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13・草歩いつまで粘る?盤上には気になる配置!

 草歩は老人とチェスナが食事をするところ、そのあとまた『皇棋』を指して老人が勝ち、そして二人がそれぞれの寝床に入っていくところをじっと座って見続けた。


 ピョンは最初こそ草歩の隣に顔をうかがいながら座っていたが、そのうちきたみたいで川をのぞいたり花を嗅いだり寝そべったり色々していた。が、いつの間にか姿が見えなくなった。


 僕にあきれたんだろうか?

 そりゃそうだよな、何の計画もなくただ座ってるだけだもの。


 さすがにずっと座って足腰あしこしが痛くなったので、立ち上がってその場で体操をする。

 いつまででもここにいてやるぞとは思っているのだけれど。


 草歩は頼りなさそうに自分のお腹をさする。途端に不安が的中し、


 「ぐ〜〜〜〜っ」


 と大きな音が鳴った。

 はあ。昼間たくさん食べたとはいえ、結構歩いたし、もう夜だし。寝ようにもお腹が空いて寝れそうもない。


 どうしよう?と悩んでいる草歩の耳に、「シャリ」っという何かをかじる音が聞こえた。

 それだけでペコペコだったお腹がさらに悲鳴を上げる


「ぐうううう〜〜〜〜〜〜〜っ!」


 振り返るとピョンがいた。

 ニコニコした笑顔を浮かべてりんごをかじっている。そして反対の手には、葉っぱで作ったかごを持っていて、果物がたくさん入っている。


 「草歩さん、一緒にたべミしょう。腹が減ってはいくさはできぬ、ですミ」

 「ピョン〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


 今度は草歩がピョンに抱きついていた。ピョンは驚いたようだが、すぐに得意気に笑って草歩の背中をポンポンと優しく叩いた。



 草歩はガツガツとリンゴや桃、さくらんぼやブドウ、スイカやイチジクなんかの果物をお腹いっぱい食べた。


 ピョンが言うには、この山の川の流れて落ちている反対側は、様々な花をつけた木々やくだものを実らせた木が生茂る、美しくて甘い香りに満ちた楽園みたいな場所なのだそうだ。


 食べながら草歩は、西遊記さいゆうきの孫悟空が桃園の番をした話や、仙人の住む国には一年中咲きほこるこの世とはおもえない花の森があるという話をおもいだした。


 もしかしたらあの老人は、本当にお釈迦様しゃかさまの使いだったりして?まあ、この異世界にお釈迦様がいるかはわからないけれど。


 「ピョン、本当にありがとう。助かったよ」

 満腹になったお腹をでながら草歩はお礼をいった。


 ピョンはてれたように耳をくいくい、曲げた手の指でこすりながら、

 「いいえ。兄貴あみきの役にたててうれしいですミ」


 と嬉しそうだ。

 お腹がいっぱいになると、どうしてもまぶたが重くなる。


 ピョンは早速、柔らかそうな草原の上に転がって、スースー寝息を立て始めている。


 草歩は寝ずに頑張って、それを老人に見せつけてやるつもりだったのだけれど、自分でも気がつかないうちにいつの間にか眠りに落ちていた。


 

 朝、目が覚めると日がすでに高かった。


 ハッとしてあたりを見ると、ピョンはまだ鼻ちょうちんを膨らませてだらしなく眠っている。老人とチェスナの姿は寝床から消えていた。


 首を回して見える範囲にはいないようだ。

 くそ、また無視された。


 草歩が立ち上がると、昨日二人が指していたテーブルに皇棋盤が置いてある。

 でも、なんだかコマの配置が妙なので、近づいてよく見てみる。


 相手側の王が右上の角から3つ目に置いてあって、その周りに桂馬、香車、馬、銀が置いてある。

 こちら側の配置は結構複雑だが、王様がない。


 「王」がないってこっちの負け?でも。

 あっ、と草歩は気がついた。


 これは、『詰将棋つめしょうぎ』ではないのか?『皇棋』だから『詰皇棋つめこうぎ』とでもいうのだろうか?


 「詰将棋」では普通、詰ます相手の「王」しか存在しないのだ。

 『相玉形そうぎょくけい』と呼ばれる攻め側の「王」がある形もあるけれど、それは特殊な形だ。


 草歩はさらに周りも見る。

 盤の周りには使われなかったコマがバラバラに散らばっていて、「詰将棋」で指定される持ち駒を見分けることができない。


 あ、でも『皇棋』では持ち駒が使えないから考える必要はないのか。

 あとは『能力』だけれど。


 こればっかりはわかりようがない。そもそも草歩は『皇棋』の能力を、自分も含めて3つしかしらないのだ。 

 腕組みをして盤面を見つめ、一つ一つコマを確認してゆく。


 『詰将棋』では「連続王手」でなくてはいけないとされているけれど、『チェスプロブレム』は必ずしも「メイト」をかける必要はない。ただそれが、最終的に指定された手数でチェックメイトするための必然手順である必要があるだけだ。


 『詰皇棋』はどっちなんだろう?

