表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/97

4・『皇棋』とはなんぞや?ワクワクが止まらない草歩!

 ありがたいことにそのおじさんは本当にいい人で、草歩が外国からきた可哀想かわいそうな子だとおもったらしく、丁寧ていねいに説明してくれた。


 「ほら、あそこでみんなやってるだろう?」

 草歩のテーブルにも一組、盤とコマを持って来たおじさんがコマを『初期配置しょきはいち』にならべ始める。


 『初期配置』というのはゲームをスタートする時に置かれているべきコマの種類と場所の配置だ。意外とこれが大切で、ボードゲームに初めてれる人だとむずかしく思えるかもしれない。


 おじさんが並べてくれた配置は、やはり将棋にそっくりだ。

 自分と相手、つまり草歩とおじさんのコマは基本的にはかがみ合わせだ。そして、ほとんどのコマが左右対象さゆうたいしょうになっている。


 自分に一番近いラインは、真ん中に一つのコマがあり、左右対称に種類の違うコマが4つづつ並ぶ。その一つ上のラインは、左右のはしから一つあけた2列目にそれぞれ、種類の違うコマがひとつづつ、二つだけ並ぶ。


 そしてそのもう一つ上のラインには、同じ種類のコマが9個、横一列に並んでいる。

 つまり、手前から2つ目の段に置かれた二つのコマだけが、左右で違う。


 おじさんの側にはその2つのコマが対角線たいかくせんで向かい合うようになっているから、鏡合わせではなく全体としては点対称てんたいしょう、真ん中にある「5五」のマスを中心にグルリと回すと同じ形になる対称系だ。


 この異なる二つのコマが、将棋では、「飛車」と「角」というすごく強いコマになっている。

 つまり、飛車の先には相手の角が、角の先には相手の飛車がいる形だ。


 食べながら聞いていた草歩が質問する。

 「ふゃあさ、ふぉじさん、動かしふぁたは、んぐ。どうなってんの?」


 おじさんが、立体的な形をしたコマを一つ一つ持って、実際に動かして見せながら説明してくれる。

 

名前こそ、『歩』は『連隊工兵エレメンタルコマンダー』、『香車』は『槍刺縦進ペネトレイトイントルーダー』、『桂馬』は『奇襲八艘エルーシヴファントム』などわかりにくかったが、結局全てのコマは将棋と同じ動きをするようだった。

 

 草歩は名前を覚えることは諦めて、自分の中ではいままで通り将棋のコマの呼び名で呼ぶことにする。


 『』は、自分の前に一つだけすすめ、それ以外にはいけない。もちろん戻れない。これが自分の手前から3列目に9個横に並んでいるコマだ。


 『香車きょうしゃ』は前方ならどこまででも行ける。でも一度すすんだら戻れないし、左右にもいけない。これは、一番手前の列の左右の端。


 『桂馬けいま』は自分の二つ先の、正面でなく、その左右どちらかの場所にジャンプできる変わったコマだ。他のコマは、目の前に自分の駒があると進めないが、桂馬は飛んだ先にさえ自分のコマがなければ、目の前に味方がいても飛び越えることができるのだ。

 進めるのは前にだけで、後ろに戻ることはできない。これは「香車」の隣、左右から二列目だ。


 この三つは、弱いコマと言われている。バックすることができないから、攻め込んだらやられることだ多いためだ。


 『銀』と『金』はカナゴマと呼ばれる。文字通り金属きんぞくの字が当てられているからだ。


 『銀』は自分の前、斜め右、斜め左の3マスと、後ろの左右さゆうななめに進める。真横と真後ろにはいけないので、クセのあるコマと言われる。桂馬のさらに一つ内側にある。


 『金』は銀と同じ前の3つと、左右の真横、真後ろに進める。銀が動ける、斜め後ろの左右にはいけないけれど、コマのまわり9マスのうち、6マス動ける場所があるのでとても強いコマだ。王を守る時になくてはならないコマとされている。銀の内側で、中央の縦ラインのすぐ隣に二つ並ぶ。


