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33・オリハルコン鉱山とガラーム!

 そこは巨大なアリジゴクのようだった。


 馬車でまばらな立木の生えた丘を登り切ると、目の前に信じられないほど大きな穴が地面にぽっかり空いていた。


 草歩は言葉につまった。なんと表現していいかわからない。


 最初に城壁じょうへきに囲まれた国の首都を坂の上から眺めたけれど、その活気ある迫力をマイナスの方向に振り切ったような不気味な光景だ。


 硬い岩場がすりばち状にくり抜かれている。その大きさがともかくけた違いだ。東京ドームがいくつも入りそうなスケールに岩が削られている。そしてその穴の内側を渦巻きのように長い長い道がつづいていて、だんだんと円の半径を狭めながらどこまでもどこまでも地下へと降りてゆく。


 ちょうど山を地面からくりぬいたらこんな形状になるだろうか。

 高く登るためではなく、どこまでも深く潜っていくための螺旋らせん階段。


 うずまきの道にはいくつも横道があって、いろいろな高さで採掘ができるようになっている。


 底が見えない穴の先に豆粒ほどに、採掘した岩石を積んだ荷車を引いて上に向かって来ているのが見える。一体どれほどの時間がかかるのだろう。


 地下へ続く道の入り口付近に整えられた場所があり、その前には棍棒を持った屈強な牛頭の獣人が、どろりとした目つきで立っていた。首輪をしているところをみるときっと奴隷なのだろう。


 ピョンに馬車を止めさせたピーグイがドアから顔をだすと、奥からせたヤギのような顔の老人が走って来た。


 「ピーグイ様、お久しぶりでごぜえメェ〜す。すぐに主人に伝えてメェ〜りますので少しお待ちくださいメェ〜せ」


 ふさふさの眉毛の下の細い目に張り付いたような笑顔を浮かべてその老人は言うと、ヒョコヒョコと駆け戻ってゆく。


 ピーグイがすっかり怖い顔をしているので、草歩も奴隷らしく黙って待っているとやがて戻って来た。今度はカエルのような顔をしてひらひらの薄いローブを着て頭にも布を被り、鼻から下も同じような薄い布で隠している、どうにも奇妙な両生類りょうせいるい人を連れ立っている。


 「お待たせいたしメェ〜した。ピーグイ様、どうぞ。主人がお喜びになっておりメェ〜す」


 と言ってピーグイのためにドアをあけ、頭を下げて手で案内する。


 「うむ。ガラームのヴァつにあうのも久しぶりヴァ。ヴァい変わらず悪どくヴァっているか?ヴァっはっはっは」


 「とんでもごぜえメェ〜せん。主人はそれはそれは優しいお方でごぜえメェ〜して」

 などと話をしながら降りてゆくピーグイ。


 草歩も降りようとすると、カエル娘がぬっと馬車に顔をのぞかせる。そして手荒てあらに草歩の首の縄を持つと、無言でグイグイひっぱっていく。


 「わわわ、ちょ、ちょっと引っ張るなよ!」


 草歩の抗議など気にも止めない様子で馬車から引き出すと、馭者ぎょしゃ台のピョンも同じように無理やり引き下ろす。


 やれやれ、奴隷はどこでもこういう扱いらしい。

 さすがに何回も経験すると慣れてきて、動揺どうようもせず周りを観察できた。


 ヤギ老人とピーグイに続いて草歩たちも奥へすすんでゆくと、岩に掘られた階段があった。


 くり抜かれた赤銅しゃくどう色の岩は綺麗にみがかれ、それ自体が一つの美しい壁になっている。階段を降りる先には豪華ごうかな両開きのドアがあって、一行いっこうはその中へ入って行った。


 中も壁は岩を磨いたものだ。階段にもカーペットが敷かれているが、階段自体は岩肌だ。そして降りてゆく先には天井の高い広い部屋があったが、壁の片側に大きな窓が開いていて、そこから光が入って来ていてとてもあかるい。


 どうやらここは、すり鉢状に開いた穴に面して窓を持った、岩をくりぬいた建物になっているようだ。


 縦長の窓からは鉱山の深い穴が見下ろせる。この視点は支配者の欲望を満足させるに十分だろう。下で働くノミのような奴隷たちがうごめく様子を高みから一望できるのだ。


 岩肌とシンプルな直線の窓や天井の形状はどことなく遺跡や砂漠の墳墓ふんぼを想像させる。絨毯じゅうたんの柄や壁で揺らめく松明の明かりと合わせて、古代のエキゾチックな王宮のようだ。


