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26・絶対無敵の能力!!

 「神に最善手さいぜんしゅを聞ける、ですって?」

 驚いた草歩はほとんど叫んでいた。


 「そうさな、それが奴の能力。この『皇棋こうぎ』ってやつぁな、1局の手の組み合わせはそれこそ無数に、宇宙の星の数よりも多く存在すると言われてる」


 肩を落として、深い後悔の手紙を読むかのように静かにトー伯斎はくさい師匠が語る。


 「どこまで進んだ局面だって、その複雑さは人の理解を超える。人間にゃあすべての手を読み尽くすなんてことたぁぜってえにできねえ。


 だからこそ日々感覚を磨き、型を覚え、あるいは型をほんの少し超える手を考える。そうやって『皇棋』は一歩一歩進歩してきた。


 だがな、もし神が『皇棋』の手を読んだなら、それは人間にはおもいも付かねえもんだろうさ?そういう相手にゃあ、それこそ最後の詰みにまで追いこんでいなきゃあ勝てっこねえのさ。人間にとって必勝でも、神にとっちゃ向こうが勝ち、なんて局面だらけだろうさ」


 草歩は黙ってきいている。そんな、そんな能力。


 「だから『あいつ』が能力を発動したら、絶対に逆転されちまう。それに『あいつ』はもともと強え。おいらが認めるくれえ『皇棋』が強え。そんなやつが神に聞いて指した日にゃあ、それこそ本当に誰だって勝てねえのさ。だから、わかったろ?戦うな」


 トー伯斎師匠の言葉は真に迫っていた。草歩は「はい」と答えるしかなかった。



 その能力によって、チェスナは見るも無残に追い詰められている。

 耳は横に伏せられ、尻尾はたれさがり、いつもは力強く大きい体が悲しいくらいに縮こまっている。


 「そう、その目」


 『あいつ』が愉悦ゆえつの響きで呟く。幸福の極みとでもいうような恍惚こうこつの表情を浮かべている。


 チェスナが怯え、ためらい、苦しみ、手を震わせながら指す様子を眺めながら。


 「ああ、いい。いいなあ。獣人は感情がわかりやすいのがいいねえ。本当に最高の食材だよ。せっかくお膳立ぜんだてしても、気持ちを胸の内にこらえたり顔の表情が乏しい種族はきょうを削ぐ。四季の変化があってこそ風流と言うものよなあ、人間も。明るい希望の後に深い絶望があるからこそ、こんなにもおかしくてたまらない、なあ。くくくくくくくくくくくくく」


 ついに堪えきれなくなったように、椅子の上で背を曲げ引きつった笑いをあげながら痙攣したように体を震わす。


 圧倒的強者のみに許される他者への完全なるさげすみ。


 最低な男だが、この世界で『皇棋』も、おそらくレベルも身体的、知能的にも一番優れた何人にも逆らえぬ存在。


 でも、こんな能力。

 まるでチートじゃないか。


 異世界転生ものの定番だけれど、僕じゃなくて悪役の『あいつ』が持ってるなんて。


 それに、この能力。これはまるで『将鬼ウォーズ』の。


 「『鬼神きしん』じゃないか、これ」


 草歩は思わず呟いていた。

 そう、『将鬼ウォーズ』のAIに最善手を聞くことのできる機能にそっくりだ。


 それが聞こえたか、それとも偶然か、『あいつ』が顔をあげ草歩を見た、ような気がした。

 そのどす黒い、吸い込まれるような闇の瞳と一瞬目があい、草歩の背筋に震えが走った。


 僕の声が聞こえたんだろうか?


 だが『あいつ』はすぐに視線を逸らすと、再びニタニタとした笑みをチェスナに向けた。そして見せつけるようにゆっくりと、自分の時間をいっぱいに使って指してゆく。


 くそ、と草歩は師匠に聞いた続きを思い出す。

 能力もチートだが、そのウィークポイントも卑怯ひきょうだ。


 草歩の能力やトー伯斎師匠のもそうだが、基本的に『皇棋』の能力は一方的に自分だけ有利になると言うことはない。一度自分が発動したら、次は相手にその権利が移るものがほとんどだし、『背水乃陣グナエウスドミチウス』のようにルールを一部変化させる能力もその範囲は対等だ。


 能力の差によってゲームとしてのバランスが崩れすぎないような条件が『能力』にはもともと課せられているはずなのだ。


 だが、トー伯斎師匠の語った『あいつ』の能力の弱点は。


 『神に聞いた手で相手を詰ませてはならない』


 それだけだ。試合中に条件によって数回発動でき、しかもかなり長手順聞くことができるらしい。『皇棋』の強い人なら一度だけでも十分有利になれるのに。


 そんなチート能力なのに、弱点が『相手を詰ませてはならない』?


 何かが間違っている。


 本当にこれは、異世界転生の主人公の能力といっていい。

 めちゃくちゃに有利で、ほとんどリスクがなく、世界最強の存在になって好き勝手できる、だなんて。


 草歩は首をひねり、そして悔しがる。


 僕も異世界転生したんだからもっと強い能力にして貰えばよかった。そうすれば『あいつ』をコテンパンにやっつけられるのに!


 そうやって草歩が自分の力不足に歯がゆい思いをしているうちに、対局は終わりに近づいていた。 


 負けを確信していても指し続けている限りは負けではない。

 だが持ち時間には限りがあり、いつか必ず終わりの瞬間は訪れる。


 「ありません」


 消え入りそうな声でチェスナが投了した。

 そして椅子から立ち上がると、あいつの前に行きひざまづいてこうべを垂れる。


 『宣誓オース』によってチェスナは『あいつ』のものになった。

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