 そして一番大切なコマ。これを取られたら、どれだけ相手を追い詰めていたって、どれだけたくさん持ち駒があったって負けてしまう。自分に一番近い列の、中央にじん取る中心のコマ。

 『王』だ。


 『王』はこの世界では『天下皇帝ワールドエンペラー』と呼ばれていて、『皇棋』の象徴でもあるコマだ。

 王は周り9マスのどこにでも動くことができる、強いコマだ。だから詰ませるにはよく考えなくちゃ、スルスルと逃げてしまう。


 強いコマではあるけれど、取られたら負けなので攻めに参加することはあまりない。

 あとはさっき言った『飛車』と『角』というすごく強いコマがある。


 『飛車』は、前後と左右はどこまでも行ける。斜めはいけない。

 『角』は斜めの線にどこまでも動ける。前後左右にはいけない。


 それぞれ桂馬の前、左右の端から一つ開けて置かれる。飛車が右で、角が左だ。

 大体この二枚の大駒おおごまおもには飛車が主役になって、将棋の戦法が決まっているのだ。



 ふーん、じゃあ本当に将棋といっしょだな。

 これなら自分もできそうだ、と草歩は胸をで下ろす。


 「じゃあ、おじさん、僕と一局指そうよ」

 パンでスープの皿をきれいにき取って、それを口に放り込んだ草歩は食器を傍に押しのけて、盤をテーブルの真ん中にすべらせる。


 手をこすり合わせてワクワクしていると、おじさんが苦笑くしょうして言った。

 「いや、ダメだよ。だって坊やの『能力アビリティ』を知らないもの」


 「能力?」

 聞いたことがない言葉に草歩は戸惑う。


 「そうだよ。指すには能力を知ってるもの同士じゃないとね。細かい能力の説明がないとおたがいめちゃくちゃできちゃうだろ」

 と言っておじさんははっはと笑い


 「そうだそうだ、坊やは『皇棋』を知らないんだった。ほんとに初めてなの?」

 ともう一度聞いてくる。よっぽど信じられないのだろう。


 「よーし、じゃあ、説明も兼ねて『神前宣誓ゴッズオース』で一度やろうか」

 「神前宣誓?」


 「そうか、それも知らないか。えーと、ほら」

 と言ってあたりをみ回したおじさんは、さっき草歩が見つけた、何もない空間で対戦している二人を示した。


 「ほら、彼らがやってる。『宣誓オース』の対局は、神のもとに行われる公式の『皇棋』決闘デュエルだ。神自身が戦いの場を与え、能力の使い方を公平に裁き、お互いに賭けたものを神命によって果たさせる」


 「えーと」

 いきなり将棋とはなれ、まごついた草歩は必死に頭をめぐらせる。


 「こういう盤を使わないで、特殊な状態で戦うってことだよね?それを神様が見守ってるの?」

 「ああ、そうさ」


 おじさんがほこらしげにいう。

 「この国は、『皇棋』の神が治める世界だからね。宣誓された『皇棋』は神によって正しくジャッジされ、勝者にたいする評価やレベルも神自ら判断なさる」


 そしておじさんは肩をすくめ、

 「はっきり言えば、ここじゃ、『皇棋』に勝つことが、強くなったりかしこくなったりする一番の方法なんだ。俺は正直弱いから、こうして地道に商売して金稼いで生きてるけど、本気で『皇棋』をやって強くなれば、他のものは全て手に入るんだよ」


 なるほど、と草歩は納得なっとくする。

 ゲームではモンスターをたおしたり、お使いクエストをこなしてレベルをあげるけれど、この世界では『皇棋』に勝つことが、そういう経験値けいけんちを得る手段しゅだんなんだ。


 ゾクゾクとした興奮が背中を走る。

 なんだか面白いことになってきたぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