 そういえば目の前のカエル娘の服装も、どことなく砂漠の民を思わせる。


 体型が今まで見た獣人と違って完全にカエルなので「娘」というのは想像でしかないが、胸と腰に小さな金属の覆いを鎖でつないだものをつけ、あとは薄い絹のローブを身にまとっている。


 薄桃色のローブが薄いので、その下着くらいしか大きさのない金属でおおった部分以外は肌がみえていて、カエルだから気がつかなかったけど人間だったら結構際どい格好なのかな、と草歩は冷静に思う。


 水かきのついた足に金で飾られたサンダルを履いて、足首のアンクレットが歩くたびにかちゃかちゃ音を立てる。


 「ガららあ。ビーグイ!よグギダな!!ガんゲいズるゾ!」

 「ガラーム!ヴァい変わらず趣味のヴァるい服を奴隷に着せているな。ヴァっはっはっは」


 「おまえのブグにグらベれバ、俺の趣味ジゅみなんゾガギのあゾビよ」


 部屋の奥からものすごくガラガラしたよくひびく大声が聞こえた。声帯が石でできているんじゃないかというような荒々しさと重い響き、奴隷商人というくみあわせから、草歩は「スターウォーズ」のジャバ・ザ・ハットとゴーレムの組み合わさったような、でっぷりとした巨体を思い浮かべた。


 が、いざ姿が見えてくると、そこにいたのはトゲトゲのうろこを持っているところこそ強そうだが、ピーグイの半分くらいで、草歩よりも背が小さいんじゃないだろうかと言うトカゲ人が、ベッドのような玉座に寝そべるように座っていた。


 ターバンを被り腹帯にアラビアふうのズボンを履いているところはピーグイと同じだが、こちらは薄緑を基調としてどことなくさわやかな印象がある。全身をおおう鱗が銅と真鍮しんちゅうをまぜたような黄金こがね色なので、緑がよく映えている。


 どこかで見たことがあるなあと思っていたが思い出した。テレビで見たことのある、アルマジロトカゲという名前のトカゲによく似ている。


 椅子の両脇にはカエル娘と同じ格好をしたヤモリ娘とイモリ娘がいて、手にした大きな羽扇はねおおぎでゆっくりとガラームをあおいでいる。


 「デ?今日ギょうバ何のようダ?」

 連れてこられた草歩とピョンを見てガラームはややけげんそうな顔をした。


 「ヴふん、こいつらをヴォまえのところで働かせようとヴォもってな」

 「ゴのガギを?召使めジヅガいなら間に合っデるゾ」


 「いや、ここの鉱山でヴァ」

 「ガららあ。ビーグイ、ゴいヅらにガねバらえねえ。ゴんなガギやグにダダねえガらな!」


 ガラームは急に不機嫌そうに言った。


 「ヴァっはっは、ヴァかってるさ。こいつらはヴォんとは沼街の金持ちに売る予定だったんだがヴァ。その相手が無茶な『宣誓』して破産したらしい。で、前金ももらってたし、ヴォれにはちょっと仕入れなきゃならねえ奴隷がいてよ。こいつらが邪魔なんで、ヴァずかってくれればそれでいいのさ」


 「ガららああ?沼街ぬままヂの?ギガねえな。まあいい。ジゃあガねもいらねえ、ダダバダらギデいいのガ?」


 「いや、ヴォちろんこいつらが稼いだうちの半分はヴォらう。こいつらの主人はヴォれだからな」

 「ガららあああ。あいガわらズガめついな!」


 「ヴァっはっはっは」

 「いいダろう。俺とおまえのなガダ。ダガヅギやグにダヅやろうをヅれデゴいよ!」


 どうやらうまく商談がまとまったようだ。


 ピーグイはその後ガラームとお茶を飲んだり新しい奴隷の品評をやったりして時間を過ごし、ガラームと大きく握手をして帰っていった。


 帰り際、ピーグイが草歩に向けた目は、真剣な、やさしいピーグイのものだった。

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