。
そうか、僕が弱いから奴隷にしなくったって力づくでねじ伏せれば怖くもないのか。草歩は改めて自分の弱さに気づかされる。
この世界ではもっと強くならなきゃだめだ。皇棋の力だけじゃなく、宣誓で勝ってレベルを上げないと相手にすらしてもらえないんだ。
草歩は悔しくて拳を握る。爪が掌に食い込むほど。
くそう。僕は何しにここにいるんだ?トードさんたちを助けられなきゃ、フロッガを助けられなきゃ、チェスナを助けられなきゃ、さっき言ったことは全部ただの綺麗事になってしまう。人が命をかけて誰かを助けることを止めるのなら、それに責任をもたないといけないのに。
フロッガがこのままひどい目に遭いつづけるのを僕は許したことになってしまう。
このままあいつのいいなりになるのを。
「ガラーム!!僕とやるのが怖いのか!!勝負したらいいじゃないか!!」
草歩は叫んでみるが、自分の言葉が家の窓越しに通行人にキャンキャン吠えるチワワの鳴き声に聞こえる。力もないくせに相手を挑発して、己は安全な飼育ケースに生きる甘ったれ。誰にも見向きも相手にもされず喧嘩すら買ってもらえない。
ガラームがニヤニヤと草歩をみてわらう。
「怖いねえ、あんまり世間ジらズで馬鹿ズギデよ。ゾれガ怖え。ガららああ。ブレイズ、ゴいヅをなグっデ閉ジ込めとドゲ。後デ遊んデやる」
「はイイ〜〜ン」
ブレイズが手にした棍棒を掌でパンパンと叩いて音を出しながら草歩に近づいてくる。
トードの親分も蒼兄たちも、奴隷の身分である以上ガラームのなすことに逆らうことはできない。自殺するとか、誰かを殺すとか命に関わる命令には逆らえるのかもしれないけれど、殴って従わせるなんてここでは普通のことだろう。
逃げるか?でも、ここで逃げてなんの意味がある?それにピョンもいる。一人で逃げるなんてあり得ない。
パシンッ、パシンッ!
ちかづく棍棒の音、それが自分に与えるであろう痛みが生々しく想像されて、草歩の体に震えが走る。くそ、どうしたら。
「やめろミ!!」
と、ピョンがブレイズと草歩の間に立ちはだかった。
「ピョン!?」草歩は驚く。
その膝が震えているのが見える。耳は今にもへたりそうになるのを必死に立てている。臆病なピョンが自分のためにブレイズに立ち向かうのが草歩には信じられなかった。
「なんだてめイイ〜〜〜〜ン!!邪魔するなブルルルッ!!」
ブレイズがイラだったように言って棍棒を振り上げ、そしてピョンに向かって振り下ろした。
(っ!!)
草歩は思わず目をつぶった。
「まデ、ブれいズ!」
そこへガラームの命令が飛ぶ。
棍棒は目を固くつむったピョンの頭から数センチ上でピタリと止まった。ブレイズが隠してはいるが不満そうにガラームを見る。
「ガららああ。ゾういやお前もいやガっダな、長耳のガギ。おい、ゴッヂをみろ」
ガラームはブレイズのことなどお構いなしにピョンに食いついている。身を乗り出して、昨日二人を見ていたときのような物欲しそうな顔だ。
ピョンはガラームに向き直りにらむ。
「ガららあ、ゴいヅバ上物ダ。淡い体毛の色、毛艶ド柔らガザ、赤目なのもいい。顔立ちも悪グねえな。ガらら」
ガラームが舌舐めずりをする。ピョンは必死に勇気を出しているが、毛を逆立てて鳥肌になっているのがわかる。きっと気持ちが悪くてたまらないんだろう。
「ゴいヅならいグらデも出ズ客ガ何人もいるな。そいヅらに競わゼデ値段を吊り上ゲれバ、ガらガらガららあ」
一人でヘドの出そうな計算をして興奮したガラームが、草歩に向かって言った。
「おい、ゴの長耳も『果ダジ』に入れるんなら、『宣誓』ジデやっデもいいゾ。もドもドお前の『果ダジ』は釣り合っデねえ。お前ド長耳、ドードドブろっガ、ゴれで丁度いいジゃあねえガ。ん?」
ピョンの何をそんなに気に入ったのか、そんなことは1秒だって考えたくもない。それに自分だけでなくピョンを賭けるなんて草歩にはできなかった。
「いや。そr」
「それでいいミ!!」
草歩が断ろうとするのをさえぎってってピョンが力強く叫んだ。
「僕もその『宣誓』に自分を賭ける!!」
「いいダろう。受ゲよう、ゴの『宣誓』を、ガらああああ」
ガラームが小さな、鱗の鎧に覆われた体を嬉しそうに揺らして高く笑った。
草歩は焦ってピョンを見る。
「ピョン、こんなのだめだよ。僕は、自分だったらいいけど君にもし何かあったら」
「兄貴、前にもいいミしたが、僕は兄貴を信じていミす。だから自分が力になれるんならどんなことだって怖くないですミ」
弱気に言った草歩に、ピョンはまるで春の日差しのように真っ直ぐで柔らかな笑顔を見せた。目を見開く草歩ににっこりとうなづいて、その手をとると自分の胸に添えさせた。
草歩はてのひらにトクトクと脈打つ心臓の響きを感じる。かなりの速度で脈動していて、ピョンの緊張をつたえてくる。
「この命、兄貴に捧げると決めたんですミ。僕を助けてくれたあの日から。だからなにがあったって後悔しミせん。全力でたたかってくださいミ、そしてフロッガとトードさんを助けミしょう!」
キラキラと輝く赤い瞳が草歩を力強く励ます。
草歩のしらなかった強いピョンがそこにはいた。
思わず涙がこぼれそうになるのを必死に抑え、草歩もピョンを見つめ返してうなづいた。
「うん。ありがとう、ピョン!」
草歩はガラームに向き直った。
「ガラーム!降りてこい!『神前宣誓』しようじゃないか!!」
ガラームはそれに答えず執事を見ると言った。
「おい、あの『代打ヂ』をヅれデゴい!」




