41・ミシズ・トード・チョウ
「ゴロロロロ、ブレイズ?いんや、違げえなあゴロロ。どこのどなたでごぜやすか?おめえさんは?」
馬獣人のスーツを着た草歩たちをみて、トードの親分はけげんそうに低く唸った。
「あ、いやそのいい〜〜〜ん。お前をちょっと外に連れて行くことになったぶるるる」
草歩は思わずそう言った。
しかしトードの親分がゴロゴロゴロと雷のような音をたてて笑い飛ばしたのですぐに思い直す。
「いや、そうじゃなくて。トードさん、僕たち蒼兄に頼まれてあなたと話にきたんだ」
「蒼兄?ゴロロロ。鹿の蒼松のことか?」
「うん、多分そうだと思う。この上で働いているよ。で、何かここから脱出する作戦があって、それにはトードさんの力が必要だから話がしたい、だから洞穴の入り口に連れてきてもらえないかって」
トードの親分は草歩に向き直ると、腕組みをしてねめつける。
「申し訳ござんせんがゴロロロ、あっしはどうにも御兄いさんが信用できねえでござんすゴロロロ。妙なカッコに妙な話、御兄いさんはこのトードにゃ、関わりのねえこってござんすゴロゴロゴロ」
といってぐるりと振り向くと、また鉱石を掘る作業に戻ってしまった。
「どうしよう」
草歩が困っていると、肩車をしているピョンが足をポンポン叩いて話してきた。
「兄貴、フロッガの話をしてミたら?」
「あ!そうだ。ありがとう、ピョン!」
トードの兄貴は手を止めて、そうやっていない誰かと話している草歩を訝しんでいる。
「誰と話してるんだ?ゴロロロロ」
「え?ああ。実は僕らは二人でこの服に入ってるんだ。ピョンていう親友さ。ボクは天沼草歩」
「二人で?ゴロロロ。いよいよ妙な御仁でござんすなあゴロゴロゴロ」
ますます疑われてしまったようだ。
フロッガはなんと言っていたっけ?
「うーんと、トードさん、いつか必ず鳳仙花の丘にまたいこうって伝言だよ」
「何?」
トードの親分の目が見開かれる。
「その言葉。おめえさん、もしかして」
「うん、フロッガに聞いたんだ。もしトード兄さんに会ったら伝えて欲しいって。私は無事だからって」
「うう。よかった、ゴロロロ。あいつに何かあったらと思うとこの俺は、生きた心地もしなかったゴロロロ。今御兄いさんからその言葉を聞いて、ようやく満足に息がすえたような気分だゴロゴロゴロ」
泣いているのか、グスリと鼻をすすって目を擦ったトードの親分。
突然身を前に乗り出し膝を曲げて、左手を膝にのせ右手をゆるく前に突き出し頭を軽く会釈に下げると、節づいた低くながれるような挨拶口上を語り始めた。
「おひけえなすって、おひけえなすってゴロロロ。早速のおひけえありがとうござんすゴロゴロゴロ。
洞窟三寸借り受けまして仁儀失礼さんにござんすゴロロロ。手前生国はイーストランドはゴーガの国、ミシズ山にござんすゴロロロ。
本名、ゲオルグ・バル・ファーロッグ、人呼んで、ミシズ・トード・チョウにごぜえますゴロゴロゴロ。
さあて、次々に行きてえですが、ミシズ山は鬼よりこええゴロロロ。赤松、蒼松筆頭に、自慢の子分が二十と八人ゴロロロ。義理にゃあ強えが、情けにゃあ脆れえ野郎どもでござんすゴロゴロゴロ。
以後、御昵懇に、おねげえいたしやすゴロゴロゴロゴロ」
わあ、まるで映画のシーンみたいだ。と草歩は思う。
おじいちゃんの家にお正月に遊びに行くと、時々部屋で流している仁侠もの。あれの挨拶、たしか
「仁義を切る」っていうんだったかな?
