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12・ようやく到着!師匠の住みかは桃源郷?

 ナチータの話を聞いて、落ち込んだ草歩の気持ちをさっしたピョンに、


 「兄貴あみきなら絶対大丈夫ですミ!!必ず!!

 きっと!多分。


 おそらく、うミく行けば。

 ミしかしたら。可能性は…。


 万が一なら……。


 ………。


 モしだミでも、ナチータさんに教わればいいんですミ!」


 などと、励ましてるのか諦めてるのかわからない言葉をかけられながら、草歩は先へ進んで行った。

 先には高い城壁じょうへきが迫り、首都の外れに来たようだった。


 もともとそのあたりは岩山だったようで、城壁は岸壁がんぺき自体を一部として取り込んで、その上を横切るように崖の上に向かって続いている。


 かべの内側ではあるけれど山になっているまばらに木の生えた岩場を登ってゆくと、先の方に煙が上がっているのが見えた。

 見つけたピョンが嬉しそうに耳を向ける。


 さっきまでは、本当にこんなところに人がいるのかとぶつぶつ言っていたのに、見つかったらもう喜んでいるのはわかりやすい。


 「誰かがなにか歌ってミすけど?」

 とピョンは不思議そうな顔でいう。


 先を進んでいくと草歩にもその歌が聞こえてきた。

 歌と言っても鼻歌に適当な言葉をつけて自分の好きなリズムにしたような、取りあえず機嫌きげんがいいことだけは伝わってくる、そんな歌だった。


 「せん〜〜ど〜〜う〜〜おお〜〜くして〜〜〜、船〜〜〜やま〜〜〜〜へえぇ〜〜〜のぼるう〜〜〜〜〜。指し手が〜〜〜〜〜〜なっちょらん〜〜〜〜〜!!!」


 そしてパコーンと木槌きづちで板を叩いたような気持ちの良い高音が響いた。


 「なんだかたのしそうですミ」

 ピョンは妙な歌とリズムに乗った打音だおんに、何か面白いことをやっていると思ったみたいだ。


 「うーん、どうかなあ」

 草歩はそうも思えず首をひねりながら先を急いだ。


 一体何をやっているんだろ?


 山道を上り終えると開けた場所にでた。岩山の上なのにそこだけ草地になっていて、薄黄うすき色の綺麗きれいな花を咲かせた大きな木が一本立っている。


 奥には岩棚いわだなから流れ落ちる滝があって、その下の滝壺たきつぼんだ池につながっている。


 池の周りにはあわい色合いの可愛らしい花がたくさん咲いていて、向こうに流れているらしい川の奥は竹林になっている。


 まるで中国の仙人の住む桃源郷とうげんきょうだ。


 ピョンは美しい景色に目を輝かせ、鼻をヒクヒクうごかしてあたりにただよううっすらと甘い花の香りを嗅いでいる。

 草歩も景色に感激してしまって、しばらくぼうっと綺麗な眺めを楽しんだ。


 「いく〜〜〜は〜〜〜よ〜〜いい〜〜〜よ〜〜〜〜い〜〜〜〜、かえり〜〜〜〜〜い〜〜〜〜はぁ〜〜〜〜こわい〜〜〜〜と。なりごま〜〜〜〜とらえた〜〜〜〜〜〜〜ぜっ!!」


 パカーンというまきでもったのかという甲高かんだかい音に草歩とピョンはビクっとしてそちらを見る。


 景色に夢中で気がつかなかったが、木の下、みきの後ろにかくれているところに誰がかいるようだ。


 煙はその後ろの石を積んで作ったかまどから立ち上っていて、乗っている鍋にはお湯がいているようにみえる。


 草歩とピョンは歌声とおかしな音の聞こえる場所に、なんだろうと不思議に思いながら近づいてゆく。


 そこにはあの白髭のエルフの老人がいた。左手に瓢箪ひょうたんを半分に割った器を持って、それの中身を時々飲んでいる。赤い顔をして楽しそうなところをみると、お酒に違いない。


 ところが向かい合って座っている獣人の表情は老人とは全く違っていた。


 さっき酒場で老人の後ろにいた、猫みたいな獣人だった。全身赤い毛に覆われていて、胸と腰に皮の防具をつけている。


 体つきから女性のようだが、大柄おおがらで、腕も足もがっしりとしていて、毛皮越しにもその筋肉の発達具合はったつぐあいが見て取れる。


 きっとナチータが、獣人の弟子をとっていて彼女は強い、と言っていた人に違いない。


 その猫というか大きさから言うと虎みたいな獣人が、ものすごい真剣な、苦しそうな表情をしてウンウンうなっている。


 あごに手をやったり、尻尾をグルグル回したり、考える苦しみが手にとるようにわかる。

 二人の間には、立派な木の皇棋盤こうぎばんがあった。


 皇棋を指していて、老人は楽しそうに、獣人は苦しそうにしているのだ。


 獣人は盤の横の砂時計をちらりと見て、苦しみながらも決断して一手さした。そしてよこに倒す。老人は自分の砂時計を立て、酒をちびりと飲んで考える。


 二人の横にそれぞれ砂時計があるので、きっと切れ負けでやっているのだろう。


 「へたあ〜〜〜な〜〜〜〜〜かん〜〜がぁ〜〜〜〜え〜〜〜〜〜え〜〜、やすむ〜〜〜〜に、にたり〜〜〜。まようなら〜〜〜〜〜初志貫徹しょしかんてつが〜〜〜〜きちとでる!!!」


