43・計画の露見!
この小さな体のどこからこんなにも周りを威圧するような馬鹿でけえ激しい声が出てくるのかとトードの親分は草歩を驚き見た。
肩を震わせ拳を握って、この小さな英雄、まごうことなき仁義の徒は怒りに打ち震えている。
「御兄いさん、すまなかったゴロロ。おめえさんを騙すようなことになっちまってよ。だがこれが一番いいんだゴロロロ。俺さえ死にゃあ、子分どもは戦えるようになる。そうすりゃフロッガも救えるし、おめえさんの探しにきた獣人だって連れ帰れるゴロロロ。こんなはみ出しもんの命が、ちったあ人様のお役にたてるんならゴロロ、喜んで差し出すんだぜ、手前はよゴロゴロゴロ」
「そうだケーン、草歩、すまねえがこれは俺と親分の親子の話だ。口は出さねえでもれえてえケーン」
蒼兄がきつくそう言い、鎌之助とベロリも同じような目で草歩を見る。
「これが一番いい?」
草歩が呟く。
「簡単に死ぬことを考えて、それでこれが一番いいだって!?本気で言ってるの!!??救うだって?ちょっとでも考えたらわかるでしょ!!??」
草歩はトードの親分を睨みつけて叫ぶ。
「そんなことをされて、フロッガが喜ぶわけない!!!!」
「いや、これはフロッガのためd」
「フロッガが、トードさんに一番伝えたかったことをもうわすれたのかよ、この鶏頭!!!僕があなたになんて言った!?
『いつか必ず、鳳仙花の丘にまた行こう』
って、わかんないのかよ!!!!
フロッガは自分が辛くったって、トードさんが自分を惨めだと思って辛くったって、生きてて欲しいんだよ!!!生きていさえしたら、いつかまた必ず二人でいけるから!!
自分が死んで誰かを助けたってなんの意味があるんだよ!!??二度とその約束は果たせないんだぞ!?復讐した子分は親分の後を追って腹切って、それで綺麗に死ねば満足だろうけど、残されたフロッガはどうなる!!?
あんたに感謝なんかしないぞ!!!感謝なんかして欲しくない。感謝するたびに、自分が兄さんを殺したんだって苦しんで一生を過ごすから。感謝なんかしないで恨んでほしいけど、それもそれで苦しい人生だ。
そんなことをフロッガに押し付ける気だったのかよクソガエル!!!!」
ここがどこであるかも、自分たちの状況がどうであるかも微塵も気にしない草歩の腹の底からの怒号が鉱山の穴底に響き渡った。
蒼兄はこいつがどうして初めてあった他人の命や、一度あっただけのフロッガさんにここまで本気になれるのかわからなかった。
だがそこには確かに、眩しいくらいの真っ直ぐな力がある。
蒼兄は思う。
俺は結局フロッガさんを言い訳にして、このつれえ環境、情けねえ惨めな状況から逃げ出したかっただけなのかしれねえ。
それ自体は悪いとはおもわねえ。逃げたきゃにげりゃあいい。
だがそれを言い訳に、親分の命を奪うことをまるで正義のためのように、仕方がねえ他に選択肢のねえことだと思い込み涙まで流してきれいに親分を殺せるもんだと自分を騙していた。
そりゃそうだ。味方の命を奪うのにきれいな理由なんてありはしない。全ては不自然で歪んだ押しつけに過ぎない。
渡世人が殺すのは、仁義のかけらもねえ極悪人だけよ。
からり、と蒼兄の手からナイフが落ちた。
「蒼兄」
鎌之助がか細い声でいう。思えばこいつとベロリにも、ヘドの出そうな役目を強いちまった。
「親分、やめやしょうケーン。いくら情けなくったって人に笑われたって、生きてりゃいつか必ず、またあの丘に行けることもあるケーン」
「蒼松、てめえゴロロロ。俺に生きろと?子供の面倒もみれねえどころか、獄につないで責め苦を負わす能無し親の俺に、生きろとゴロゴロゴロ?」
「ええ。俺はこのお方に光を見ましたケーン。まだこの国も死んじゃあいねえ。泥水すすってでも命さえありゃあ、また花咲く春が来るって確信しやしたケーン」
「おめえ。だがそれでいいのか?」
蒼兄がうなづく。
トードの親分は俯き歯を食いしばる。
「すまねえ」
そして草歩を見て言った。
「迷惑かけたな、御兄いさんがた。トード・チョウ一家はもうしばらくここで耐えていかあなゴロロ。それも一興、風の吹くまま気のむくままよゴロゴロゴロ」
「そうだよ。他に何か方法があるはずだ!」
顔を見あわせ表情を緩めたトードの親分と蒼兄たちをみて、草歩は胸を撫で下ろした。
どうして死ぬなんてことを言い出すのか。しかもそれを人のためみたいに。
僕はそんなのいやだ。
生きて、いつか必ずみんなを救うんだ。
「イイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンや!他の方法なんてないブルルル!!」
突然馬のイナナキが辺りに響いた。
見上げると草歩たちを見下ろすように、さっき蒼兄たちがいた崖の上からシルバーとブレイズが顔を出していた。
