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39・ガスマスク発見!だけど?

 草歩とピョンが穴の縁からのぞき込むと、下にいたシルバーかブレイスが犬みたいな顔をした奴隷の報告を受けて、大きな声で悪態あくたいをつきながら一緒に駆け出してゆくところだった。


 もう一人がどこにいるかわからないが今のうちだ。

 草歩は素早く崖を降りてゆき、ピョンも後に続いた。


 運良くそばに他の奴隷たちはいないし、草歩たちが起こしたエレベータの事故はちょっとした騒ぎになっているようで、みんなそちらに気を取られている。


 道路に降りた草歩とピョンは、シルバーとブレイズの住んでいる小屋にむかって駆け出した。

 ガスマスクがどこかにあるはずだ。


 馬小屋や小屋の前の荷物を見ながら奥へとすすむ。どんな形なのかが正確にわからないのが困るけれど、そんなこと言ってる場合じゃない。


 表にはなさそうなので、草歩は小屋に入ることにした。


 思った通り、鍵はかかっていない。ここでは奴隷が命令に逆らうことはないから鍵が必要ないだろうとは思っていたのだ。


 中に誰かがいるかもしれないので、手近にあったおけを部屋の中に投げてみる。

 カラカラン、とまあまあの音が立つ。


 しばらくうかがったが中から誰か出てくるようすはない。よし、と草歩は後ろにきていたピョンに、人差し指を口につけるシーの合図をして、中へと滑り込んだ。


 管理に使うものなのだからそんなに奥にしまっているはずはないんだ。

 手近な部屋から調べだす草歩。


 トイレやキッチン、ちょっとしたサウナまであって、結構快適そうな家だ。


 「あれ?兄貴あみき、ちょっときてくださいミ」

 呼ばれて言って見ると、ピョンは玄関脇の洋服ダンスを開いていた。


 ちょっとしたコートや手袋、鎧なんかも入っている。その脇に。


 「あ!で、でもこれ」

 「ですよね、兄貴あみき


 草歩の困惑に、ピョンも同じように眉をひそめた。

 そこには確かに草歩がピョンに説明したようなマスクがかかっていた。


 目のところはガラスになっていて、顔全体を覆うマスクに、馬獣人用だから顔がかなり長いけれど口元にコードが付いていてその先に金属製のボンベが付いている。きっとこの中の空気を吸うことで毒ガスから守るんだろう。


 そこまでは想定通りだったのだが、マスクには余計な物までついていた。


 ゴムに似た素材でできた雨がっぱのような全身スーツ。それがマスクから続いて手足の先まで体全体を包むようになっている。


 もちろんシルバーとブレイズの体に合わせたものだから、草歩たちには大きすぎる。


 マスクだけ切り取れないかとも思ったけど、全身防備が必要ってことはそれだけ危険な場所なのだろう。草歩たちも素肌をさらしていたら危ないということだ。


 「うーん、兄貴あみき、これを着るのは難しいですミね」

 困ったように耳を掻くピョンに、草歩はしばらく考えて言った。


 「いや、逆に都合がいいよ!着て行こう!!」

 「え?ど、どういう意味ですミ?」


 困惑するピョンに、草歩はいつもの自信たっぷりな笑顔を向けた。


 しばらくして小屋から出てきたのは、馬獣人のスーツをきた一人の男のすがただった。


 全身を黒いゴムみたいな素材につつまれ、身長もサイズもなんとか合うように着込んでいるが、その歩き方がどうにも心許ない。


 あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。


 「ああ、ピョン、そっちじゃないそこにはタルがあるよ!」

 「ミ、ミえないんですよ兄貴あみき!」


 樽にぶつかり木箱を蹴飛ばし、ちょっとした段差につまづきそうになりながら歩くその姿は、どう見ても不自然極まりない。


 それもそのはず、ピョンが草歩をおんぶして二人でなんとか着込んでいるのだ。


 下のピョンが歩かなければいけないのだけれど、前が見えないので足元がおぼつかない。


 草歩はピョンの耳を掴んでコントローラーみたいに命令を出そうとするがそんなにうまく行くはずもない。


 「痛い痛いミ!」

 「ご、ごめん。もうちょっと優しくしたいんだけど、フラフラするから思わずつかんじゃうんだ」


 「こ、こっちでいいミね?」

 「うん」


 といいながら草歩は考える。このままフラフラ歩いていったら完全に怪しまれるし時間もかかって見つかっちゃうな。


 と、横をみる草歩。

 「ピョン!ちょっとまって!いいこと考えた!」


 途端にピョンの耳から力が抜ける。

 兄貴あみき、またあの笑顔を浮かべてるに違いないミ。今度は一体……。



 「「わわわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」」


 作業中の奴隷たちがその声に振り返ると、小屋のある横穴から馬に乗った防護服ぼうごふく姿のシルバーかブレイスの姿が飛び出してきた。


 全速力で馬を走らせて、その上でフラフラ揺れながら鉱山の螺旋らせん道路を突進してくる。


 「しっシルバー様!?」

 「危ない危ない、どいてどいて〜〜〜〜〜〜!!」

 慌てて飛び退いたその間を、上半身をぐらぐらさせて駆け抜けていく。


 それを唖然あぜんとして見守る奴隷たち。


 「おい、何を怠けているイイ〜〜〜〜〜ン!!」

 と、ガラームの屋敷から出てきたシルバーが声をかけた。


 「あ、シルバー様。今ブレイズ様がものすごい勢いで駆けていったので何事かと」

 「ブレイズのやつが?フン。おおかた誰かがヘマでもしたのを殴りに行ったのだろうブルルッ」


 「いえ、防護服も着ていなさって…あれ、おかしいな」

 

 ふっと考え言葉に詰まった奴隷にシルバーが腰の鞭で脅しつける。

 「いつまで喋っているつもりイイ〜〜〜ン!!さっさと働けイイイ〜〜〜ン!!!」


 「はっはい。すみません」


 そそくさと仕事にもどった奴隷は考える。

 (おかしいな?ブレイズ様はさっきエレベータの方へいったような?)


 だがシルバーの顔をチラッとみた奴隷はすぐに思い直す。

 (きっと俺の勘違いだろう。余計なことをいって鞭で叩かれたらかなわない)



 馬のくらに立っている草歩の足を、座っているピョンが必死に支えているがとても支えきれない。


 馬が跳ねれば体ごと浮き上がり、曲がればほとんど真横に倒れそうになったりスピードが変われば前後につんのめりそっくりかえりながら、それでも防護服姿の草歩とピョンは馬でなんとか目的の穴までたどり着いた。


 近くの奴隷が何事だと見守るのを、

 「何を見ているいい〜〜〜ん!!」


 と草歩は声真似をして追い払い、苦労して馬を降りるとゆっくりと側道のなかへ入っていった。

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