15・老人との『宣誓決闘』!その能力は!?
皇棋盤を挟んで老人と草歩は向かい合って座る。
ずっとチェスナがいた場所に自分もようやく座れて草歩は嬉しかった。
「いいか、一度しか指さんからそのつもりでな。その代わり『宣誓』であいてしてやらあ」
「うん」
ようやく教えてもらえるんだ。今はそれで十分だった。
老人がニヤリとわらう。
「じゃあ、ま、一手30秒でいくかぃ、おまえさんに異論がなきゃよ」
「いいよ。あ」
「ん?」
「その、何を賭けるの?『宣誓』は果たすものを決めないと」
「ああ、そうさなあ。おいらが負けるはずねえからなんでもかまわねえが」
「じゃあさ」
草歩は意気込む。
「僕が勝ったら、お爺さん僕を弟子にしてよ。それでもいい?」
「けっ、面白くもねえが、まあいいだろうよ。おいらはそうさなあ」
老人は髭をさすって考えてからこう言った。
「今は思いつかねえから、おいらの好きなタイミングでおまえさんはなんでも一つ、必ずいうことを聞くってのはどうだい?」
「なんでも?」
曖昧な賭けだけれど、このお爺さんが変なことを言ってくるとも思えない。
きっと掃除とか洗濯とかだろう。
「うーん、わかった。いいよ」
「よし決まりだ。じゃあいくぜ」
「「『神前宣誓』!!」」
老人との指導対局が始まった。
すごい!
宣誓のインターフェイスが表示されて草歩はまず、老人の戦績に圧倒された。
レベル89。
3256勝1042敗。
それだけ指すだけでも大変なことだが、勝率がえぐすぎる。人生全ての『宣誓』結果なわけだから、初めてからしばらくは負けが多いかトントンなはず。
それが7割6分の勝率って、どれだけ勝ちまくっていたんだろうか。
いつの間にか手番が老人に決まっていた。
「じゃあ、いくぜ」
酒を飲んですっかり酔っ払い爺さんに戻っているが、隠しきれない鋭い目つきで草歩を睨んだ老人がコマを動かし、『宣誓決闘』がスタートした。
角道を開ける老人に対して、草歩はまたも保留し飛車先を進める。
相手は9六の端歩をついてきた。様子見か?だがとりあえずは飛車先をもう一つ伸ばしておこう。
相手の角が7七に上がる。交換を受けてきた手だ。
飛車先をつかないということは、振り飛車にしてくるのだろうか。
草歩は王を4二にあがって囲う動きで様子を見る。
飛車を振ってきた。おもった通り。
『向かい飛車』と呼ばれる、飛車を8八に振って文字通り向い合わせになる形だ。
角がいるのでコマ組をどうしようか。と草歩は悩む。
今回は棒銀はできないだろう、とりあえず中央にも行けるように、7一の銀を6二に上がっておく。
向かい飛車では角を切られて飛車を取られる筋を気をつけないといけない。
だが今は大丈夫なはずだ。
老人は、と見ればなんだか退屈そうに、つまらなそうに酒を飲んでいる。
と、飛車先の歩を向こうから突いてきた。
これは。
取ると何か罠がありそうだ、ということはわかる。
しかし取らないとこちらの歩を取られ、そのまま飛車先を圧迫されてしまう。
罠を承知でとるか、罠を回避して圧迫を受け入れるか。
30秒はあっという間に過ぎていく。
ええい。こんなところで気持ち負けしていたら勝てやしないんだ。
目をつぶるようにして草歩は相手の歩を取った。
どうなる?
老人があくびをかましている。
「はあ〜あ。せっかくおいらが教えてやったのによ」
そして頭をボリボリ掻いて、唱えた。
「『疾風迅雷』」
なんだ?一体どういう能力なんだ?
草歩が進めた歩を角で取り返す。
うん、次に6三の歩をつけば、相手の角の効きを遮りつつ、銀で圧迫できる。
相手は角が使いづらくなっただけじゃないか?
ところが、手番が草歩に回ってこない。
あっ。と草歩は気づいた。
老人は続けて手を進め、角を5三になり込んできた。
王手だ。角を取るしかない。
でも、この角を取ると飛車を取られ、しかも成り込まれてしまう!
『2手指し』。
さっき『詰め皇棋』で教わった能力は、老人のものだったのか!
「つき〜〜〜〜〜い〜〜〜〜よ〜〜に〜〜〜〜釜〜〜〜〜〜を〜〜〜〜〜〜ぬかれ〜〜〜〜〜〜るような〜〜〜〜〜、そんな〜〜〜〜〜あほう〜〜〜が〜〜〜〜どこに〜〜〜〜いる〜〜〜〜〜〜っと」
仕方なく王で馬を取った草歩に、老人は飛車を取りながら成り込んできた。
コマが木でないので、あのパッカーンという駒音がないのが救いだ。
苦しい。
きっとチェスナもこんな思いで老人の歌を聞いていたのだろう。
でもまだ諦めないぞ。
まだ僕の『不殺友愛』は見せていないし、老人の『疾風迅雷』の説明。
*『疾風迅雷』は一度プレイヤーが発動すると、相手プレイヤーにその権利が移る。相手プレイヤーが発動すれば、プレイヤーはもう一度使う権利を得られる*
この能力もお互い交互に使うことのできるものだ。
こっちも角を成り込んでやる!
「『疾風迅雷』!」
草歩はすかさず自分の角道を開け、そのまま次の手も指して香車を取りながら馬を成り込んだ。
これで互角だ!
「諦めのわりいガキだな」
老人が嬉しそうに笑う。
この人も戦うのが好き好きで仕方ないんだろう。思惑どうりいかないほうが面白いと感じる根っからの勝負師なんだ。
老人は構わず7九の銀を上げてきた。
龍が効いていて草歩は馬で桂馬を取れないし、『皇棋』では持ち駒を使わないから端の桂香を龍で拾うメリットはないのだろう。
『持ち駒』を使うタイミングで、必ず優位に立てるはずだ。
草歩も露出している「王」を陣地に引いて、先の展開に備えた。
最初は失敗してしまった。でも。
なんとしても老人をあっと驚かせて、弟子にしてもらうんだ。




