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16・『疾風迅雷』の威力!

 それからの老人の手は容赦なかった。

 こちらの金銀を龍の圧力で釘付けにしておいて、向こうの銀桂を前進させてあっという間に中央に迫ってくる。


 だが、こちらの棋力に油断しているのか、『居玉いぎょく』という王を5九に置いたままなのが狙いだ。


 少し前は藤井システムという対穴熊の戦術や、今では藤井聡太さんが居玉のまま正確で素早い、超速ちょうそくとも言われる攻撃手順でプロ相手に勝ちまくっているので、そこまで無謀むぼうという扱いはされない。


 しかし、やはり囲われていない玉というのは、想定しない攻撃に対して弱いものだ。


 そしてこの老人は草歩の『不殺友愛オーセンティック・ディボーション』の能力を知らない。

 この油断をついてやる!


 桂馬が二枚中段に跳ねてきた。

 こちらは銀と桂で備えるが、やはり龍が強く、右の金銀が動けないのがきつい。


 しかし。


 相手の桂馬が跳ねてきたことで王の斜めのラインが開く。

 そこで7三の歩を7四に進める。


 相手の龍が8二にいて、王が5九にいるので、3七に持ち駒の角を打てば王手飛車だ。


 気づくか?

 同じような能力の持ち主と戦ったことがあるだろうか?


 老人は草歩が一見意味のない手を指してきたので首を捻っている。


 「ゆう〜〜〜〜〜れい〜〜〜〜の〜〜〜〜〜しょ〜〜〜う〜〜〜〜た〜〜〜〜〜〜い〜〜〜、みた〜〜〜〜り〜〜〜、か〜〜〜〜〜れ〜〜〜お〜〜〜〜〜ばな〜〜〜〜〜」


 しかしやはり『持ち駒』を使うという『能力』は知らなかったようだ。怪しんだものの銀を前に進め、囲いの薄い草歩の玉に迫ってくる。


 でもまだ大丈夫、詰まないはずだ。

 ここしかない、目に物見せてやる!


 「『不殺友愛オーセンティック・ディボーション』!!!」


 唱えた草歩は、持ち駒の角を3七に打ち付ける。

 どうだ!


 老人も流石に驚いたようで、酒を飲む動きを止めて草歩の能力を確認している。

 「取った敵のコマを打つ、だあ〜?」


 じろり、と老人が草歩を睨む。


 草歩はその迫力にドキリとするが、その目には怒りや衝撃でなく、喜びと興奮が浮かんでいることに気づく。


 この人は、自分が知らない初めての能力に出会って喜んでいるんだ!

 本当になんて貪欲どんよくな人だろう。


 羽生善治はぶよしはるさんは当時七つだったタイトルを全て取ってしまうようなものすごく強い人で、対戦相手も当然、倒そうと毎回おどろくような工夫を凝らした手を指してくる。


 すると羽生さんは目を輝かせてその未知なる局面にのめり込み、相手の研究を上回る正確な手順で答えて、結局勝ってしまうことが多かったそうだ。


 そのため、将棋棋士の間では新手しんてを思いついたらとりあえず羽生さんで試す、なぜなら正確な答えが返ってくるから、という流れができていたらしい。


 自分の初めて見るものを恐れではなく喜びでむかえるというのは、強い人の特徴なのかもしれない。


 「おまえさん、ちいっと興味がわいたぜ、おいら」


 老人は思わせぶりなセリフをいい、しかし草歩の想定通りというか、他に手段がないので王と角の間に金を上げて「王手」を防ぐ。


 やった。

 草歩はすかさず角を自陣の8二に引き相手の「竜」を取りながら、自分は「馬」を作ることに成功した。


 これは圧倒的に有利だ。

 思わず草歩の顔に笑みが浮かぶ。


 こちらには馬が2枚。持ち駒に飛車。相手の攻め手は自陣にはない。

 あとはゆっくり圧力をかけていけば。


 相手は桂馬を一枚成ってきた。

 草歩は銀を上げて備える。


 「おまえさん、笑うのはちいっとばかしはやかったし、後悔するのはちいっとばかしおそかったな」

 と老人はいってグビリと酒を飲んだ。


 なんだ?なんだか嫌な予感がする。


 「面白え『能力アビリティ』だ。面白え。こいつぁ久々に『詰皇棋士つめこうきし』の血が騒ぎやがるぜ」


 そして自分の『駒台』にある『持ち駒』に手をかざす。

 「こうか?『不殺友愛オーセンティック・ディボーション』!」


 なんだと!?

 草歩が驚いたことに、老人はいきなり、持ち駒の飛車を草歩の王を守る金にむかって打ち付けてきた。


 こちらにはまだ王の周りに銀と金がいる。

 金で飛車をとると、それを銀で取り返してくる。


 草歩はそれを銀で取る。

 老人は銀を成った桂馬で取り返す。


 玉で取るしかない。


 4二の地点で剥き出しになってしまった玉。

 5三の地点には桂馬が一枚効いている。


 「あっ」

 草歩の口から後悔の悲鳴がれる。


 老人は静かにとなえた。


 「『疾風迅雷ブリッツクリーク』」


 桂馬が5三に成り、手番そのままに4二の王をたいらげる。

 「おめえさんの、負けだぜ?」


 あっという間もなく、草歩の王は詰み、どころか取られてしまった。


 「負けました」

 草歩は深く頭を下げた。

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