思わずはちぱちと拍手をしてしまっていた。
「で?御兄いさん、いや、御兄いさんがたは、一体どういう事情でここにおいでになられるんで?ゴロロロ。そんな格好でここまでこれるたあ、ただの奴隷じゃねえとお見受け致しやすがゴロゴロゴロ」
「あ、うん。そうなんだ。理由があってここにいるんだ」
草歩はチェスナを助けにきたこと、奴隷のふりをして潜入したこと、フロッガとあったこと、ここに放り込まれて蒼兄と鎌之助とベロンにあって、トードの親分に話をしにきたことなどを手短に説明した。
腕組みをして神妙に聞いていたトードの親分は聞き終わるとうなづいて言った。
「御兄いさんがたも仁義に厚いお方でごぜえやすなゴロロロ。このミシズ・トード・チョウ、胸に滲みやしたゴロロロ。あっしのできることならなんでも言っておくんなせえゴロゴロゴロ」
「ありがとう。チェスナの居場所は蒼兄たちが調べてくれているんだ。僕たちはここから逃げ出す計画のためにトードさんを呼んでくるように言われたんだけど、何かわかる?」
トードの親分はふっと息を吐き、寂しげな、笑うような表情を見せた。
「蒼松のやろうがねえ。脱出計画かゴロロロ。まあ、考えがわからねえでもねえですゴロロロ。御兄いさんがたにあえてフロッガの無事も分かったんだ。いよいよその時がきたってえことでしょうかねえゴロゴロゴロ」
どうも変な言い方だ。
まるでその脱出計画がいいものじゃないかのような?どういうことなんだろう。
と考えても草歩にはわからない。ともかく今はその計画がうまく行くことを願うだけだ。
「じゃあ、僕らについてきてくれるんだね?」
「ええ、お供致しやしょう。仕事の時間が終わりゃあ、側道の入り口ぐれえなら歩いていけやすからゴロゴロゴロ」
「ありがとう!」
草歩は下にいるピョンの頭をポンと叩いた。
ピョンも草歩の足を軽く叩く。
よし、これでチェスナを助けるぞ!
「ああ〜〜〜ブルルル。クッソ面倒なことしやがって奴隷どもブルルル」
エレベータの修理を監督し終えて、ようやく小屋に戻ってきたブレイズが悪態をつく。
まったくろくでもねえ野郎どもだ。普通に使ってりゃ壊れるはずがねえのに、きっと無茶な瓦礫の積み方をしてこぼれた岩がはさまりやがったんだ。
おかげで半日も修理にかかっちまった。ガラーム様に大目玉くらうなこりゃ。
小屋の前の椅子に座ってちょいと休もうとした途端にシルバーが怒鳴ってきた。
「おいブレイイイ〜〜〜〜ンズ!!おまえらしくもねえブルルル。奴隷にゃちゃんと使い方説明してるんだろうなブルルル。今日の上がりが少ねえせいイイ〜〜ンで、ガラーム様が不機嫌極まりないぞブルルル」
「そういうな兄弟イイ〜〜ン。奴隷なんて考えて動けねえんだブルル。バカなことばっかりしやがってブルル」
シルバーはブレイズの隣に腰を下ろして、ふと気づく。
「ブレイズお前、馬はどうしたイイ〜〜ン?」
「ん?」
言われてブレイズが見ると確かに小屋には一頭しかいない。
「俺はしらねイイ〜〜ン。シルバー、お前じゃないイイ〜ンか?」
「いや」
二人は立ち上がり道に出て炭鉱の大穴を見下ろす。
「おいあれ」
シルバーの指した穴の奥底に、確かにブレイズの愛馬の姿が見える。
所在なくうろついて、周りの奴隷たちも時々不思議そうにチラリと馬をみている。
「おかしいイイ〜〜ンな。勝手にあんなところに行くはずないイイ〜〜ンだが」
「ブルルル」
シルバーが唸る。
「ブレイズ、今日は何か妙だとおもわなイイ〜〜ンか?事故に馬。偶然とはおもえねえブルル」
「なんだってんだブルルル?」
「いや、意味はわからねえがブルル。ともかく一度ガラーム様に報告するブルル」
「ええ?また怒られるぜブルルル」
「しかたねえだろブルルル。俺らも奴隷だ。余計な動きはできねえからよブルルル」
シルバーとブレイズは顔を見合わせる。
もし万が一、ここで反乱が起きたら、俺たちはどっちの味方をすりゃあいいんだろうな、とその目は言っていた。