 そしてパッッカ〜〜〜ンとあの拍子木ひょうしぎを打つような、木琴もっきんをハンマーで遠慮えんりょなく叩くような、ものすごくのびやかな木の音がひびき渡る。


 これは、老人がコマを盤に叩きつける音だったのか。

 草歩はすっかり唖然あぜんとしてしまった。


 将棋でも『駒音こまおと高く』という表現があって、威勢いせいよくコマを打ち付けて指すことがある。気合の現れだったり、勝負手しょうぶての意気込みだったりして人間らしくて面白い部分ではあるのだけれど。


 それにしたってこの音はすごい。駒が大きいから本当に楽器のような響きが鳴って、そこに老人の個性と決断が含まれている。名人の仕草はなんでも芸術だと言うけれど、この人は桁外けたはずれだ。


 鼻歌と相まってり成される老人の『皇棋』ワールドに、見ている草歩もすっかり引き込まれ、黙って試合を見守った。


 かなり終盤で、お互いの『能力』設定もわからないので正確には状況を読めなかったが、獣人の王に老人のコマがおそいかかっているのはすぐにわかった。


 そして苦しみながら逃げる獣人を、冷酷れいこくな狩人のように駆り立て、待ち伏せ、追い詰めて、間もなく老人が勝利したようだった。


 「ふーーーっ」

 息が詰まるような熱戦に、終わったときに草歩も思わず息をらした。


 あんなに酔って適当に見える老人の指し手があまりに力強く隙がないので、人間どうしの戦いというより、獣人側が決してはじき返せない機関車に無慈悲むじひに押しつぶされるような印象で、見ていて怖さを感じるほどだったのだ。


 「かあ〜〜〜〜〜〜っかっかっかっかっか。今日の夕飯当番もチェスナにきまりぃ!!」


 高笑いをする老人にチェスナと呼ばれた赤毛の獣人は丁寧ていねいにお辞儀じぎし、コマを片付け始めた。


 「あの!こんにちは!」

 草歩は思い切って声をかける。


 しかし、老人はきづかないのか瓢箪ひょうたんの酒をぐいと飲み干すと、フラフラと立ち上がってかまどの方へ向かう。


 「じいん〜〜〜せいぃ〜〜〜いを〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜ばぁ〜〜〜〜。すべか〜〜〜〜ら〜〜く〜〜〜〜〜かあん〜〜〜〜を〜〜〜つくす〜〜〜〜〜〜べし〜〜〜〜〜」


 などと鼻歌は続き、お湯に浮かべていたと見える瓢箪の入れ物から燗酒かんざけうつわに注いでいる。


 獣人の方も同じで、コマを片付け終わると立ち上がり、草歩の方に歩いてきたが一瞥いちべつもくれずに通りずぎる。


 ピョンはそんな二人の態度が怖くなったのか、草歩の後ろに隠れてシャツのすそをつかんで様子を伺っている。


 「あの、すみません!!僕、天沼草歩です!!」

 草歩はさっきよりも大きな声で呼びかける。


 「お爺さんに『皇棋』を教わりたくて、たずねてきました!!!!」

 しかし相かわらず返事はない。


 グビグビと酒を飲んで老人は奥にある東屋あずまや寝椅子ねいすにゴロリと横たわってしまったし、チェスナは川へざぶざぶと入って行き何かをしている。


 なんだろう、と見ていると電光石火でんこうせっかの動きで、水面をすくうように爪を立てた手を振ると、高く上がった水しぶきの先に大きな魚がはねあげられている。


 そして魚は草歩たちの近くまで飛んできて落ちてビチビチと跳ねる。


 「「うわっ」」


 思わず二人は声を上げた。

 すごい、まるで熊みたいに川の中にいる魚をとってしまった。


 チェスナは続けてもう二匹同じように魚を跳ね上げ、またもや近くにいる草歩たちを無視して地面の魚を拾うと、かまどに行って焼き始めた。


 ちくしょう、とことん僕のことを無視するつもりだな!

 草歩は腹が立ってきた。


 こうなったらこんくらべだ。どこまで無視できるかやってもらおうじゃないか。気に入らないやつは一言も口を聞かずに追い返すとナチータは言っていたけど、僕はそうはいかないぞ!


 草歩は地面にどっかりと座り込むと腕組みをして老人とチェスナを睨みつけた。

 こうなったら相手が認めるまでテコでも動いてやるもんか!!!

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