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22・走る草歩!遠いチェスナ

 草歩はトー伯斎はくさいの話を聞いた後すぐに山道を駆け出した。ピョンがあわてて後をついてくるが気を使っている暇はない。


 絶対に、チェスナが『あいつ』と戦う前に止めないと!


 転びそうになりながら、足場の悪い道を必死でけ下りる。怪我をしようがそんなことは今はどうでもいい。兄弟子を、バカなことをする前に止めてまた一緒に過ごしたい。こんな形で終わってしまうなんて嫌だ。


 息を切らせて平地へおり、街の方へ走ってゆく。


 見えてきた『皇棋学校こうぎがっこう』の前は人だかりができている。きっと皆やってきた『あいつ』を見にきたんだろう。


 草歩はその人混みに近づいてゆく。 

 「あのやろう。また来やがったのか」


 「えげつないことするよな、ほんと」

 「皇棋が強いやつを育てさせないために定期的に潰しに来ているらしい」


 「自分に逆らえないようにだろ?」

 「あいつがきてから、学校も寂れちまったよな、目を付けられたくねえからしかたねえけどよ」


 みんなが『あいつ』のことを噂している。


 「はあ、はあ、はあ、あ、兄貴あみき、どうするんですミ?」

 ピョンが追いついてきた。


 皇棋学校の階段をふさぐように見物人が集まっていて、草歩がこれ以上近づけないで立ち往生していたからだ。

 確かにこの人混み、なんとかしないと前に進めない。


 中の様子も見えないし、潜ろうにも人が多すぎる。先頭の方にはゴーレムとかサイクロプスの姿もあって、階段の上の様子もほとんど見えないくらいだ。


 「そうだ、ピョン、君ならジャンプでこの人たちを越えられるんじゃない?僕をおんぶして飛び越えられないかな?」


 「えー、さすがにそれはむりですミ、大人の長耳族ながみみぞくならできるかもですけど、ミーのちからじゃ…」


 「うーん。そうだ、ヒソヒソヒソ」

 草歩の話をピョンが真剣な顔をして聞いている。


 「ふミふミ。わかりましたミ、兄貴あみき!」

 草歩とピョンは顔を見合わせ、うなづき合う。


 草歩は人混みの後ろで、一番後ろの人と背中を合わせるように道側に向いて立つと、両手を組み合わせて前に構えた。


 ピョンは道の反対側に走って行くと、草歩の立っているところに狙いを定めて走り出した。

 飛ぶように助走をつけたピョンは草歩の差し出した手に足をつき、 


 「「せーの!!」」


 と草歩が腕を大きく上に跳ね上げたのにあわせて思い切りジャンプする。

 飛び上がったピョンは見物人の頭上を越えた!


 そして、その先頭にいた大きなゴーレムの頭に取り付く。

 「わわわ、ごミんなさい!」


 ピョンは偶然そうなった風に言い訳しながらゴーレムの目を両手でふさいだ。

 

 「ゴゴ?ドウなっダ?何もミエないゴ?」

 急に視界を奪われたゴーレムが、ふらふらとあたりを彷徨さまよい始める。


 「わ、あぶねえ、やめろ動くな!」

 「おいおい、こっちくるな!」

 「くそ、にげろにげろ!」


 大きな石の体をしたゴーレムにつぶされたらかなわないと、パニックになった見物人が逃げ出し人垣に隙間ができる。


 「今だ!!」

 草歩は素早くその間をすり抜けて、階段に辿たどりつくことができた。


 見ていたピョンもゴーレムから飛び降りて草歩の隣にやってきた。


 「ありがとう!ピョン!」

 「さすが兄貴あみきの作戦、うまくいきミしたね!」


 階段の途中には槍を持って兜をかぶった兵隊たちがいる。 

 そのずっと先の、建物の入り口の円柱の柱が並ぶ玄関前広場でどうやら対局が行われているようだ。


 苦しそうな顔をしたナチータと、立派な鎧をつけたドラゴン族の見るからに身分が高そうな雰囲気の龍人が戦っているのが見える。


 ナチータの後ろに腕組みをしたチェスナの姿が見えた。

 間に合った!


 まだチェスナは戦っていない。それに相手も師匠から聞いた『あいつ』じゃなさそうだ。


 『あいつ』の姿はここからは見えないけど。

 階段を駆け上がる二人に、猿人の兵士二人が槍を突きつける。


 「止まれ!今は『皇棋指南役こうぎしなんやく』様の御見廻おみまわり中である。お前たちのような子供がこれ以上近づくことは許さん」


 「いや、あの、ぼ、僕たち関係者で」

 「何?貴様のような弱っちい子供が関係者?笑わせるな!」


 くそ、早くしないとチェスナが何しでかすかわからないのに!


 「そうなんです!本当に、ほら、今戦ってるナチータさん、あの人が僕たちの先生で」

 「そうなんだミ!ナチータ先生の応援に!!」


 槍を突きつける兵士がまゆを上げる。

 「む?ナチータを知っておるのか。教え子とな?」


 「そう、早く早く!僕らが応援しないと負けちゃうかもしれない!」

 「そうだミ!負けたらあんたたちのせいだミよ!!」


 兵士たちは困ったように顔を見合わせている。よし、もう一押しだ!


 「お願いします、どうか通してください!静かに応援しますから!」

 「お願いだミ。このまま先生が負けちゃったら、僕たち一生あんたたちを恨むミ!!」


 今度は泣き落としだ。草歩とピョンは兵士にしがみついて涙目でうったえる。


 すがるように泣き付かれて兵士たちも断れなくなったらしい。ため息をつき、笑顔を浮かべると言った。

 「うむ、しかたあるまい、行ってもよいが、静かに、失礼のないようにするのだぞ」


 「ありがとう!」

 「ありがとうミ!」


 兵士の脇を駆け抜ける草歩とピョン。


 あと少しなのに。階段が高く、永遠にも感じる。登っても登っても、なかなか入り口広場が近づいてこない。


 「負けました」

 ナチータが龍人に頭を下げ、投了を告げたのが聞こえた。


 やばい、もう少しなのに。


 チェスナ、と声をかけようとするが息が上がって声がでない。


 そんな草歩の心を打ちのめすように、一番聞きたくない声が耳に聞こえてきた。

 「次は私と勝負しろ!そして我が兄弟と父上、母上を返してもらう!!」


 チェスナだ。


 堂々と立ち、龍人の後ろを指差して睨み付けている。そこに『あいつ』がいるのか?


 今まで見えなかった龍人の後ろの柱の影が、階段を上るに連れて次第に見えてきた。


 そこには金の槍を持ち黒と金で装飾そうしょくほどこされた鎧を身につけた近衛兵このえへいに守られ、大勢の奴隷にになわれた立派な輿こしがあった。


 そしてその上に座る人の影が見えた。

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