 わからない以上、ともかく『詰将棋』として考えるのがいいだろう。


 普通の詰将棋だったら、相手の『王』(『ぎょく』で表示される)はこちらの使用ゴマと持ち駒以外の全てのコマを持っていて、離した王手に対してはコマを打ってくる『合駒あいごま』をしてくることが考えられるが、それがないのはある意味考えやすい。


 それにこちらも持ち駒を打つことがないし相手のコマをとっても打てないから、最後にコマを持って詰ます『持ち駒余ごまあまり』という詰将棋における不正解手段を気にする必要もない。


 よし、持ち駒なし、合駒なしの詰将棋として考えてみよう。

 草歩はじっくりと考えに没頭してゆく。


 最初は考えやすいと思っていたけれど、読んでも読んでもうまい順がわからない。

 相手の馬がかなり強いし、打てないから盤上にいるコマでなんとかしないといけないんだけど、どうしたらいいんだ?


 ぐむむと唸っていると老人の鼻歌がすぐ近くで聞こえて驚いた。そういえば意識していなかったけれど、だいぶ前から耳には入っていた気もするな。


 相変わらずお酒を飲んでいて、こちらへフラフラと歩いてくる。

 草歩がこれだけ近くで盤を見つめているのだから、流石になにか反応があるかとおもっていたのだが。


 昨日座っていた席にどっかり腰をおろし、見ていた盤面を手荒にくずすと、

 「チェ〜〜〜スナや〜〜〜〜〜〜〜い。一局手合わせしてやるぞ〜〜〜〜〜〜〜い」


 と大声で獣人に呼びかけて、ふんふん歌いながら自分の陣営のコマを並べ始めた。

 なんてお爺さんだ。


 さすがに草歩は失礼じゃないかと思って声をかけようとしたが、そっちがそのつもりなら、とぷいと昨日座っていた土の上にまたどっかりと座り込んだ。


 この人は本当はただの変な人なんじゃないか?自分の見立てが間違っているかな?


 とちょっと悩んだし、やってきた獣人が草歩の横、ほんの10センチくらいの横を通ったのに完全に無視して老人の向かいに座ったのも気に食わなかった。


 挨拶くらいするんじゃないの?普通。

 二人が指し始めると、また老人の妙な鼻歌と、パコーンと高い駒音が聞こえ始める。


 それも気になったけど、今の草歩はさっきの盤面の方に気持ちが向いていた。石を拾って目の前の地面に升目を描き、さっき見た盤面を再現してゆく。


 ここに『ぎょく』、ここに馬、ここに桂馬で香車。あとはこっちの陣営じんえいが。


 なんとか間違えずにかけていると思う。草歩の実力ではなかなか正確に長時間記憶するのが難しいから、対局を見ることよりも、早く描いてしまいたいのもあったのだ。


 しかし改めて考えても全然うまく行かない。


 ピョンが気を聞かせて持ってきてくれた果物を食べながら、地面とにらめっこして時間をかけて考える草歩。

 いつの間にか老人とチェスナの対局が終わってもまだ解けていなかった。


 「チェスナのまけ〜〜〜〜〜えぇ〜〜〜なりぃ。掃除当番、よろしゅうねぇ〜〜」

 老人に言われてチェスナが掃除を始める。


 と、なんとよりによって草歩の目の前を竹ボウキで掃き始め、頑張って描いた『詰皇棋』の図面を消してゆくではないか。


 「ああ〜〜〜〜〜!!!!ちょっと待った、ちょっと待って!!」


 慌てて草歩はその上に腹這はらばいにおおいかぶさるが、チェスナは見えないかのように遠慮なく草歩の顔や手足の上を掃いてゆく。

 「いててててっいてっ、やめっやめてくださ〜〜〜い!!」


 チェスナの力がとても強いので、ホウキでただ履いているだけなのに草歩はゴミの一部のように体を転がされ、情けない声を上げながら掃き集めた落ち葉や花びらに混じって掃き飛ばされた。


 そしてゴロゴロ転がり木にぶつかって、ホコリだらけの落ち葉まみれになってお尻を突き出して倒れ込む。


 はあ、ひどい、酷すぎる。

 あまりのことにしばらく動けないでいる草歩に、老人がかっかと笑っていった。


 「あ〜〜、今日はでっけえぇ〜〜ゴミがあるなあ〜〜〜っと」

 「ゴミとは失礼じゃないですか!」


 ガバッと飛び起きた草歩は、髪の毛から落ち葉を飛び出させ、顔中を土埃まみれにしながら怒って答えた。

 老人は耳の穴を小指の先でほじると、その先をふっとふいて、


 「かっかっか。オイラの耳もイカレッちまったらしい。それとも近頃んゴミやぁ、口ぃ聞くんかいな?かっかっか」


 と高笑いだ。

 「僕はゴミじゃありません!天沼草歩って立派な名前があります!」


 草歩はぶんむくれながらも、初めてお爺さんが口をきいてくれたので内心では喜んでいた。


 お爺さんは興味もなさそうにちらっと草歩に(ここにきてから初めてのことだ!)目をやると、指先でちょいちょいと招くような仕草をした。


 (やった!ようやく僕を認めてくれた!)

 あんまり笑顔をこぼさないようにして、草歩はお腹のなかで万歳ばんざいをした。

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