笑うように鼻息を立てると草歩たちを挟むように崖を滑り降りてきた。武器を持った他の屈強な奴隷もそれに続く。
あっという間に螺旋通路をシルバーとブレイズ、さらに十人を超える奴隷たちにとり囲まれてしまった。
「くそ」
鎌之助が舌打ちをする。
ビシイッと鞭で地面を叩いたシルバーが首を捻りながらいう。
「生意気なことしてくれるなブルルル。こりゃあもっともっときつい仕事をさせなきゃあいけねイイ〜〜〜〜ンな。無駄なこと考える暇がねえようにイイ〜〜〜ンよ。もちろん、キッツイイ〜〜〜〜ンお仕置きをした後でな!!!」
そして通路の先を見て叫ぶ。
「そうですよね、ガラーム様!!ブルルルッ!!」
視線の先をみるといつの間にやってきていたのか、螺旋通路をガラームが降りてくる。
大きな茶褐色の山椒魚の体に取りつけた金の玉座に座っている。山椒魚の頭にまたがって手綱を操っているのはヤギ獣人の執事だ。ガラームの椅子の両脇にはヤモリとイモリの娘がしなだれかかっている。
ガラームは鎖を手にしていて、それが山椒魚の後ろに続いている。
その先には首輪をつけられたフロッガが、まるで引きずられるようにして必死に走って連れられていた。
「フロッガ!!」
トードの親分がそれを見て叫ぶ。
「ガラーム、てめえゴロロロ」
怒りに満ちた低音を響かせるトードの親分に、ブレイズの後ろに山椒魚を止まらせたガラームが笑った。
「ガららああ。ドード。久ジブりダな」
椅子の上で小さな体をそっくり返らせ、ふてぶてしい態度で見下ろしている。
「ゴんなゴドを企らむドジダら貴様ジゃないガドバおもっデいダ。まダ自分ガドういう立場ガ分ガっデないようダな」
そして手元の鎖を強く引く。
「ブろっガ!ゴい!!」
きっと宮殿から走らされたであろうフロッガは道にしゃがみ込み肩で息をしていたが、命令には逆らえずすぐに山椒魚の体をよじ登りガラームのところに向かう。
目の前にやってきたフロッガを舐め回すように見たガラームは、首輪を掴むとぐいと自分の方にひきよせ、フロッガが自分の膝の上に前を向いて座るように抱き寄せた。
フロッガとトードの親分はお互いの目を合わせる。
その視線にはお互いを思いやる肉親の情が、溢れんばかりに満ちて湯気が立ちそうなほど熱かった。
それを確認してガラームはフロッガの首輪をさらに引き、息が詰まるくらいに締め上げる。
そしてトードの親分に見せつけるようにして言った。
「ゴのヅゲバ『ブろっガ』ヂゃんにも払ってもらわねえドな!」
喉を締め上げる首輪を水かきの手で掴み、しかし逆らうこともできずケホケホと咳き込むフロッガと見てトードの親分が苦しげにうめく。
「ゴロロロッ、フロッガっ!やめろ、やめてくれ!俺には何をしても構わんゴロロ、だからそいつにだきゃあっ!」
ガラームはシルバーにいう。
「おい、ゴいヅの子分連れてゴい」
「ゲホっ、ゲコっ、ゴホっ、ゲロっ」
ガラームの膝のうえでフロッガが喉をつまらせ喘いでいるが、ガラームは全く気にする様子もない。そしてトードの親分の前にいる、蒼兄と鎌之助、トードを見ていう。
「ドードをゴろズダあ考えダな。いいかドード、今ガら子分ら全員にゴのガらーむ様と『宣誓』で戦うよう命令ジろ。直接俺の奴隷にジデやるガららああ。
ゾうジデドード、役目を終えダら望み通り、ゾの体を煮て焼いデギっダギダに切りギザんデやる。このブろっガに貴様の苦ジむ姿をダっブり見ゼデやるガらな、ガらららああ!!」
顔を歪める蒼兄と鎌之助たちを、トードの親分が辛そうな顔でチラリと見、そしてフロッガを見た。
「好きにしろゴロロロ。だからその首輪を緩めてやってくれ、お願いだゴロゴロゴロッ」
トードの親分がその巨体をかがめ両膝をつき、手を地面について深く頭を下げる。憎くてたまらないであろうガラームに向かって。
「ゲロっ、だめっ!ゴフっ、私はっガハっ、どうなってもいいからっゲゴっ、に、兄さんのゲホっ、命だけはっ!」
フロッガが苦しい息の下で懇願する。頬には涙が伝っている。
「ガららああ。まあ、ガんダんに殺ズヅもりバねえ」
ガラームはニヤニヤと笑ってそう言い、首輪を緩めるとフロッガの顔を自分に向けさせ、その涙で潤んだ大きな瞳をじっとりと見つめる。
そして息がかかる距離で熱っぽくいった。
「命グらい助ゲデやらんデもないゾ。おまえの俺ベの行い次第ダがな。ガらガらガらららあああっ」
高笑いするガラーム。フロッガの、身に起こる全てを耐えようとする決意の目があまりにも切ない。
「ぐうっ」
蒼兄が涙を流し息を詰めている。とても見ていられないんだろう。
草歩は怒りでお腹が煮えくりかえってたまらない。
なんだってこんな酷いことが許されるんだ?




